目覚め
涙も枯れ果てた。

もう泣くものは何もない。

感情さえも消えた。

彼らに与えるものはもう何もない。

でも、わたしはダガーが目の前で召喚獣を抜き取られていくのを、ただ黙って見ているしかなかった。

結局は、弱っていくダガーを見ている事しか出来なかった。

今だってジタン達に助けられなかったらきっと、このまま何も出来ず…死んでいったのかもしれない。

だからこそ、このチャンスを見逃すわけにはいかない。


わたしは本に魔力を込めるのと同じように、ダガーの身体に魔力を注いだ。


「待つのじゃ、シズク殿! そのような身体で無茶をすれば…―――!」


フライヤさんの焦る声が聞こえた。
ああ、嬉しいな…。
フライヤさんもスタイナーさんもビビも……

みんなここにいる。

ジタンが傍にいる。

ジタンが傍にいてくれるから、きっとわたしは無茶が出来る。


そう考えるとなんだかんだで、無茶するのはわたしの方だったね…。


こんなボロボロの身体で、みんなの足手まといになるくらいなら…

あの男の言いなりになって、魔力を与えてしまうくらいなら……



全部、この人たちの為に使いたい。




桃色の光が辺りを包み込む。

そして、ゆっくりとダガーのオニキスの瞳が開かれた。









「ひ、姫さまぁ〜〜っ!」


スタイナーのおっさんが声を上げる。
先ほどまで死んだように眠っていたダガーの目が開いたんだ。

ダガーは状況が最初分からなかったのか、暫し頭を押さえたまま俯いていたが、すぐに華のような笑顔を向けてくれた。


「みんな…!」


顔色も元に戻り、明るいダガーの笑顔を見た瞬間にオレは少しだけ安堵した。
だが、それもそこまでだった。

どさっという音と共に、シズクがその場に倒れ込む。


「シズク!」

「だから言ったのじゃ!」


オレがシズクの身体を支えると、フライヤが反対側でその顔を覗き込んだ。


「やはり、魔力が底をついておる。魔力の根源が消えかけておるのじゃ…」

「どうすればいいんだ!?」

「エーテル…じゃあ駄目なのかな? 魔法力回復するよ!」

「エーテル程度では焼け石に水じゃ。ここまでの症状は私も見た事が……」


ビビの提案もフライヤの一言で消え去れば、一体どうしたらいいのかと拳を握りしめる。

ダガーがスタイナーから事情を聞いたのか、焦るようにシズクの手を握った。


「冷たい…、とにかく今は少しでも温かい所へ行きましょう!」

「あ、ああ…そうだな…」


ダガーの提案を拒む理由はない。
オレはシズクの身体を抱き上げると、ダガーの案内で地下室を出て行った。

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