「兄様?」 静かに部屋のドアを開ける。 其処は寮のシンボルの緑でも銀でもなく、黒を基調とした部屋。 暖炉の灯とランプの微かな明かりが燈る。 緑の炎をその灰色の瞳に映し兄はソファに座って居た。 「レギュ」 弟の存在に気付くとその瞳をゆっくりとレギュラスに向ける。 「大丈夫?酷い顔色だよ」 「ああ……」 力無い声で応える兄。 それでも微かに笑顔を見せた。 淡い光に照らされた顔はいっそう血の気が薄く、人形の様だった。 レギュラスも隣に腰掛ける。 「具合は悪くない?」 「大丈夫………」 そう云うシリウスの表情は全く大丈夫に見えなかった。 相変わらず暖炉の炎を見詰めるばかりである。 レギュラスは兄の頭を自分の胸に寄せ、もたれ掛かけさせた。 「レギュ?」 「暫くこうしてると良いよ」 「ありがと………レギュ」 安心しきって寄り添う兄。 可愛くて仕方が無かった。 小さな子供を宥める様に頭を撫でてやる。 どちらが兄で弟だかわからないなと心の中で思った。 「なあ、レギュ………俺穢い?」 ぽつりと呟いた言葉。 突然聞かれた事に少し戸惑い、聞き返す。 何故そんな事を聞くのか解らなかった。 「どうしてそんな事云うの?」 兄の肩は震えていた。 得体の知れない何かに怯えている様だった。 「俺、混血の女に触れられたんだ……! 穢れた血が半分も通ってる奴に……………ッ!!」 兄の声に段々と嗚咽が交じる。 自分と異なる者に対しての嫌悪と恐怖。 「もうやだ俺、どうしたらいいか解んねーよッ ちょっと触れられただけなのに……… 体中が否定するんだ、拒むんだ………穢れた血を……」 ぼろぼろと涙が顔を伝う。 辛そうな兄を見ているのが痛々しかった。 どうして同じ兄弟なのにこうも血に対する感じ方が違うのか。わかってる。 他でも無い自分達家族の所為だ。 そう、兄をこれ程迄に”純血”に縛り付けたのは 家なのだ。 「兄様は何も穢れてなんかない。誰よりも綺麗だ。」 壊れ物を扱う様に、抱きしめる。 兄は昔は輝く様な笑顔を見せていた。 何にも染まらない彼自身の色を持っていた。 しかし家族は逸れを黒く塗り潰してしまったのだ。 純血が、自分達”ブラック”こそが何よりも汚れない存在なのだと。 まだ幼かった兄の無垢な心に信じ込ませたのだ。 「穢れた血が兄様に触れたって、貴方の美しさは変わらない。兄様には高貴なブラックの血が流れているんだから。」 それからずっと兄の瞳に光が燈る事は無かった。 まるで操り人形の様に家の教えに忠実に生きてきた。 そんな異常とも言える躾を受けて感情を表さなくなった兄を見て少し淋しさを感じたが、それでも良かった。 兄が人を寄せつけないならずっと一緒に居られる。 自分が傍に居てやればいい。 幼い心に芽生えた歪な感情をずっと育ててきた。 兄弟としての愛ならもうとっくに通り越してる。 「僕が兄様の傍に居る。」 これなら兄は、ずっと自分だけを見てくれる。 端から見たら狂ってるとも云えるのかも知れない。 「ほんと……?ずっと俺の傍に居てくれる?」 「うん、僕だけは兄様から離れたりしない」 その言葉を聞いたシリウスは弱々しく微笑んだ。 涙でぐしゃぐしゃの顔。 光の燈らない瞳。 逸れなのにどうしてこんなにも美しいのだろうか。 少し首を傾げて見詰める姿は本当に壊れてしまった人形の様だった。 そんな兄の異常さすらも愛おしい。 自分が居ないと何も出来ない兄。 壊れた様に笑う兄を見てレギュラスもまた顔を綻ばせる。 「腕を見せて。消毒してあげる」 指で涙を拭ってやる。 「レギュ、だいすき。」 紅く腫れた眼を細め右手を差し出す。 弟に全てを捧げる様に。 兄の滑らかな手首に唇を落とす。 誰も寄せ付けない為の詛い。 ずっと閉じ込めておきたい。 この壊れた人形を。 愛してあげられるのはきっと僕だけなのだから。 −−−−−−−−−−−−− いつの間にかヤンデレに…… うちのレギュはどうも愛が歪んでるようですね 小さい頃何があったのかは追い追いとやっていきたいです |