つないでおきましょう







「…………………」

何故。
その言葉がまず頭に浮かんだ。目の前の状況が飲み込めない。

レギュラスは、自身のベッドで眠っている人物を見下ろした。
クィディッチの練習を終え、シャワー室で体に着いた泥と汗を流して部屋に向かった。疲れた体を一刻も早く癒したいと寝室のカーテンを開けたとき、予想外の事が起こった。

普段同じ寮の中でも彼に近付こうとする者は少ない。
それはきっと自分に流れる血が関係しているのだろう。
スリザリンの生徒は皆純血だが、ブラックとなるとやはり周囲が自分に向ける目も違ってくる。
古くから伝統と誇りを持ってきた格式ある家柄だ。
同じ部屋の生徒も、あからさまに避けたりはしないがそれでも他の蛇寮生とは違う扱いをする。
気安く話し掛けようとする愚か者はいない。
ましてや彼のベッドで眠るなんて。

此処に居るのは少なくとも寮の者ではない筈。

となると性質の悪いストーカーか、余程の方向音痴か、もしくは…………

「………ルーモス」

杖の先に燈る光。
橙色の光が照らし出したのは綺麗な黒髪と彼に似た、整った顔。
薄々とは感づいていた。

「兄………様……………?」

誰にも聞こえない声で微かに呟く。
聞こえるのは定期的な呼吸音。
唯一の兄弟で、自分とは敵対する獅子寮の生徒である兄がそこにいた。
事も有ろうに、最も疎んじ忌み嫌う寮の部屋でのうのうと眠っているとは。
どういう神経なのだろうか。
その呆けた寝顔を見て溜息をつく。

(……………でも、こうして見ると)

可愛い。

実の兄弟、それも同性にこんな感情を抱くのはどうかと思うが、そんな自分を抑制する機能はとっくに故障している。

どうやって入ったんだ、とか何でレギュラスのベッドで寝てるのか、とか疑問はどんどん溢れてきたが、彼に聞いてみなければわからない事だ。

まずは起こそう。




無防備な姿で寝ている兄の上に被さり、頬に触れる。
そのまま噛み付く様に口づけた。

「ふ……………んんっ……?」



苦しそうにしているのも無理もない
いきなり口を塞がれ、息が出来ないのだから。

それでもレギュラスは行為を止めなかった。




「……………っは……い
、い加減にしろ!!」

レギュラスの首の衿を掴み、無理矢理自分から離した。
目には涙を溜め、息が揚がっている。


「おや、起きたみたいですね。」


きっと鋭い視線を当てる兄。
そんな兄に怯む事なく柔やかに見詰める。
穏やかな態度に余計腹を立てたシリウスが怒鳴り付けた。

「どういうつもりだ!!何であん………………っっ」

言いかけて、遮られた。
口がレギュラスの手で塞がれる。


「余り騒がないで下さい、周りの生徒が起きてしまうでしょう………?」

「ん……………!」


子供を宥める様な口調で話す弟を睨みつける。


「僕なりに気を使ったんですよ。
起きた瞬間大声を出されない様にしたんです、解って戴けますか?」


こくこくと首を縦にふる。
苛立ちは収まらないが一応は理解できた。
また窒息させられるわけにはいかない。

やっと口が自由になった。



「それで、どうしてこんな所に居たんですか?」


「あー………まあ何つーか…………」


「まさか自分の寮を間違える程馬鹿ではありませんよね?」


「んな訳ねーだろっっ」

「兄様なら部屋を忘れるなんて十分有り得ますね」

「だから違げーって!
だから、その…………お前さ………」


下を向いてもごもごと呟く。
更に声が小さくなった。

「だって………………じゃん」

「え?」


聞こえたのは今にも消え入りそうな声。


「最近お前構ってくんねーじゃん」


「…………………」



本日二度目の硬直。

下を向いているので顔は見えないが、シリウスの耳は紅に染まっている。

(こっこれはまさか…………!)

いつも気丈で傲慢で能天気な兄が照れている。
それにこんなに素直になるなんて。
何と言う由々しき事態か。

明日はきっとバタービールが降るだろう。


「や、お前がクィディッチの練習で忙しいこともわかってるよ…………… それにお互いの立場もあるし、あんま人目につくのは駄目だし、仕方ねーって思ってるけどさ…

それでもちょっとは話したくて部屋に人が居ない内に入っ…………………って何笑ってんだお前!!」


「ぶっ……………だって兄さ…………ははっっ」


シーツに顔を埋めて笑いを堪えている弟を再び怒鳴りつける。

しかしレギュラスにとってそれすらも愛おしい。


レギュラスは滑稽さよりも寧ろ悦びの方が大きかった。
いつもの兄なら絶対見せない表情もそうだが、何より兄が自分を必要としてくれている事が嬉しかった。

彼が自分と同じくらいレギュラスを欲していることが。



「ははっ………だって兄様があんまり可愛い事言うからさ……」


「かわ…………っお前!!」


怒りと恥ずかしさに震える兄の髪をくしゃっと撫でてやる。
こうしているとどちらが兄で弟だかわからない。


自分と同じ所有欲と独占欲を持っている彼。

それは血の繋がりの所為なのか、それとも


「兄様、それは光栄だけど夜中に他の男が居る部屋で眠るのはどうかと思うよ………?」


「は?だってばれなかったから別にいーだろ」


きょとんとした顔で見上げるシリウス。

やはり似ている様で似ていない。
肝心なところでわかっていない。


「貴方が意識していないだけで下心のある者が寄って来るんです。」

「ねーよんなもん」


無意識に魅力を振り撒いて人を寄せつけるのが兄の悪い所だ。

女だろうと男だろうと

純血だろうとマグルだろうと

身内は疎か、敵対する寮の人間でさえも

しかも当の本人は全くの自覚無し。



「僕が嫌なんです。
他の奴が少しでも貴方に近付き触れるのが」


とても耐えられない。

自分の物を取られるのが。
これはきっと幼く醜い感情。





「じゃあ鎖にでも繋いどけば?」


そんな弟の心を見透かした様に笑う。
ぞっとするほど艶めかしい表情。


「それなら俺はずっとレギュの物だろ?」


シリウスの左手がレギュラスの頬に触れる。

触れられた体温は冷たい筈なのに、まるで発火する様で。


「それも良いかも知れませんね………でも」


頬に触れた手を取り、ゆっくりと押し倒す。

白いシーツに流れる黒髪が美しい。


「僕は痕を付ける方が好きですけどね」


見開かれた瞳が細められる。


「俺も、そっちの方がいいな」




きっとこれは幼稚な所有欲、下らない独占欲。

それでも良い。

大切なものは閉じ込めて置きたい。

目に見えるくらい重く痛々しい鎖が調度いい。


それが出来ないならせめて


君の純白を紅い華に染めさせて。












(でも鎖に首輪ってプレイも有りですね)

(いやねーよ)

(犬耳も付けてみますか?でも兄様なら猫耳も似合うかも)

(兄ちゃんの話聞けよ……)




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という訳でどーどー様リク、「甘い黒兄弟」でした!
あれ、甘い………のか?
お待たせした上にこんな不出来なものですみませんっ
相変わらず意味不明なことに…………おぅふ
二人が依存し合ってる感じを出したかったのですが…
弟→→→→←兄
に見えて結構
弟→→→→←←←←兄
なイメージです。
レギュもガンガンいくけど兄様も挑発的。知らんがな
もうこれただの変態な弟とアホな兄だわ!
やだもうこいつら!
ちなみに同じ部屋の生徒はシリウスが騒いだ辺りから皆起きてます(笑)
後でレギュになんかされるのが嫌だからこっそり出て行きました
さすが蛇寮生!気が利きますね!


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