「あれ……………」

ぱたり、と

本を読んでいる手に水が落ちてきた。


頬を伝ってどんどん溢れてくる生暖かい水。

ああ俺泣いてんのかと理解した時には、もう止められなかった。


込み上げてくる感情を
押さえ込む術を知らない


「はっ……………もう涙なんか枯れたもんだと思ってたんだがな…………」


渇いた笑い声が響く。

いつまでも前に進めない俺を君は笑うだろうか。


絡まり合った複雑な気持ちを閉じ込める様に屈みこむ。

この気持ちに蓋をして鍵をかけてふさぎ込めればいいのに。

体中で押さえ付けても流れ出てくる感情は止められない。



「もうあの日から何年も経つってゆーのによ………」




シリウスは昔ジェームズの秘密の守人だった。

しかしその役目をピーターに託してしまったのだ。

それが最善の方法だと思ったから。

彼が裏切り者だとも知らずに。



自分の過ちのせいで大切な人とその妻を亡くしてしまった。


命に替えても守ると決めた無二の親友。


「何でだよ……………
何で俺じゃなくてお前なんだよ………………っっ」




壁に拳を叩きつける。

じりじりと傷んだ。

心の方がずっと痛かった。



あれから自分を許せたことは一度だってない。

自分の無実が一部に知らされ、周りの者にお前の責任じゃない、気にするなと言われた。

どんな慰めの言葉もシリウスの耳には入らなかった。

込み上げてくる自分自身への怒りと友を失った哀しみ。
やり場のない感情を拳にぶつけた。


悔やんでも嘆いても取り戻す事の出来ない時間。















がちゃり



「シリウス」


「!ハリー」


入って来たのは親友の息子。
ノックされても気づかなかった事に驚いた。

泣いてることに気づかれないかと少し焦る。





「ごめん、ノックはしたんだけど聞こえてないみたいだったから……………」



少し心配そうに微笑んだ。
その姿を見ると、かつての親友を思い出す。

本当に瓜二つだと思う。


「そうか、すまない考え事をしていたんだ。」


そう言って顔を逸らす。
泣いていた事を知られたくない。

弱い部分なんて見られたくない。


気づいてない……よな


「シリウス」



ドアの方から歩み寄ってくる。
自分に目を向けないシリウスに近づいて。


「手、怪我してるね」


「あっいや、これは…………」

隠す様にしていた手を取るハリー。



「なあハリー」


「うん?」



「ハリー、君は」


お父さんとお母さんに会いたい?
寂しい?

君から全て奪ってしまった私を恨んでる?


どうしたら罪を償える?


どうしたら君を幸せにできる?



君は私に何を望む?



どうしたら、どうしたら







わかってる



それを君に聞くのは卑怯だ


とめどなく溢れてくる謝罪の言葉も、結局は自分を許してもらいたいだけのいいわけ。


言葉を紡げない。

下を向くことしかできない。







「シリウス」



掌を包みこんでいた手が頬に触れる。


「大丈夫だから、全部独りで背負い込まないで」



ハリーの指が頬に落ちる水を掬いとる。


いつのまにか泣いていた。



「ハリー、ごめん………ごめん……………」


しゃくり上げるように
消え入りそうな声をあげる。

何度も謝った。

今更どうすることもできないが、それでも謝った。

そうすることしかできないから。


「シリウス、僕を見て」


真っ直ぐにシリウスを見つめる瞳。
唯一母譲りの緑色。

その瞳に見えるのは彼自信だ。



「シリウスはいつも僕の事を護ろうとするけど、僕の事で自分を責めて欲しくない」



「私は……………私のせいで君の父親を……っ」


目を逸らし下を向く。

自分を許す?
どうしてそんな事が出来ようか。

この手に残るのは後悔ばかりだ。


「私は君に幸せになってもらいたいんだ……………



今も昔も、これからも

望むことは一つだけ

でもその幸せを君から奪ってしまったから





「シリウス」

今までよりずっと強く手を握り締める。
思わず顔を上げた。


「シリウスが自分を許せないなら仕方ないと思う。
忘れられないなら忘れなくていい。
それが貴方が抱えてきたものなら、でも………」




すっともう一方の手を伸ばし、涙の筋をたどる。


「僕は貴方を幸せにしたい」



そう言って微笑んだ。



「シリウスが一緒に暮らそうって言ってくれた時、本当に嬉しかったんだ。貴方が傍にいて、笑ってくれたら、それが僕の幸せなんだよ?」



また水が落ちてくるのがわかった。

さっきまでとは違う涙。



嗚呼、君は本当に君の父さんそっくりだ。


そうやって痛みを包みこんで

どうってことないさ、と笑う。

私は何度もその手に救われた。



「僕はどうしたらシリウスを幸せにできる?」


さっきのシリウスと同じ問い掛け。




「私の、幸せ………?」


少し考えて、照れながら
笑った。





そんな事は決まっている




小さな声でぽつりと呟く。


それを聞いてハリーも笑った。







(君と一緒に夕食を食べられることかな)




君と私と一緒に笑って居られること



−−−−−end−−−





ハッポーえんどにしたかった
よくわかんなくなっちまいました
「僕を見て」は印象的な台詞なので言わせたかったのです
この二人は一緒に暮らしてほしいなあ
シリウスは料理作れるのかしら………





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