いぐるあるてずむ
最初の文章はノートの端っこにひっそりと表れていた
『わたしは』
書いた記憶もない文字だった。自分の筆跡と異なるそれを僕はいぶかしく思いながら消した。
『ほんのなか』
次の日はこう書いてあった。
『おまえのほんのなか』


シグもアミティもリデルも、僕の知り合いは皆その文字を見て知らない筆跡だといった。シグなんかはメガネが寝ながら書いてるとか、と寝ぼけたことを言いながら僕のノートの端っこに書かれた文字をなぞっていた。
「メガネのほんのなかにいるのかー」
「いるわけないだろ」
「でも書いてある・・・」
「いたずらだろ、いたずら」
いったい誰がこんなことをしたのだろう。しかも僕の目を盗んでの犯行だ。消しゴムでノートの端っこに書かれた文字を消したあとに僕は首を傾げた。
『わたし』
消したはずの文字がまた浮かび上がっていた。
「シグ」
「んー」
「これ、書いたか?」
「ん?ううん」
濡れ衣だぞ、と言いながらシグは左手にとまらせた天道虫を上に掲げた。空に向かって飛んで行ったその虫を見送ってから、僕はまたノートに目を向けた。
大人が書くような達筆なその字体は、不思議とどこかで見たようなそんな気がした。


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bkm
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