紫陽花の葉上にて
あやくるとか・・・そのうち書きます。原作はプレイしてません。思った事だけを書いてます。小説の順番はバラバラです

ツイッターでも言いましたが青い魂、赤い魂をつないだのがクルーク(紫)であり紫陽花の色は基本紫が主体になってる、という事実が萌えで仕方がないのであやクルは最高


これは運命だ。
「メガネは、本の虫だなー」
「・・・うるさいな、シグ。僕はいまこの魔導書を読むのに忙しいんだよ」
しっし、と犬猫を追い払うかのように少年が水色の髪をした少年に向かって手を振ったのを見て私は思わず叫びだしそうになった。そいつだ!そいつなのだ、私の半身は、遠い昔に分離されてしまった、私の肉体は・・・・。あれほど焦がれていたものがこうもあっさりと見つかるとは思ってもおらず、私は監獄の中で身を固まらせた。逃げてしまう、となぜか思ったのだ。
「何の本読んでるんだ?虫の本か?」
「あのな、僕はお前と違って虫には興味がないんだ」
やけにぼんやりとした表情で、私の肉体は私の監獄に触れた。封印を隔てた先にある「自分」に私は気が狂いそうになった。そうだ!あの紅い目の色。硬質で紅い皮膚。顔や髪は少しばかり記憶にあるものと違うが、体に出ている特徴は私そのものだった。ページに触れた手と。自らの手を合わせる。大きさがぴたりと合った。
「むずかしそうだ」
「そうでもない。お前も本を読んでみろよ」
「ん〜・・・いや、いい」
あんまり好きじゃない、といって私の肉体はなぜか頭の上に載っている天道虫に触れた。赤と黒の昆虫の、昔と変わらないフォルムに興味をそそられて身を乗り出すと、肉体は少年の腕にそっとその虫を乗せた。うひゃあ!と驚いた声を出して少年が椅子から転げ落ちて、肉体の姿がよく見えるようになった。あまり表情を動かさずににやりと笑って、肉体は私のはいった監獄に目を向けた。
「メガネの読んでる本・・・」
顔を近づけて、肉体は私の監獄を読んだ。と思えば眉をしかめて頭が痛くなるとつぶやいた。私はその間ずっと肉体を観察していた。あの紅い瞳はやはり私のものだった。おそらく水色の瞳は、私が分離された肉体の瞳だろう。瞳孔の形が人間の物だ。私の瞳は夜でもすこしは見えるので(最も動物のようにはいかないが)僅かに形が違う。
「やっぱむずかしい」
「普段本を読まないからそう思うんだろ」
天道虫が澄ました様子で肉体の頭にとまった。少年が床から起き上がって、忌々しそうな顔で肉体のことを見た。そうかも、と興味なさげに言って、最後に肉体は私が手を置いた場所に同じように手を置いた。目が会ったような気すらした。
「・・・・めずらしいな」
ふらふらと去っていった肉体を見送った少年が私のことを見ていぶかし気な顔をした。あいつが本に興味を持つなんて、と言いながら少年は私の監獄を胸に抱いた。普段通りの鼓動が監獄の中に響いてきた。
「・・・・メガネ?」
「ん?」
闇に包まれる前に、私は自分の名を叫んだ。視界の端に映った肉体が振り向いて、こちらを見た。
「呼んだ?」
「どうして僕がお前を呼ぶんだよ」
これは運命だ。肉体のいぶかし気な声を聴きながら暗闇の中で私はつぶやいた。




失敗に終われば後がないことはわかっていた。当たり前だ、体を乗っ取られて、その後もこんな本を手放さないやつなどいないだろう。無言で歩く少年の腕に抱かれながらただその時を待った。元の棚に入れられて、もうこの本を持つ者など現れない。そんな未来を。
「・・・こんにちは。これ、返却しに来ました」
「あら、クルークさん。こんにちは」
図書館の司書が朗らかに笑って確かに返却されました、と決まった言葉を口にした。女の、ほっそりとした柔らかな手に抱かれた表紙には、おそらく少年の手は伸ばされない。
「どうします?いつものようにまた借りますか?」
少しの沈黙があった。自分にはそれが処刑宣告のように思えた。肉体を取り戻すまでに次はまた何百年待たなければいけないのだろう。百年?二百年?少なくともあの人間たちが語り継ぐ記憶が消えるまでは何もできない。ここで真実を明かされる場合だってある。そうしたら私は、私は、・・・。
「・・・そうですね、手続きを」
しかし、封印の檻の中で頭を抱えた私の耳に聞こえてきた言葉は予想に反するものだった。見えないとわかっていながら、頭上を見上げる。一寸の先も見えない暗闇の中に、私はかすかな光を見たような気がした。
「はい、わかりました・・・クルークさんは本当にこの本がお好きですね」
なんということだろう。柔らかな女の手から、少年の少し骨ばった手の中へと本が戻っていく。抱きかかえられて胸へとあてられたのか、鼓動の音がした。先日、少年の体を奪ったときにも確かに感じた音だった。
「ええ、これは本当に、素晴らしい本なんです」
私はその言葉を聞いて、見えもしない少年の表情を伺おうと更に頭上を仰いだ。司書がほほえまし気に笑った声がかすかに聞こえてきて、少年の鼓動が恥じるようにひと際動きを速めた。
「長年ここで司書をやってきたけれど・・・そんな言葉を聞いたのは初めてですよ。とてもいい本に出合えたのね」
「・・・・はい」
私はまた、少年の胸に抱えられて図書館から出た。どうしても彼の顔が見たくて、少年が本を開くのを私は待った。少し歩いた後に、彼は私の監獄を開いた。始めてみる表情をした少年は、少し唇を尖らせながら私のことを(正確には魔導書の89ページを)見た。
「・・・・赤いマモノが知識者でなければ」
僅かな沈黙ののちに彼は言った。
「僕は決して許さなかったと思う。でも・・・その中はとても暗くて、狭いんだ」
少年はそれだけを言って、また歩き出した。しかし本は開いたままにしていたから、私は外界へつながるページから様々なものを見ることが出来た。彼が歩く道を推測するに、どうやら自分の部屋へ戻ろうとしているようだ。
「太陽のしおり、星のランタン、月の石・・・」
ふと少年のつぶやきが聞こえた。明かりを、と言っているようだった。私はそのまま彼の部屋の、年季の入った机の上に置かれた。開きっぱなしになった本から、私はそっと外をのぞいた。天井と、それから壁にかかっている時計しか見ることが出来なかったが、少年の顔が目の前にないというのはどこか新鮮だった。
「シグと、・・・アミティに・・・」
少年は私の監獄を開いたままにしてどこかに行ってしまった。バタンと音がして、ドアを閉じたのだろうとわかった。私は恐る恐る、また天井を見上げた。時計の針がゆっくりと動いて時を刻んでいるのが見えた。いつも底なしの闇のようだった本の中も、開かれていると随分明るくてまるで別の場所にいるようだと思った。




レムレスの人を笑顔にするってやつ、いわゆる親切の押し売り系かなとおもって下の小説を書きました。闇の魔術師であるってことはたぶん封印のきろくも知ってましたよね、てか知ってたからクルークに教えたんですよね、ってことはとりあえずクルークの喜ぶことはしたけどその後のことは何も考えてないっぽいところが完全に闇の魔術師感あって好きです。悪人ではないんだけど善人でもないかんじがいい


『似ている』
本の中から思ったのはそんな感情だった。暗く狭い、忌々しい封印の中から見上げた少年はどこか昔の自分に似ていた。顔や性格ではなく、もっと根深い部分だ。遠い年月を経て真実が歪み、「魔導書」と呼ばれるようになった封印の記録を広げ、愛おし気に文字をなぞる。少年の口元には笑みが浮かんでいる。それは自らの知的好奇心を満たす本を手に入れた喜びだろうか・・・。遠い遠い昔の、自分も覚えたことのある感情がかすかに蘇って、泡となって胸の奥で弾けた。幸福そうに、淡く笑む少年がまた文字をなぞって、小さく言葉をつぶやいた。
「なんて素晴らしいんだ・・・」
レムレス!と少年が誰かの名前を呼んだ。中性的な声がそれに答えて、かすかに足音がした。こちらからは見えないが、本のそばに来ているのは気配でわかる。
「ありがとう、この本のことを教えてくれて」
「なになに、礼には及ばないさ」
お気に召したようだね、と少年に話しかけた人間が彼の肩に手を置いた。そこで本を閉じられて、中からは何も見えなくなる。久しぶりに見ることが出来た外なのにと手を伸ばしても、それは結界に阻まれて届かない。
「この魔導書はきっと君がほしいものを与えてくれるよ」
「・・・うん、少し読んだだけでもわかる。この本は僕を強くしてくれる」
本を通して伝わる振動から、自分が今まで収まっていた棚から移動していることが分かった。更に聞こえるこのリズムはおそらくこの少年の鼓動だ。規則正しく動く音を暗闇の中で目を閉じて聞く。自分の胸に手を当ててもそこからは何も聞こえない。魂に鼓動はなく、あるのは不定形の霊体だけだ。
「でもレムレス、よくこんな本のことを知っていたね。この図書館は僕もかなり利用していたけれど、こんな本があっただなんて僕は知らなかった」
「ああ、とても珍しい本だからかな。大事にするといいよ」
クルーク、と人間が誰かの名前を呼んだ。
「何?」
「その本を知れてうれしい?」
「うん、とっても」
「それは良かった」
とても。もう一度少年が答えた。彼はクルークという名前のようだ。彼と、レムレスという人間はそれから少し他愛のない話をしたあとに別れたようだった。無言であるく少年が監獄の表紙を撫でた。自分を取り巻く結界が少し震えて、思わずまた上を見上げた。なんて素晴らしいんだ。少年の顔がまた頭上に現れて、ささやいて、うれしそうに微笑んだ。


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