メスバル
別にライスバ目的で書いているわけではなくナツキスバルが巫女になるなら一番近そうでなり替われるのがフェルトだっただけです(思考放棄)
スバルの容姿はスバルがだいたいあのままAAカップになって筋肉はついてるけど体の線ほそくなって乳首がめっちゃ薄ピンクでめちゃくちゃかわいいって思い描いてくれれば





そのピンバッジを一瞬だけフェルトから預かった時だ。スバルの手の中でちかりと光った気がするそれを即エミリアに返還して、前を見つめる。流石に何度も死ねばこの後の流れはわかっている。

「…………君、は」
「おい!よそ見すんなラインハルト!」

微かに眉をしかめてこちらを見てくる剣聖に声をかけて、あろうことかこちらの世界に来て女になったからか相当重く感じる鈍器を腹に構える。スバルの後ろにはエミリアがいる。相手がエミリアを狙っているのがわかるなら、こちらが備えていればいい。そうすればとりあえず彼女はたすかるし、この鉄の棒みたいな武器があればスバルだって内出血ぐらいで済むだろう。

「………あ、れ?」

その目論見は半分あたって、半分外れだった。エルザの攻撃を防いでどうにかこうにかイベントクリアの少し後。ぷし、と熱い何かが腹から噴出するのを感じて下を見る。ジャージが真っ赤な血に濡れていた。

「え、……ここまで、きて?」

そんな、嘘だろ。とだんだんと強くなる痛みと熱に膝をつく。腹圧のせいか何かが飛び出そうな腹を懸命に抑えてもだらだらと溢れるそれは止まる気配を見せない。

「っスバル!」

赤い髪の毛が激痛に霞み始めた視界に映った。崩れそうな体を支えられて、次こそうまくやるからと、必死に顔を上げたスバルにラインハルトのまさか、とでも言いたげなつぶやきが聞こえた。

「スバル、きみが、僕が探していた……」
「まさかのここでフラグが立ってたとか知るかよっ!!!」

どうせならイケメンよりおねーさんとのフラグが良かったっ!
そうラインハルトにつぶやかれた言葉に、女になってたのはこのせいかよ!と全身全霊のツッコミをしたせいでぶじゅ、と圧に耐え切れなくなった腹から紐みたいな何かが噴き出る感触がして、スバルの意識は暗転した。






「あのさぁ、どうせお前は理解してないんだろうけど」

俺は男なんですよね、とドレスを前にしてげんなりした顔をしながらつぶやいたスバルにラインハルトは首を傾げた。

「スバルは女の子だよね?」
「うん体は女の子なんだけどね、心はオトコノコなの・・・」
「僕には服飾の加護があるからね、スバルに一番似合う服を選んだんだけど」
「うんそれもわかってる。お前が選んでくれたドレスめっちゃきれい。でも、俺は男なわけよ」

ドレスは着たくない、とつっぱねる。下着は妥協して女物を履いているが、服まで女の子のものは着たくない。なにも隠すことはなく、ほぼ半裸の下着姿で腕を組んだスバルにラインハルトがへにょりとまゆを下げて、それなら、とため息をつく。

「・・・・・・わかった、アストレア邸のなかだけなら、前着ていたじゃーじでもいいけれど・・・」
「やたっ!ついでに下着も前俺が履いてたやつに・・・」
「それは、ちょっと」
「え、なんで?」
「君は女性だろう?あれは男ものの下着だよ」
「うーん」

ラインハルト、と名前を呼ぶ。スバルの呼びかけに素直に反応した、なんだかんだで頭が固くて融通の利かない男にむかってスバルはずびしと指を突きつけた。

「俺は男」
「?スバルは女の子だよね」
「男なの。お前がわかるまでドレスは着ねぇからな」

困ったような顔をするな、と思った。スバルだってラインハルトが全然身体と内面の違いを理解してくれないもんだから、とっても困っているのだから。





「王選、ってなんかしらんけど俺も選ばれてる巫女ってやつの集まりだろ?エミリアたんも来る?」
「いらっしゃるはずだよ。彼女も立派な王選者だからね」
「やったー!エミリアたんに久しぶりに会える!よっしゃ!!俺明日エミリアと城下町散歩デートしていい?なぁ!勉強一生懸命するから!」
「それはちょっと出来ないかな・・・スバルを一人にするには少し、危なすぎて」
「へ?なんで」
「良くないことを考える輩もいるからね」

イ文字とにらめっこをしていたスバルにそろそろ王選が始まる、と教えてくれたのは3時のおやつを持ってきてくれたラインハルトだ。一流シェフが作ったといっても納得してしまうような絶品のガレットをぱくつきながら、スバルが目をきらきら輝かせて頼んだお願いは即一蹴された。

「良くないことってなんだ?ああ、このピンバッヂがほしい奴とかね」
「ちょっと違うけれど・・・君に危害を加えようとする人間は少なからずいるということだよ」
「一応・・・俺、体鍛えてますけど、そんでもダメ?」
「すこし、危ういかな」
「・・・・・ちぇ、でも、話すぐらいならいいだろ・・・?」
「それぐらいだったら、なんの問題もないよ。僕の方からもロズワール卿に話を通しておこう」
「ロズワール?誰だか知らねーけどよっしゃ!ありがとうな!」

ちょいちょい自由を縛られるのはなんとも言えないが、この男なりに少しは譲歩してくれているのはわかる。まぁ、変に拘束を強められても困るし、ととりあえずスバルも妥協してラインハルトに礼を言った。おやつが美味いこともあってそもそもの気分は上々だ。ラインハルトに笑いかけると、最近なんだかんだでよく見かける嬉しそうな小さな笑みが返ってきた。





「ふざけんじゃねぇ―――――――っ!!」

久しぶりに出会った銀髪の美少女は随分とやつれた顔をしていた。きっとスバルと別れたあとに、また何かあったのだ。王選の場ではさすがに話しかけることはできなくて、窮屈なドレス(これでもラインハルトにわがままを言って最大限譲歩してもらったためフリフリやリボンはついていない)に身を包みながらスバルは黙って周りから漏れる、彼女に対しての批判を耐えていた。耐えていたのはスバル自身も偉いと思う。でも、さすがにあんまりだった。目の前で行われる、まるで彼女がその場にいないような、そんなやりとりは耐えられなかった。彼女の後継人だというピエロみたいな男だってあんまりだ、あまりにもあんまりすぎる。俯いてしまった彼女が見えないのだろうか。何がハーフエルフだくそったれ、とラインハルトが見れば淑女にあるまじき、と小言が飛んできそうな仕草をして、スバルは前に出る。

「あ・・・、す、スバル?」
「エミリアたん。改めて久しぶり、さっきは十分な挨拶できなくてごめんな」
「う、ううん。そんなの、気にしていないけど、どうして・・・」
「どうしてってそりゃあもうこんなにかわいくてやさしくてEMTなエミリアたんを超絶ブルーな色眼鏡でみまくるやつらとこのピエロがむかつくからだよ・・・・おいこら、ロズワール卿さんとやら」

びし、とすこし驚いたような顔をしてこちらを見つめてくるピエロに向かって指をつきつける。

「こんなにかわいいかわいいエミリアたんを王にさせる意思もなければ、まがりなりにも王選の巫女に騎士がいないっつーのはどういうことだコラ?」
「・・・・君は、ナツキ・スバル殿だったかぁーな。余計な口出しはしないでくれるとうれしいんだけどねーぇ」
「ああ!?女の子をよってたかって虐めてよぉ!これが口出しせずにいられっかってんだよっ!」

ふわり、と怒鳴るスバルの肩に綿毛のようなものが触れる。

「―――僕も、この子に同感かなぁ」

僕のかわいいかわいいリアに、ちょっと目が余るよねぇ。声だけはかわいらしい大精霊が、スバルに加勢するかのようにのんびりとした声を上げた。





「俺の名前はナツキスバル!一応このバッジにも認められてるっぽいから成り行きで巫女してる。でも、先ほども言ったけど、俺はエミリアたんを肯定しないこの国、あんまり好きじゃねぇんだよな」

ざわざわとざわめく周りの声が良く聞こえない、とばかりに耳をほじるしぐさをして、スバルは短くある男の名前を呼んだ。

「ラインハルト」
「はい、我が主」
「まぁでもなんか認められちゃって?んでもってこいつも逃がしてくれねーしそんでもってここにいるわけだけど・・・・ま、俺が王になったらいろいろぶっ壊して、いろいろ変えちゃうだろうな」

名誉なはずの巫女付きの騎士に立候補しないやつらも、ハーフエルフってだけで色眼鏡で見まくるやつも、それを批判しないやつも、なにもかもむかつくんだよ、と吐き捨てて、スバルは手を広げた。

「俺がやりたい国ってのはそうたいしたもんじゃない。ただ、誰も凍えなくて、泣かなくて、悲しまなくて、少なくとも一日に一回は心から笑えるようなそんな国。でもお前らのエミリアたんに対する態度みるとどーもそれってめっちゃむずい。きっとちょっぴり変えるだけすらむずかしい。そんなら一回、ちょっと根元からどうにかするしかなくない?」
「・・・・・一人のハーフエルフのためにそんなことを?」
「俺はちょーっと記憶喪失のケがあってなぁ。常識がないんですわ。それにこの国の出身じゃないから、特に情もねーんだわ。とにかく一人のハーフエルフに対してこんな差別してんなら、弱者に対してもそうなんじゃないのか?なんでこんなでっかい王都のなかにスラム街があるんだよ。だれもが平等に、なんて叶わない夢物語は言わねぇけどさ・・・・なぁラインハルト」
「なんでしょうか」
「俺はまず、エミリアたんのために王になろうと思ってるよ。さっき、あーこれがしたいことだなって思った。お前、俺に反対する?」
「いいえ、貴女が望むことならば」
「お前、いっつもそうな。まぁ正しさの僕のお前が肯定するなら、この場所ではそれもありがたいってことで・・・・・」

ってなわけでよろしく。内心心臓はばくばくどきどきだ、しかしここが男の意地の見せ所。周りを見渡して傲岸不遜ににやりと笑って、スバルはそう演説を〆た。




「・・・・・どうして、スバルはそんなに私に味方してくれるの?」
「なんでって・・・それってそんなに理由が必要なこと?」
「だって、私はハーフエルフで、それにあの時だって、スバルに助けてもらう理由は、正直、あんまりないと思ってたの」
「ふーん、まぁいいじゃん。俺にはある、いっぱいある。エミリアたんが俺を助けたって思ってないところで、本当はいっぱい助けられてた」
「そう、なんだ・・・」
「あ、信じてないね?信じてないんだねエミリアたん!?」
「何度考えても、わからないもの。ねぇ、それよりも、スバル」
「ん?」
「エミリアはわかるわ。私の名前だもの。でも「たん」ってなに?」
「俺の国の最大級の愛情表現を示した言葉です。なによりも尊く、なによりも偉い。それがエミリアたん」

王都のアストレア邸で、二人だけのティータイム。ラインハルトに強請ってロズワール卿とやらにもお願いをして、どうにかこうにかもぎ取った二人と一匹だけの楽しい時間。エミリアには紅茶、スバルにはミルクティー。それぞれラインハルトが自ら注いで、それから今はどこか見えない場所にいる。きっと会話は聞こえているんだけれど、もう気にしない。急に女の体になったからか、どうも体の調子がおかしいスバルのほうにも問題があるのだが、生理周期だのなんだのを把握されたりなんだり、いろんなことをされればさすがにプライベートがないことも慣れた。

「私は、そんな人間じゃないと思うの・・・」
「エミリアたんはそう思ってるんだ。でも俺はサイコーの女の子だなって思ってるよ」
「・・・・・・あのね、スバル。私ね、とっても、ほんとうにすごーくうれしいのよ。でもこんなこと言ってくれる人は初めてで、どんな反応をすればいいかわからないの・・・・ごめんね」
「なんであやまんの?謝んないでくれよ。・・・でも本当にエミリアたんがうれしいって思ってるなら、できればもーちょっと笑ってほしいな」

女の子なら女の子に警戒されない。それはちょっとうれしいことだ。俯いてしまったエミリアの手を握ると、おずおずとスバルの顔を見てくれた。女になってから微かにマシになった目つきをできるだけ柔らかくして微笑むと、ほんのちょっぴりだけれどエミリアは笑ってくれて、ああ、初めてこの子の笑顔をみることが出来たんだなとそれだけでスバルはかなりうれしかった。





「・・・・・・は?」

もう一度言ってくれ、とラインハルトに言った言葉はたぶん震えていたと思う。痛ましそうに目を伏せて、スバルの騎士はもう一度同じ言葉を繰り返してくれた。

「エミリア陣営は壊滅しました。彼女の契約精霊である終焉の獣、パックと呼ばれていた子猫型の精霊ですが、突如暴走をし、ロズワール領を一瞬で氷に閉じ込めました。アルトレア家に戻っていたため、少々対処が遅れましたが、王都に被害が及ぶ前に僕が間に合い、被害はロズワール領だけで済んで・・・」
「かい、めつ」
「・・・・はい、エミリア様も、残念ながら」
「そんな・・・・・」

嘘だろう。とよろめいて、がんがんと痛む頭の中でスバルはあることを思いだす。自分の異能を思い出す。最近使われることのなかった、死に戻りの異能を思い出す。

「・・・・・・なぁ、ラインハルト」
「はい」
「ここで俺が、エミリアたんが死んだことに耐えられないから殺してくれっていったらどうする?」
「・・・・・失礼ながら、御身を拘束させてでも止めさせていただきます」
「だよなぁ・・・・うん。ちょっと一人にさせてくれ。友人が、死んだのは、少し・・・堪える・・・」
「・・・・はい、僕はこの屋敷におりますので、何かあったらおよびください」

ラインハルトがいなくなった部屋で、スバルは護身用の懐剣を取り出した。たしかアナスタシアの騎士も、クルシュの騎士も、水魔法が使えたはずだ。そう考えるとスバルの騎士がラインハルトであるというのは運がいい。世界最強と言ってもいい剣の腕を持つ男は、どうしたことか魔法の類を一切使えないのだ。筋力特化なのだ。

大動脈を狙ってナイフを滑らせて、スバルは死んだ。





「なんであやまんの?謝んないでくれよ。・・・でも本当にエミリアたんがうれしいって思ってるなら、できればもーちょっと笑ってほしいな」

今回はここがセーブポイントか、とうつむいたエミリアの手を握ってスバルは微笑んだ。

「エミリア、君を死なせるもんか」





丁度実家に呼び出されて、ラインハルトがいないことは行幸だった。男性ものの服を着て、竜車を一つ無断で借りて、それから御者にロズワール邸へ向かってくれと頼む。途中まではそれはうまくいった。ただ、その途中が問題だった。

「白霧・・・・?」
「ええ、ちょうどね、ロズワール邸の間に白鯨が出る予兆があるらしくて」

あと3日は通らないほうがいい、と言われて血の気が引く。エミリアがロズワール邸に帰ったのは昨日だ。そしてスバルが彼女の訃報をきいたのはその二日後。つまり明日なのだ。一刻も早くいかなくてはいけないのに、そんな余裕があるものか、と情報を集めている御者を放って中間地点の村を探す。御者はアストレア家の人間だ、きっと危ないことはさせてくれない。

「金さえもらえるなら・・・いいですよ。まぁ、背に腹は代えられません、ひっく」
「・・・・水飲んで来れば?」
「坊やはやさし〜んですねぇ〜・・・・おぇぇ」
「なんかやべーなこいつ」

金に困ってるから、と言われて連れてこられた酔っ払いの青年に任せても平気なのだろうか。顔に札束を叩きつけながら不安に思うが背に腹は代えられなかった。後悔しても仕方がない。エミリアが死んだと聞かされたときに、すでに地獄は味わっていたのだから。




魔女教、白鯨、血にまみれたロズワール領の村。何度か絶望を噛み締めて、何度か死に戻りをして、スバルが漸く得ることが出来たのはクルシュ陣営が白鯨を討伐する、という情報だった。

「―――俺も、混ぜてほしい」
「ダメだ。かのラインハルト・ヴァン・アストレアがいるならともかく、君は無力だ。私よりも」

クルシュ陣営と相対するのはスバル一人。相手はクルシュ、フェリス、それから何故かスバルに向かって尋常ではない気を放っている老人―名前をたしかヴィルヘルムと言った―の三人だ。多勢に無勢、そのことはよくわかりながら何度も首を掻き切って得た情報を提示する。ここで返答を間違えれば、終わる。スバルはまた最初からやり直して、彼女たちの心を動かす言葉を探す。

「ああ、俺は無力だよ。よーく知ってる・・・・でも情報って点なら、俺はあんたたちよりも強いぜ」

トラの子の携帯電話をクルシュに渡す。ぱか、と蓋をあけて、鮮明にうつされた待ち受けにクルシュが驚いたような声を上げた。

「美しいな・・・これはなんというミーティアだ?」
「携帯電話っつーんだ。ま、それは置いといて、あんたらが捜してる白鯨。俺はその出現場所と時間がわかるぜ。そのミーティアはな・・・・魔獣探知機なんだ」

嘘半分、真実が半分、クルシュの加護はどちらに反応するだろうか。ぴくり、とヴィルヘルムが眉を動かして物凄い威圧感をスバルに向けた。さすがに冷や汗が背中をつたっていくのがわかる。しばらく携帯電話の画面を見つめていたクルシュが、何かを確かめるかのようにスバルの目を見つめた。





白鯨戦は熾烈を極めた。クルシュ陣営だけでは足りない、とプリシラ、アナスタシアのどちらに助力を頼むか悩んで、悩んで、悩んだ末にアナスタシアをスバルは選んだ。相手は商人、白鯨が討伐できればそれだけ利益が出ることは何よりもわかっている。

「ほな、きまりやね」

クルシュ、スバル、アナスタシアが揃った部屋の中。ニコ、と笑ってアナスタシアが微笑んだ。

「うちらも参加させていただきます。こんな美味しい話、指くわえてみてられるほど辛抱できる性格しとらんのよね」

うちの騎士も出したりましょ。とニコニコ笑いながらアナスタシアが言った言葉に、スバルは少しだけ、希望を見た。

死に戻りをした回数は、これで三十回を超えた。



「あ、おまえユリウス、だっけ?」
「ええ、スバル様」
「あー様とかいらんから、普通にスバルでいいよ。俺は今はただのスバルだから」

白鯨討伐、をどうにかこうにかこなし。クルシュ達から貸し出されただけなはずなのに何故かスバルになついてしまった土竜、名前をパトラッシュとした、を撫でながらあぐらをかいてこの後の作戦会議だ。白鯨の後始末はクルシュたちに任せ、ここからスバルにとっての本命、魔女教討伐とエミリアの救助に入る。

「………実は、魔女教がこの近くにいる」
「魔女教、がですか」
「敬語じゃなくていいって。俺は、ここじゃただのナツキスバル。……魔女教はきてるよ。それも大罪司教が一人、ペテルギウスってやつ」

倒さねぇと多分エミリアが危ない。真剣な顔で優男の顔を見つめながら言う。困惑した表情で見つめられたが、やがてスバルが本気で言っていることがわかったのだろう。ユリウスはわかった、と頷いた。






「俺を殺せっ!何やってんだ早く!こんなチャンス滅多にねぇんだぞ!」
「しかしっ、君は……!」
「ああ畜生、くそ、巫女がなんだよ。あと四人いるだろうが!早く!」

体の中でペテルギウスが主導権を握ろうとしているのがわかる。歪みはじめた表情で、スバルはユリウスに縋った。

「………ああ、ごめん」

フェリスにマナを乱されて、もう動かない体。目の前の最優の騎士様が、歪んだ表情で剣を振り上げるのを見て、酷なことをさせると思った。

しかし人に殺されるのは随分と楽だ。






股間に感じる慣れ親しんだ感覚に、ああそういえば男ってこんな感じだったなぁとしみじみ思う。口の中に感じるしらない人間の味に顔をしかめながらユリウスを見るとものすごい表情をしていた。

「………そうだ、君は、貴女は女性だった…」
「…………男だって、認識してた?」
「ああ、女性に対して失礼なことを言ったな。すまない」
「いや、謝んなくていい」

女性からしたらたしかに無礼な言葉なのかもしれない。でも少しだけ心が軽くなった気がしてスバルは思わず笑い声をあげた。





「エミリアたん」

ようやく助けに来れたよ、と馬車の中で蹲る彼女に声をかける。

「…………スバル?」
「うん、俺です。ナツキ・スバルです」

困惑と、希望と、嬉しさが混ざった、揺れる紫紺の瞳を見つめる。

たとえ性別が変わってしまったってナツキスバルはいつだって彼女の王子様になりたい。

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「……………ラインハルト」

怒ってる?と目の前で沈黙する男におずおずと声をかける。しかしスバル的には首尾は上々。なんでかしらないけどクルシュたちもアナスタシアたちもスバルに手柄を譲ってくれた。暴食、と呼ばれる大罪司教に記憶を食べられたのに、だからクルシュ陣営こそその手柄が必要ではないかと思うのに。

文字通り必死で掴んでもぎ取った未来。本当はスバルは誰よりも無力なのに。

「いいえ」
「うっそだ絶対怒ってるじゃんそれ!てかなんか命のやり取りしまくったからかな。俺わかるようになってきちゃったお前死ぬほど強いのな」
「いいえ、スバル様」

いつもに比べると少し覇気が感じられない笑みを浮かべて、ラインハルトが首を振った。

「僕は、いつも肝心な時に無力で……お力になれず、申し訳ありませんでしたスバル様、あなたが無事でよかった。本当に……」
「あ、あ、うん。……ありがとう」

何度も死んだ俺よりお前の方が死にそうな顔してんな、とは口が裂けても言えなかった。






それからアストレア家の領土に移って、少ししてからだ。この剣聖の家系を取り巻くどろどろとした内情を知ったのは。

「そういう、こと、だったのかよ」

あの時ラインハルトが実家に呼ばれていたのは、あの時よりによってあの時、タイミングよく呼び戻されていたのは。肝心な時にお力になれず、ではない。なんだ。わざとそうされていたのだ。

「………お前、剣聖の加護、さ」
「はい」
「いや…ごめん、なんでもない」

スバルが何を聞きたかったかなんてきっと分かっていただろう。本人から聞こうと思った自分が恥ずかしくて踵を返す。しかし腕をつかまれて、それは叶わなかった。

「どうか、僕の口から、お聞きください。他人に聞くことなどなく」
「・・・・・・たずねようとしといてなんだけど、聞いていいことなの?」
「ええ、知っていてくださったほうが、おそらく事が上手く運ぶことのほうが多いでしょう」
「・・・・わかった。あと何度も言ってるけど別に敬語じゃなくていいんだけど・・・」

なんたって王選を始めると決めてから始終この調子だ。尻がむずがゆくなるといったスバルにそのようなはしたない言葉は、と小言をくれてからラインハルトはありがたいお言葉ですとスバルに言った。

何がありがたいのか、スバルには正直全然わからない。スバル自身はちっぽけで何の力もなくて、だからなんにも変わっていないのに、周りばっかり変化していく。






「ふーん、招待状」
「ええ、ロズワール卿から、エミリア様と領土を守ってくれた礼だと」
「エミリアたんと一緒にキャッキャウフフできるんなら行ってもいいけどぉ・・・」

ぴら、とスバルに配慮をされたイ文字で書かれた手紙を見る。どういうことか文盲であることはすでに知れ渡っていて、おかげでスバルのもとに届く手紙はみんなこちらの世界でいうひらがなで書かれている。貴族ともなるとそうした配慮も必要なのだろう。スバルだって頑張って文字の習得に励んでいるのだが、なぜかどーしてさっぱり、イ文字以外の文字は全然頭に入ってくれないのだった。

「へぇ、パーティするんだ」
「どうされますか?」
「そらめっちゃ行きたい。久しぶりにエミリアたんに会えるし・・・・あのあと、心配だったし」

汚いイ文字の手紙でもなんでも、すぐに出したかった。それには今ちょっと抱えている治水工事のまとめをしなくてはいけない、しかし可能なら今すぐにでもロズワール領に駆け出してエミリアを女性であることの特権を最大限に生かし、抱きしめたい。

そわそわとするスバルに、ラインハルトはほほ笑んでおっけーですよと言ってくれた。





「エミリアたん!」
「スバル」

ふわ、と花が開くような笑顔だった。ものすごくわがままを言って(スバルからしてみれば当たり前の権利なのだが)ジャージを身にまとい、ばさばさするスカートじゃなくてよかったと思う日はきっと今日が一番強い。なぜってめっちゃ速く走れる。

駆け寄ったスバルを認めたエミリアが、近寄ってきたのにばっと手を広げる。不思議そうに首をかしげたのに、久しぶりの再会だぜ!と抱きしめようとするとぽっとほほを染めて、それからおずおずとエミリアの体が近寄ってくる。

「スバル、元気にしてた?」
「おうよ!エミリアたんもあれからお変わりなく?」
「ええ、毎日立派な王様になるために、お勉強頑張ってるんだから」
「あっ俺も俺も!俺もお勉強頑張ってるよ!」

お揃いだな、と顔を見合わせてにっこり笑う。そのあとしかし、と周りを見渡して思う。ロズワール邸はその広さに反してあまり使用人がいないようだった。少し牙が怖いけど美人のお姉さんと、ロズワールが収める領地の村からメイドとして雇っているかわいらしい少女が一人、それからロズワール、あとはエミリアとその契約精霊のパック。そんなものだった。

「最低限の少数精鋭だったり?」
「・・・・ええと、あと一人いるの。私はあんまり好かれてないから、そこまで顔を合わせてないんだけど」

ベアトリスって精霊の子がね、いるのよ。と言われてなんとなく二階を見上げる。かたり、と何かが動くような音が聞こえた気がした。







「失礼しまーす。あ、入ってました?メンゴ、お邪魔しました」
「ちょっと、厠と同じ扱いをしないでほしいかしら」

何の気なしに開けた扉の向こうには大量の本とかわいらしい幼女がいたのでスバルはそっと扉を閉めようとした。途端に不機嫌そうに飛んできた文句に、思わず扉を閉めるのをやめる。

「お前、誰なのよ」
「俺?俺はナツキスバル・・・あ、もしかして、ベアトリスって呼ばれてる子か?」
「なんでベティの名前を・・・ああ、どうせ誰かが教えたのよ。もしくは文献で知ったのかしら」
「文献はしらんけど、エミリアたんに教えてもらった」
「ああそう・・・・それじゃあさっさと出ていくのよ。ほら、早くするかしら」
「あ、うん・・・・」

取り付く島もない、とばかりにつーんと拒否されて、仕方なく扉を閉める。以前のスバルだったら何も考えずにずかずか部屋の中に入り込んでいたかもしれないが、さすがにそれをしないだけの分別は身に着けた。

「あ」
「な、なんでまた・・・・」

がちゃり、ベアトリスとは次に開けた扉でまた顔を合わせることになったけれど。








「へー、隠れ里」


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