それから少しして、レック達は激戦の末に魔王を倒した。いろんなところの争いが消えて、テリーもミレーユも一度ガンディーノに戻ったり、レックが王位を継いだり、バーバラがどこかに消えてしまったり・・・・少し悲しいこともあったけれど概ね世界は平和になっていた。でも、それでもテリーは旅を止めなかった。家を飛び出した幼いころから現在まで、彼はそんな生き方をしていたから今更どこかに腰を据える、というのがどうも苦手だったのだ。

「・・・・・・・・ここは?」

当てもない旅は、いつしかまた強さを求めるたびに変わっていった。またいつ魔王のような存在が現れるかもわからない。ますます美しく成長した姉にまたガンディーノのような悲劇が襲いかかるともわからない。もちろん彼女は魔王を倒す旅の中で男顔負けの腕っぷしを身につけていたのだけれど、それでも彼女は女性で、有る程度実力がある男がいればすぐに無力化できるのだから。

今よりも強い剣、もしくは自分が学びたいと思わせるような実力の持ち主。そのどちらかを探しながら旅を続けていたテリーは、いつの間にか見知らぬ場所に迷い込んでいた。先ほどまでは人の手が入っていた場所を歩いていたのに、気がつけば濃い乳白色の霧が漂う深い森の中だ。時折魔物が鳴く声も聞こえる、聞いたことのない鳴き声も多数含まれている。

「、」

がさ、と音が鳴ったほうに剣をむける。するとそこには一匹のスライムがいて、半分だけ体を茂みから出してテリーの様子をうかがっていた。何だ、スライムか。周りに警戒して剣は抜いたまま、テリーはまた前に向き直った。たとえスライムが襲いかかってきても攻撃を受けない自信はあるし、それになによりそのスライムには攻撃的な様子がなかったからだ。魔物を倒し続けているとだんだんそういうことが分かるようになる。友好的な魔物、非友好的な魔物、人間のように狡猾な魔物・・・・。

「ねぇ、おにいさん」
「なんだ?」

だからそのスライムが話しかけてきたことにもあまりテリーは驚かなかった。レック達と旅をしていた時も何匹かのスライム族が仲間になっていて、そのスライムはそういう雰囲気を持っていたからだ。テリーがスライムの方に向き直ると、スライムは茂みに少し顔を引っ込めてぷるぷると体を揺らした。

「あのね、ぼくはわるいスライムじゃないよ」
「そうみたいだな」
「うん・・・ねぇ、おにいさんはモンスターマスターなの?」

人を攻撃する魔物ではない、その言葉を肯定してやるとスライムは安心したようにひょっこりと顔を出した。モンスターマスター?たしかダーマ神殿でそんなような職業があったような気がしなくもないが・・・。問いかけられた言葉にテリーが首をかしげると、スライムも同じように体をかしげた。

「わからないな、俺はそんな職業についたことがないから」
「しょくぎょう?」
「おい、職業のことを言ってるんじゃないのか?」
「ちがうよ、ぼくがいってるのはね、なんだかまものがついていきたくなっちゃうような、そんなひとのことだよ」

スライムは楽しそうに体を揺らして、ぽんぽん跳ねながらテリーに近付いた。目をきらきらと輝かせて、なんだか仲間になりたそうな顔をしている。期待に満ちた瞳で見つめられてテリーは思わず苦笑した。

「なるほどね、で、お前は俺についてきたいんだ」
「うん、おにいさんは強そうだし、おもしろそうだし、だからいっしょに旅がしたいな」

例え魔物だとしても、褒められる事に悪い気分はしなかった。テリーがしゃがみ込んで、剣を握っていないほうの手でスライムを撫でると彼(彼女?)はぷるぷる体を震わせて喜んだ。

「いいぜ、途中までなら。そうだな、少なくともこの森を抜けるまで」
「わ、わ、やった、うれしいな」

喜ぶスライムを眺めながら、きん、と音をたててテリーが剣を鞘にしまった。森を包む乳白色の霧も時折聞こえる妙な鳴き声も相変わらずだが、心なしか余裕が出来た気がする。こんなちっぽけな一匹のスライムでも、旅の連れが出来ると違うな、と思いながらテリーはスライムにこう話しかけた。

「なぁ、旅は道連れって言葉があるんだけど、知ってるか?」
「ううん、きいたことない」
「助け合う気持ちが大事だってことさ」

俺はこのあたりの事を知らないから、教えてくれよ。テリーがほほ笑みながらそう言うとスライムは小さな体を膨らませて、少し誇らしげにぼくにまかせてよおにいさんと言った。


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