勇者は平然としている
そもそもが恥ずかしいことだから恥ずかしくないもん!(超理論)






勇者には「呪い」がつきものだ、なんて書いてあった本はなんてタイトルだっただろうか。魔が操る悪意のこもった怨念はそれを打ち滅ぼした勇者に向けられることが多い。子供向けの童話でも、大人が読んでも夢中になってしまうような壮大な冒険譚でも、勇者がなにかしかの呪いを受ける作品はそう少ないわけじゃない。

「おかあさ・・・・・あっ・・・・」

しかし、とカミュは思った。そんな中でもこの勇者サマは随分とへんてこな呪いを受けてるようだ。

「ご、ごめんカミュ」
「・・・・いや、気にしてないからあやまらなくていいぞ」
「うう・・・・」

は、恥ずかしい・・・と両頬に手を当てて真っ赤になった顔を隠すようにしながら俯いた青年は「勇者」だ。右手にくっきりと現れた刻印がその証でもある。キューティクルが素晴らしいさらさらの髪のてっぺんにある旋毛を見つめながらカミュは青年に聞こえないようにそっとため息をついた。

おかしな呪いもあったものだ。「恥ずかしくなる呪い」だなんて。





生まれつきそうだったのだ、と勇者―彼の名前はイレブンというそうだ―はデルカダールをどうにか抜け出した後にぽつりぽつりと話してくれた。

「教会の神父様でも解けなかったんだ。余程魂と結びついているんだろうって」
「そりゃまた大層なもんだな。恥ずかしくなる呪い、ねぇ・・・・」
「ちょっと間抜けな呪いだよね。でも案外馬鹿にできなくて」
「戦闘の最中にパンツのヒモが切れるだなんてなぁ」

不運の間違いなんじゃないか、と思うが、隣で見ている限りではそういうわけではなさそうだ。目があって、それだけで恥ずかしくなって顔をそらしてしまい、相手に失礼なことをしてしまった、と思って行動不能になってしまうことだってままある。せっかく優男で老若男女、分け隔てなく話しかけやすそうな顔してるのになぁ、と女神像のたき火の明かりを光源にして自分のパンツのヒモを縫い直しているイレブンを見つめる。いっちゃなんだが、これが仮にデクだったら・・・とカミュは元相棒の顔を思い出して首を振った。完全に不審者だ。

「?何?カミュ」
「ん、おお・・・なんでもない。縫い終わったか?」
「うん、バッチリだよ」

これで戦闘の最中にあんなことは起きないね!とそのことをもう気にしていないようなまぶしい笑顔を見せてくれることは良かったが、またヒモが切れるようなそんな予感がする。そしてそれは間違っていないんだろうなと思いながらカミュはくつくつと煮えているシチューを木の匙でぐるりとかき混ぜた。料理に関してはまだ素人なのだなと窺える、ひどく不格好に切られた野菜が、かすかにとろけ始めているのを見て、パンとチーズをあぶり始める。

「よし、じゃあ飯にするか。無事にデルカダールを抜け出せた祝いにこいつも開けちまおう」
「あ、デクさんからもらった葡萄酒?」
「葡萄酒ってのはあんまり揺れると痛んじまうからな。あいつも俺たちが無事に外に出られることを信用して酒をくれたんだろ」
「でも、明日はナプガーナ密林に・・・」
「まぁまぁ、いろんな事がたくさんあった日ってのは眠れないもんだ。酒で眠りを誘うってことも大切だぜ?」

なんやかんやと理由をつけて、お酒は、と遠慮をする手に無理やりに小さな木の杯を握らせる。困ったようにこっちを見つめてきたが、酒の栓を開けてそそいでしまえば苦笑して、杯を掲げた。

「無事に生き延びた祝いに、乾杯」
「生き延びたことと、勇者様のご加護に、乾杯」
「なんだよそれ」

はは、と笑って木の杯を軽く打ち合わせたあとに、濃い紅色の液体を口の中に流し込む。デクも上手くやったもんだな、と思った。一杯5ゴールドもしない、酒場の水で薄めたような味がする葡萄酒とは違う、強い酒精が喉を焼いた。





元々他人の感情には敏感な方だった。盗賊なんて職業である以上、そういうところに目をやっていないとどんな風に転がるかわかったもんじゃない。だからカミュはなんとなく、そういうものを持たれているのは知っていた。知っていたし、悪いものじゃないなとは思った。勇者様に好意を抱いてるか抱いてないかっていうと、予言のこともあったし、それ以前にイレブンという人物の人格が非常に好ましいものであったからかもしれない。

記憶喪失の自分がどんな様子だったかなんてほとんど覚えていなかった。ただ、いつもの面子に心配そうな顔で取り囲まれて、ワイワイ騒がれていたことはなんとなく覚えている。一番初めに見た、イレブンの、泣きそうな顔も。

「・・・・・俺、お前のそんな顔、あの時初めて見たんだよなぁ」
「カミュ?」

牢獄に入ってきたときも、なんてまっすぐな瞳だろうと思った。

イシの村に戻ったときもそうだった。目元に涙はなかったけれど、涙を耐えるようにぎゅっと拳を握りしめて空を仰いでいた。その時こいつは本当に強い人間なんだなと思った。勇者の生まれ変わりだとかは関係なく、ただこいつ自体がそういう人間なのだ。昨日まで住んでいた場所が変わり果てて、家族も、友人も、そういったものも一気に失って、それで取り乱さないやつをカミュはそれまで見たことがなかった。

呆然としているわけでもなく、強い決意を秘めて、荒れ果てたイシの村で立ち尽くしていた勇者様は美しかった。

ぼんやりと、目の前で所在なさげにこちらの様子を伺うイレブンのことを、カミュはゆっくりと見つめた。いつもだったら呪いのせいで、ばっちり目が合うとおどおどしたりするくせに、今日の今はそんなことはなかった。こういう時はガッチリ運を掴みやがるな、と思いながら先ほどそっと耳元に落とされた言葉を脳内でリフレインする。

『ずっと前から、そう思ってたんだ。邪魔になるかと思って伝えようとは思ってなかったけど、今回、君の記憶がなくなってしまったとき、言っておけばよかったって、』

ぼくは、カミュの、ことが

「す、き、・・・・」
「・・・・・カミュ?」

ぽろりと口から出た言葉はカミュがこれまで、もしかしたら、たった一度も人間に対して使ったことがなかったものだった。口先八丁でそんな言葉を口に出した経験は何度かある。幸いなある程度顔つきは整っていたし、それで惑わされる人間はたくさんいたから。

「カミュ、あの、顔が」
「へ、」
「真っ赤、なんだけど・・・・」

大丈夫?と心配そうに頬に触れられて、そのひんやりとした感触に自分の頬に血が集まっていることを知る。え、は、う、と言葉になってない単語をぼろぼろこぼし続ける口は笑っているんだかゆがんでいるんだかわからなくて、ますます顔に熱が集まっていくのが自覚できた。思わずしゃがみ込んで、頬を手で挟んで俯くと、目の前のイレブンの靴が消えて、かわりに膝が見えた。ひざまずいている、勇者様が、イレブンが、俺の

「カミュ、」

こっちを向いて、とそっと耳元に手が添えられる。ゆっくりと顔を上げさせられて、見上げる勇者様の顔はとてもうれしそうだった。

「す、」
「す?」
「すき、です、おれ、も・・・」

牢獄で初めて、こちらの心を射抜くような輝きを持ったかすみ色の目を見てから、きっと、ずっと。






それから、そういう関係になるのはそう遅くなかった。仲間たちも素直に応援してくれて、不自然でないように二人きりの時間を作ってくれたというのもあると思う。そういうのって、なかなかできるもんじゃないんだよな、と仲間たちに感謝の気持ちを抱きながらそそくさと宿を取る。言葉少なく部屋まで早歩きをして、ガチャリとドアを閉める。呪文で防音性が高まっている連れ込み宿は、外の喧騒もほとんど聞こえなくて、なんだか不思議な気分になった。

「え、と・・・」

どうすればいいのかな、とイレブンが部屋を見渡す。こういった場所に来たことがないのが丸わかりな態度であちらこちらを探索する様子は童貞丸出しだった。広い風呂場にわぁ!と歓声を上げたのが子供らしくてカワイイ・・・・まで考えていやいや、とカミュは首を振った。奮発して高級宿に泊まった時ならともかく、ここでそんな雰囲気を醸し出すのは何か違う気がしたのだ。

「とりあえず、俺から先に風呂入るわ」
「あ、うん」

そう声をかけると、ひょえー、とベッド横の小さい机の引き出しからスライムゼリーを使用して作られたコンドームを手に取ってみていたイレブンは素直に頷いた。使い方をわかっているのかわかっていないのか、同じくスライムから取られた潤滑油の瓶をマジマジと見ていたのに、そういえば、と思って質問を投げかける。

「イレブン、お前、俺に突っ込みたい?それとも入れられたい」

ベッドに腰かけて、ぐにぐにとスライムコンドームを引っ張っていたイレブンがふ、とカミュのほうを見る。臆することなくじっと目を見つめられてどこか高鳴った胸の鼓動をなだめながら答えを待つ。抱くにしろ、抱かれるにしろ、どちらも経験したことはある。血を見なくてもすむ、とは思う。まぁ血が出ても、回復魔法で直せばいいのだが。

「・・・・・ぼく、は、カミュを抱きたい、と思ってる、けど・・・」
「わかった」
「・・・・・いいの?」
「そりゃあ勿論。ちょっと長風呂するけどいいだろ?」

断られると思っていたのだろうか、おずおずと言われた言葉にあっさり了承を返す。うっすらと頬を染めて、またぐにぐにとコンドームを引っ張り始めたイレブンが、上目遣いで待ってるね、とつぶやいたのに微かに性器が反応して、何だか恥ずかしくてあわてて風呂場に引きこもる。

「あー、くそ、ガキみてぇ」

初めてでもないのに、正直なやつだな、と首を持ち上げ始めた性器に苦笑しながら準備を進めていく。

ちなみにスライムコンドームは伸びきったかわいそうな姿で机の上に放置されていた。







とろけそうになるって、こういうことなんだな、と茹った頭の片隅で思った。舌を絡めあって唾液を交換するだけで張りつめた性器がどうにかなってしまいそうだ。こういった行為をすること自体は経験があるはずなのに、まるで初心な子供みたいに制御が利かない。イレブンの滑らかできれいな髪が頬に触れてくすぐったい。それも気持ちいい。

「かみゅ・・・・」

むさぼるように口の中を蹂躙していた舌が名残惜し気に唇を舐めていって、その柔らかな感触にすら体を震わせる。教えた手順通りに、手のひらで温められた潤滑油が秘所の周りに塗りこめられて、それからゆっくりと、じれったいほどに指が一本入ってきた。

「ぁ、う」
「・・・・・痛い?」
「ん、だいじょーぶ、へーき」

短剣を使う者と片手剣を使う者の違いだろうか。自分のより少し太めの指がゆるゆると中を探っていく。異物が入ってきたことでふ、ふ、と荒くなる呼吸を痛みと勘違いしたらしい。戸惑うように鈍くなった指使いに、首を振る。

「さんぼんぐらい、はいらねーと、多分切れるから」
「・・・・三本も?」

僕の指一本でこんなにぎちぎちなのに、と心配そうに言われて思わず赤面する。恥ずかしい呪いはどこにいった。いやあれはどうでもいいことまで恥ずかしくなる呪いだったっけ。ぐるぐるとそんなことを考えているうちに鋭い快感が背筋を駆け抜けていって思わずあ、と声が出る。

「・・・・ここ?」
「う、あ、あ、あっ・・・!」

すりすりと指の腹でそこを擦られるとたまらなかった。あまり経験しない類の快感が頭の中で弾けていく。

熱に溶けたかすみ色の瞳がじっとカミュのことを見つめてきて、食われる、と思った。


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