落ちた人間
9主(男)です。デフォ顔


滝壺に、落ちたのだそうだ。ひどい怪我をして川の浅瀬に浮いていた青年は怪我の具合に反してすぐに意識を取り戻した。高熱が出ていたが、口調は案外しっかりしている。リッカが頬を濡らす汗を冷やした布でぬぐうとわずかに笑んで礼を言った。
「あ、りがとう。ええ、と・・・」
「私はリッカよ。あなたのお名前は?無理はしなくていいから、ゆっくり教えて」
「・・・・・、・・・ぼくの、名前はナイン、と」
「あら!貴方ナインって名前なの?」
「・・・・・はい、」
「すごいわ。あのね、この村の守護天使様のお名前もナイン様とおっしゃるのよ。きっとナインが助かったのは天使様のお力ね。守護天使様はいつもこの村を見守っていてくれるもの」
「はは、・・・いてて」
傷の痛みに顔をしかめたナインが、それでもやけにうれしそうな表情で笑っていたのでリッカは少し首を傾げた。守護天使様が助けてくれたことに感謝する、というよりは褒められた子供のような顔をしていたからだ。
「痛む?ちょっと待っていてね。今痛み止めをもらってくるから」
「ありが、とう」
「いいのよ。早く元気になってね、ナイン」
「・・・・・うん」
一緒に暮らしている祖父にナインのことを頼み、リッカは村の道具屋へ薬を取りに行った。先日の大地震のせいで鉄のくぎの在庫がなくなってしまった、と笑いながら道具屋の主人は痛み止めを少し多めにリッカへと渡した。
「こんなに、いいの?」
「いいよいいよ。リッカちゃんが助けた旅人さん、ひどい怪我なんだろう?」
「そうなの・・・肩甲骨の部分が特にひどくて、寝返りもうてないぐらい」
「そいつは辛そうだ。早く治るといいんだが」
痛み止めの薬が詰まったふくろをもって家に帰る途中、リッカは天使像の前へ寄った。早く怪我がよくなりますように、と祈ればきっと守護天使様が治癒を速めてくれる。
「守護天使ナイン様・・・」
貴方と同じ名を持つ彼に、痛みと熱に苦しむ彼に、どうかひと時の安らぎを。手を組んでそう祈りながら、震災のあとも何も変わらぬ像を見つめる。
背中に翼が生えた、男とも女ともわからぬ像の顔はいつも優し気で、リッカはその顔がなんだかとても好きだった。


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bkm
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