形だけでも墓参り
ゼシカとヤンガスが寝ている間に、二人で墓参りに行った。エイトは里のはずれで花を2,3本摘んで、俺は清めの水をもって、空が近いせいでまるで夜明けのような明るさの道を無言で歩いた。足元で、砂漠のものとはまた違う黄金色の砂がさらさらと清らかな音を立てていた。龍神族が葬られている墓地は宙に浮く洞穴の中にある。外に置いていないのは少しでも風化を防ぐためにだろうか。十数個建てられている墓石の中で一番新しいものが、エイトの母親の墓だ。
「、・・・・」
花を供えて、清めの水をかけた後にエイトは墓石の前で何かをつぶやいたようだった。俺はそれを聞かないことにしつつ、隣でささやかな祈りをささげた。マイエラの修道院でも、呪いに覆われたトロデーン城でも、そしてここでも。祈りなんてものが役にたったためしはないが、たとえ墓がからっぽだとしてもしないよりはましというものだ。それに俺が祈りをささげたのは墓石にじゃあないしな。
「ありがとう、ククール」
「・・・おう」
ゆっくりと目を開けたタイミングでエイトがそういうものだから、すこし驚いた。見られていたのか、と気恥ずかしくなって組んでいた手を所在なく下におろした。水で表面のほこりを落とされ、布で磨かれた墓石は白く輝いている。龍神族は長寿なのだろう。年月によって半分崩れてしまっているものがほとんどなため、ひとつだけ新しいそれはよく目立った。
そうだ、竜族の寿命は長い。エイトの母親が亡くなったのはもう20年以上も前なのに。
ここに置かれて百年は立っていそうな、半分朽ちたようになっている墓を見ながら思った。おそらくエイトよりも、俺のほうが先に死ぬ。俺がこの男を見送ることはない。もちろんそのほうがいいのだけれど・・・でも共に年を取ることはできないだろうな。
「ククール」
氷のように冷たい指が手に触れてはっと我に返った。隣を見るとエイトが不思議そうな顔でこちらを見ていた。いつもと変わらない様子に少しほっとして、握られた手を握り返す。
「なんだよ。エイトの手、やけに冷たいな」
「そうかな?」
「ああ、お前寒いの駄目だろ。そろそろ夜も明けるし、一旦戻ろうぜ」
洞穴から抜け出した時にはすでに空が薄い赤に染まっていて、朝だというのにまるで夕暮れのようだった。涼やかな音を立てる砂を踏みしだいて、手をつないだまま真っ赤な太陽を見ながら歩いた。墓地に来た時についた足跡はもう消えていて、なんだか随分長い間あの場所にいたような気持になった。俺の体内時計が言うことにはほんの2,30分しか墓参りにはいかなかったはずなんだがなぁ。美しいが、どこか殺風景なこの場所にいると時間の流れがよくわからなくなる。きっと風が何もかもを風化させて、黄金色の砂粒にしてしまうせいだ。


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bkm
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