けもののけもの 
不思議な生き物だな、とリンクは自分と同じ姿をしたダークリンクを見るたびに思う。
水の神殿に巣食った闇を退治して、そこから脱出したリンクの横には魔物が一匹増えていた。

「・・・・ダーク、こら、ダーク!まてったら!」

ばたばたと音をたててリンクが部屋の中を走り回る。今日の寝床はカカリコ村の宿屋だ。闇の神殿を攻略する前に、とシークが用意してくれたそこでリンクはゆっくり体を休ませるつもりだった。水の神殿から帰ってきたばっかりだってのに、また敵が現れることの空気の読めなさったらないよなぁ、とリンクは思ったがこれはもう諦めるしかないのだろう。なんせリンクは時の勇者であったし、その代わりは誰もいなかった。

「頭を拭くだけだって・・・どうして嫌がるのかなぁ」

心なしか猫がよくするような威嚇音が聞こえる。リンクは自分もまだ全然乾かしていない髪の毛をわしわしと撫でて部屋の隅に話しかけた。うう、と人とも獣ともつかぬ唸り声が帰ってきて、それから暗闇の中できらりと赤い色をした瞳が光る。テーブルに置かれたカンテラの光がうまいこと反射したのだろうか。

「・・・・・わかったよ、もうしない」

諦めたようにリンクがテーブルの上に布を置く。そのままぼすんとベッドの上に座ると、リンクの帽子の中に半分ほど入り込んで小さな寝息をたてていたナビィがううんと可愛らしい声をあげた。自分と同じく彼女もとても疲れているのだ。起こしてしまっただろうか、とリンクがナビィの様子を窺う。幸いなことにナビィは未だ夢の中のようだ。

「ほら、ダーク。こっちに来て」

神殿を攻略したリンクも、一度リンクに倒されたダークリンクも、どちらも血と汗とよくわからない何かでベトベトだった。だから宿屋のおばさんに頼んで大きな盥と水を用意してもらい、リンクとダークは先ほど布で体を拭いて、髪の毛をシャボンで洗って・・・色々大変だったのだ。ダークリンクは水の神殿にいたくせにあまり水を好まないようで酷く暴れた。もしかしたらダークはシャボンが怖かったのかもしれないし、リンクは下手をすると神殿から帰ってきた時よりも生傷が増えていたかもしれない。

「シークが僕と、それからお前にも服を用意してくれたよ」

ほら、おいでよと再度部屋の隅の暗がりに声をかける。またきらりと光った真っ赤な瞳がぱちぱちと瞬いて、それから暗がりからぬうと影が立ちあがる。一歩一歩とこちらに近づいてくるダークリンクを見て、別に髪の毛は乾かさなくてもいいから、せめて服は着てほしいなとリンクは思った。魔物だから気にしないのかもしれないが、全部丸見えだ。「影の魔物」らしいから、色以外は自分とほぼ同じ肉体をしている。なんだか自分の裸を見ているようで妙な気分になるし。

「服の着方はわかる?」

ベッドに座ったリンクを見下ろすようにして、立ったままダークリンクが動きを止める。股間が目の前にくるのがいやだったのでとりあえず隣に座らせ、リンクはシークから受け取った服をダークリンクに渡した。リンクがすでに着ているものと同じものだ。ダークはその服をまるで動物がやるようにふんふん嗅いで、それからぽいと捨てた。

「・・・・着る気ないの?」
「・・・・・・・」

黙ったままこちらを見つめてくるダークに呆れたようにため息を吐く。明日は一応闇の神殿に挑むつもりだってのに、その前の夜に全裸の魔物と1ハイリア人と1妖精っきりで就寝。ぞっとしないな、と思いながらリンクはダークが投げ捨てた服を拾った。7年後の世界では服一着でも貴重品なのだ。この何を考えているか良く分からない魔物に着させて駄目にするぐらいだったら、いっそ全裸で寝させた方が良いかもしれなかった。

「うーん」

なんでこんなやつ、拾っちゃったんだろう。とリンクはあの時の自分の行動を酷く後悔した。無表情で半ば機械的に動く、自分と同じ姿をした魔物だった。こちらも深手を負ったが、心臓を貫いて殺したと思ったのにほぼ死ぬ寸前でふと何かから目が覚めたような顔をして、泣きそうな表情でこちらに手を伸ばしてきた敵。最初は罠だと思った。人とは違う証の、銀色に輝く血のような液体を胸から流して、まるで幼い子供のように。・・・だからだろうか、治癒効果を持つ貴重な薬を分けてしまったのは。

「ま、しょうがないか」

ファーストコンタクト時とは違って敵意はなさげだしシークの驚いた表情も見れた、とほぼ無理やりな力技でダークにパンツだけ履かせて、リンクはベッドにもぐりこんだ。シーツの滑らかな触感が頬を撫でて、それだけでかなり機嫌がよくなる。文明を感じる、と思いながらリンクはにやにやと笑った。久しぶりにふかふかしたところで寝れる。いつもは大体神殿の中や木の上で、寝たような寝てないような浅い睡眠しか取っていなかったのだ。

だから、もう一個ベッドがあるのにどういうわけかこちらにもぐりこんできたダークを蹴りだす気にはならなかった。ほぼ閉じそうになっている瞼を少しこじ開けて、同じようにベッドに寝転んで何故かこちらの顔をまじまじと赤い瞳で見つめているダークをちらりと見る。

「・・・・おやすみ」

ジジ、と何処からか音がする。さっきより少し部屋の中が薄暗くなっているから、きっとカンテラに入れた油がそろそろ無くなる音だろう。ぱちぱちと瞼を瞬かせるダークの髪に触ると指が僅かに濡れて、リンクは自分も髪の毛を拭いていないことを思い出した。まぁどうでもいいや、と眠気に任せて目を閉じる。夢のなかでおずおずと、誰かが自分の髪を撫でているような気がしたけど部屋にはダークリンクしか居ないのだから、それは多分リンクの気のせいだった。


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