A chúisle mo chroí
「リンク」の記憶のないダークがリンクに抱く感情の話です。








ダークリンクには不思議な事にどうにもリンクから目が離せなくなる時があった。その時には必ず妙な感覚がある。夢から目覚めた時のように、世界が一瞬にして現実となり、重量を持ったような・・・そんな例えようのない余韻だ。さっと辺りが色づき、そして鮮明になった景色のなかでは目の前にいる男が周りよりも一等、光輝くようなうつくしい色をしている。

「またぼんやりしてる」

ほほにシチューがついているよ、とナプキンで拭われるまで、ダークは自分がものを食べていた事を忘れていた。気がつけば無造作にスプーンで掬ったせいだろう、やわらかく蕩けた肉の破片が白い皿の端に引っ掛かっていて、テーブルにソースを滴らせていた。やってしまった、と思いながらスプーンの裏で肉片を皿の中に押し戻す。茶色く煮込まれたソースの痕が純白の皿の上に残って、なんだか悪い事をしたような気持ちになった。

「ずっとこっちを見てたけど、なにか気になることがあった?」

パンを使って、皿に残ったソースをこそげとりながらリンクがそう訪ねてきた。ブラウンシチューと共に頼んだパンは中が白く、やわらかい上等のものだ。小麦を全て粉にして焼いた茶色いパンとは違うそれを、シチューと一緒に食べると美味しいんだと言って頼んだのはリンクだった。運ばれてきた物を見て、記憶と違ったのか彼は少し首をかしげたが、そのあとは何も言わないのできっとこのシチューと白いパンは「美味しい」に違いない。

「・・・・少し考え事をしてた」
「ふぅん・・・・、もしかして、あんまりおなか減って無い?」
「いや、空腹だった」

首を振ると、それはよかったといってリンクはたっぷりとソースがしみ込んだパンを口に運んだ。胴体の真ん中が空っぽになるような感触には未だ慣れない。腹が減るのも、物を食べるのも、夢から醒めたようになるのも皆目の前の男と出会ってからだ。そんなことを考えながらダークはスプーンにシチューを掬い、口へ運んだ。ほのかに甘く、塩気が強めで、まろやかで複雑な味と肉の味を主体とした香りはとても良いものだ。共に頼んだパンにソースをしみ込ませて食べると、パンの甘味がシチューの塩気と程よく絡み合って「美味しい」。

「ダークは、お城で何か食べたことあったっけ」
「どうだろう。忘れてしまった」
「そっか。俺もあんまり覚えてない、色々忙しかったし」

ここのシチューとパンも美味しいんだけど、お城の料理はこれまた格別だった。とレモンの実が入った水を飲みながらリンクが言った。大きめに切られた人参をほおばりながら、微かな記憶をたどる。ガノンを倒して、小さくなったリンクと7年前に戻って、そのとき自分は何をしていたのだろう。ダークリンクの半分ほどしかない小さな体が傍に無かった時の記憶はあまりはっきりしていない。城下町で宿を取って、ずっと窓から外を眺めていた気もするし、ハイラル城の一室で、ずっと寝転がっていたような気もする。詰まるところ、どちらにもあまり興味は無かったのだ。

人参を飲み下してリンクと同じように水を口に含む。レモンの皮の匂いが水にうつって、中々にいい香りだった。旅の最中に、皮袋の中に入れているみずがどうしても臭くなってしまうから、こういう風に香り付けをしたらいいのかもしれないと考えるとリンクが同じような事をいった。

「これ、いいアイデアじゃない?」
「そうだな」



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