はちみつとおちゃのはなし
夕食後に熱い茶を沸かして飲むのはずっと昔からの習慣だ。大きな鉄のコップの取っ手に布を巻きつけて、ふぅふぅ言いながらたっぷり飲む。胃はほんわかあったまるし、何よりなんだか心が落ちつく。冬になると特にそうだが、ふわふわと出た湯気が夜空に溶けて行くのはなんともいえない風情がある。まつげに水滴がついて重くなるのが、ちょいと億劫ではあるが。

「苦い」

そういえばこの魔物の妙な舌も、昔から変わらないままだ。
熱を感じないのだろうか。熱い液体がはいったコップの取っ手を布もまかずに素手で握って、び、と舌を出しているダークの様子を見る。今日の食後の茶は、少々奮発して紅茶を入れた。ダークはリンクと同じように何にも入れない紅茶を飲んでみたのだろう。眉間に皺が寄っている。この魔物は普段は甘いものを食べないし、食べたとしても果物と果汁をかためたゼリーぐらいのようなものだったが、飲み物には何故かどばどば甘味を入れる。リンクも昔はそうだったが、今では入れない方が好きだ。そもそも紅茶なんて、そう苦くもないと思うが。

がちゃがちゃと音を立ててダークが自分の布嚢の中を漁っている。取り出したのは琥珀色のはちみつがたっぷりと詰まった大びんと、もう半分以下に減っている、紅色のジャムが入った小瓶だ。どちらにしようか迷っているらしく、両手でそれぞれを持ちながらダークが唸り声を上げた。

「冷めるぞ」
「・・・迷ってるんだ。どっちがいいか」
「紅茶にはジャムが合う」
「でも、残り少ししかない」

それ以上口をはさまずに眺めていると、もう一度うーん、と唸ってからダークは蜂蜜の入った大瓶を手にとった。量的な問題で選ばれたらしく、ジャムの入った瓶のほうは大事そうに袋の中にしまわれた。

「綺麗だな」
「・・・舐めるか?」
「少しだけ」

スプーンでたっぷりと掬われた蜂蜜が焚火の光を反射してとろりと光る。恐らくあの量を入れた紅茶はとてつもない甘さになるだろう。少しまて、と言いながらダークは山盛りの蜂蜜をコップの中へ落とした。そのままもう一度スプーンが瓶の中へ入れられて、今度は先ほどに比べれば少量の蜂蜜が掬われる。

「ほら」

差し出されたスプーンを咥える。独特な香りと、味蕾に直撃する暴力的な甘さを感じた。リンクの口から引き抜かれたスプーンをダークはぺろりと舐めて、それから自分のコップに入れてぐるぐるかき回した。恐らくあの紅茶は、蜂蜜の味しかしない。

「美味いだろ」
「甘い・・・」

歯が痺れるような錯覚を感じた。紅茶を含んで口の中の甘さを洗い流すと幾分すっきりした心地になった。眉をひそめて、手の中のコップを見つめて、もう一口。ダークも自分の紅茶を飲んで、それからリンクと同じ顔をした。

「蜂蜜はミルク用だな」
「ジャムの方が合うな」

同じような感想を言い合って、それからなんとなしに同時にカップを交換した。ダークはなにも入れていない紅茶をのんでやっぱり苦い顔をしたし、リンクは蜂蜜の甘さと、それからなんだかちょっぴり感じる妙な苦みに苦い顔をした。それから、二人の間で蜂蜜は紅茶に二度と使われなくなったのだった。


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bkm
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