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「なるほどな、その姿はシーカー族の手を借りたのか、それとも自らの持つ力を使ったか」
「王族のことをよく知ってるのね・・・マスターソードを持つ貴方は、本当に昔話の勇者様なのかしら」
「いいや、俺は違う。俺は勇者ではないし、時の勇者も来ないだろうよ」

ガノンが倒されていないのがその証拠だ。だからもし現れていたとしても配下にすでに殺されているか、それとも学習したガノン自ら赴いて殺したか・・・。とにかく、ハイラルが現在滅びかけているなら、どちらにせよ勇者は現れていないのだ。

「マスターソードは何処にある?まだ誰にも抜かれていないんじゃないか」
「昨日までは、確かに。でも貴方の持つそれがそうなのでは?」
「これはただのレプリカ。退魔の剣を模した剣だ」

斬れないものはないが、闇は払えない。こちらに向かってきたキースを切り捨てると同時に唸りを上げる水の中に投げ込む。水を紅く染める間もなく、あっという間に魔物の死体が押し流されて消える。

「マスターソードはハイラル城の中に。でも、もう、」
「水に沈んだか」
「ええ、たった今」

水が全てを飲みこんでしまった。遠くを眺めながらつぶやくようにゼルダ姫が言った。同じ方向に視線を向けても何も確かめることが出来なかった。先程までは屋根が見えていたのよと言われて頭を振る。例えゾーラの服を着ていても、この濁流の中では意味がないだろう。

「私達以外に生き残った人は、いるのかしら……」
「ハイラルには高い丘が多い。ある程度は生き残るはずだ」

足元まで迫り来た濁流を見る。すでに小降りになり始めた雨が止めば、おそらく水流もこれ以上は上がらない。最もこの場所が飲み込まれない保証はどこにもないが、この女一人を生かすぐらいの力はある。ハイラル最後の王家の血、胸に抱いたデクの木の種。どちらも死なせるつもりはない。

「あ、雨が・・・」

ぽつ、と小さな水滴がほほに当たって、おそらくそれが最後の一粒だった。


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bkm
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