おしゃべり3
リンクの使命は無事に終わりました。ダークはマスターソードを掴んで投げたために焼けただれた手をぶらぶらとさせながらほうと安堵のいきをつきました。あいつが死ななくてよかった。

「ダーク、何もかも終わったよ」ゼルダ姫と話をしていたリンクがダークに話しかけました。「ああそうだな」とダークは答えました。「悪は滅びた」

リンクは焼けただれたダークの手をすまなそうに見ました。「痛む?」ダークは首を振りました。痛みを感じたのはたった一瞬でした。今はもう痛くありません。自分は魔物だから、聖剣を強く握りすぎて大きすぎるダメージを受けたんだろうなとダークは思いました。

「………僕、七年前に戻ることになった」
「え」
「このハイラルの悲劇を繰り返さないように」

リンクはそう言って懐からオカリナを取り出しました。時のオカリナという名前のそれを、ダークは何度か見たことがありました。不思議な力が宿っている聖なるオカリナ。旅の途中でそれを見た時ダークはただ便利なものだなとしか思いませんでしたが、今となってはそれを粉々に砕きたくてたまりませんでした。

「……そんな」
「え?」
「いや、」なんでもない、とダークは静かに答えました。彼は、以前言った夢を忘れていませんでした。様々なものを見て回りたい、でもそれにはリンクはついてこないだろうから、いろいろな旅の欠片をリンクに届けようと思っていたのです。例えば道端の石英、風に揺れる知らない名前の花。

「ダークとはお別れだね」
「……………ああ」
「それじゃ、元気で」

リンクが差し出してきた手をダークは握れませんでした。なのでリンクはダークの手を掴んで無理やり握手をしました。全く感覚のない手がリンクに握られているのを見て、ダークはなんだか悲しくなりました。彼はリンクに触れるとき、言いようのない懐かしさを感じることがありました。それはほんの少しの違和感なのですが、なんだかどこかに帰ってきたような気がして、彼はそれを密かに好んでいたのです。

「行かないでくれ」とダークはゼルダ姫のもとに向かうリンクに声をかけようとしました。でもやめました。その代わりこんなことを言いました。

「前に、ガノンが倒されたらどうしたいか話をしたな」
「……うん?うん、したね」
「俺は旅がしたいと答えた」
「うん、色んな所に行きたいっていってたね」
「そのつもりだった」

ダークは歯切れが悪くそんなことを言いました。リンクが不思議そうに首を傾げます。なんでやらないの?きっとすごく楽しいのに。

「………本当はお前たちと、旅を続けたい。そう言いたかったんだ」

リンクは「あ」と声を出しました。それから少しうつむきました。ナビィが近づいてきて、ダークの頬にそっと体をすり寄せました。ダークは手が動かなかったので、頬をすり寄せ返しました。ナビィは悲しそうに「一緒に帰れないかなぁ」とゼルダ姫に言いました。ゼルダ姫は少し唇を引き結んで、それから首を振りました。

皆少し泣きました。リンクもダークもナビィも、ゼルダ姫も。ゼルダ姫は泣きながら時のオカリナを吹きました。リンクも目から涙をひと粒こぼして、それから光の奔流に飲まれてこの世界から消えてゆきました。ちかり、とナビィの羽のきらめきが最後に二人の瞳に移りました。

「本当は、リンクを返したくなかったのですよ」とゼルダ姫がいいました。ダークは元々赤い瞳を涙でますます赤くしながら言いました。「わかってるさ」

「あいつ、この旅が終わったらあんたと一緒にハイラルを立ち直したいと言っていた」
「………、」

ゼルダ姫はオカリナを胸に抱きました。耐え切れぬ嗚咽が聞こえました。ダークはゼルダ姫に「泣くなよ」といいました。「俺だって泣き喚きたいほど辛い。考えていたささやかな夢がすべて消えたんだ」

ゼルダ姫が涙をぬぐって「どんな夢だったのですか?」とダークに尋ねました。ダークは一瞬言い淀んで、それから恥ずかしそうに「旅をして、世界の色々な欠片を集めて、リンクに見せたかった」と言いました。あいつを誘ってもどうせ、ここで忙しくなるだろうと思っていたから。と。

「素敵な夢ですね」ゼルダ姫が頬笑みを浮かべて言いました。「もしあなたがこれから旅を始めた時は、時々その欠片を私に見せてくれないでしょうか」

ダークは少し考えて、それから「いいぜ」と答えました。「どうせリンクはあんたの隣にいただろうし、俺はあんたにもそれを見せるつもりだったんだ」









ゼルダ姫の書斎にはいくつかの、知らない人が見たら姫の部屋にはふさわしくないとおもう品物があります。それは歪な形をした石英だったり、葉っぱが一枚取れてしまった元よつばのクローバーの押し花だったり、どこかの村の伝統工芸品だったりしました。ゼルダ姫は時折それを机の上に並べ、楽しそうに眺めておりました。ゼルダ姫の書斎を掃除するメイドたちは、一体だれがこんな物をゼルダ姫に差し上げているんだろうと首をひねります。その出所が不思議な品物達は、ふと気がつくとその数が増えているのです。

「よお姫さん」

ゼルダ姫が書斎で調べものをしているとこん、と窓に石があたりました。窓をあけると下で赤い瞳がきらりと光って、笑うように歪みました。ゼルダ姫がランプをかかげると、ダークはするすると窓近くの木に登って、それから書斎の窓に飛び移りました。

「お久しぶりですね、ダークリンク」
「そうだな、あんたは大した病気もないようで何より」

ダークはにやりと笑いました。ゼルダ姫がダークの髪の毛についていた葉っぱを取ってやると、ダークは荷物を漁りながらありがとよと言いました。

「今日の土産話はハイラルの本当にすみっこにある村の話だ」

右肩にかけた袋の中から小さなオレンジ色のカボチャをくりぬいて作られた特徴的な置物を取り出して、ダークが話し始めました。ゼルダ姫はダークが持ってきた旅の欠片を、専用の棚にそっと置きました。きっと明日の朝、一つ増えた棚の品物にメイド達はまた驚く事でしょう。一体誰が。その真実を知っているのはたった3人、ゼルダ姫とダークリンクと乳母のインパだけでした。


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