son of medeyusa
タイトルままパラレルマジカル
このダークは黒髪白い肌赤目です












醜い顔には猪の牙。見事な髪の毛は蛇に変えられ長い舌が垂れている。青銅の腕と黄金の翼を持ち、手の先には鋭い鉤爪。でも何よりも恐ろしいのはその瞳。見た者を石に変えてしまう恐ろしさを抱いた、真っ赤な瞳。


son of medeyusa


メドゥーサの息子。それは古い古い、若者だったら笑い飛ばしてしまうような伝承でした。真っ赤な瞳を持つ者は周りに災いを呼ぶだろう。さながらポルキュースとその妻ケートーの子、ゼウスの娘アーテナーの怒りを買った女、メドゥーサのように。年老いた大人たちはどうしてか口を揃えてそういうのです。だから皆、なんとなく赤い瞳の人間をそう呼んでいました。メドゥーサの息子、または娘。人を石に変える力は失われたけれど、そのかわりに周りを不幸にしてしまう子供。

勿論、だからといって皆そんな特徴を持った人間を差別するようなことはしませんでした。元々赤い瞳を持つ子供なんて生まれないのです。一般的に、人間の瞳の色は薄茶色、空色、濃い黒、それから時々淡い緑。そんなものでした。それに、赤い瞳を持つ生き物ならばある種の魔物や家畜にもいましたし・・・だから「赤い瞳の人間」というのはただおとぎ話として残っただけの特に意味のない風習でした。少なくともそれを唱える老人たちの多くも、そして若者たちはみなそんなことを思っていました。主にそれは子供の寝つきが悪い夜に、大人たちみんなで暖炉の前で子供に伝える。そんな役割の話だったからです。

「メドゥーサの息子?」
「そうだ、リンク。よく覚えておきなさい」

リンクがその話を聞いたのは、騎士として勤めている父親が2日ぶりに領主の元から帰ってきたある日の夜でした。暖炉の前に置かれた大きなロッキングチェア。その上で父親の膝に抱かれ、温かいミルクを入れたカップを両手で持ちながらリンクは首をかしげました。メドゥーサの息子、それは彼が今まで一度も聞いたことのない話でした。

「神話の勉強は済んでいるかな?」
「うん、この前インパ先生が教えてくれたよ」
「そうか、ならメドゥーサの話も習っただろう」

リンクが頷きますと、彼の父はほほ笑んでリンクの頭を撫でました。よい子だ、と言われてリンクは少しはにかんで、それからミルクを一口飲みました。メイドが作ってくれたそれには甘いはちみつがたっぷり入っていて、飲むとほんわり幸せな気持ちにしてくれるのでした。

「でも、さっきみたいな話なんて聞かなかったよ」
「そうだな。それは彼女の役目ではないからな」

これは親が、もしくは祖父母が子供に伝える話だから、と父親はリンクの髪を撫でながら言いました。彼譲りの金髪がさらりと揺れて、手の平からしたに落ちていきます。

「いいかい、よく覚えておきなさい。赤い瞳は災いを呼ぶことを・・・」

そう言って彼は二人の女性の名前を小さくつぶやきました。それは6年前に流行病で亡くなったリンクの母親の名前と、5年前にリンクの2歳下の弟になるはずだった子供を産んで死んでしまった女性の名前でした。立て続けに愛する女性を無くした彼はそれ以降妻を娶るのはやめてしまい、騎士の位を持つのにふさわしい大きな彼の屋敷に住んでいるのはまだ7歳になったばかりのリンクと、彼と、何人かのメイド。それから一人の年老いた庭師だけなのでした。

ぎゅ、と父親に抱き締められて、リンクはコップの中身がこぼれないようにしながら父親の腕の中に体を預けました。ぽた、ぽた、と上から滴り落ちてくる涙がまだ半分も飲んでいないミルクの中に入ってしまうのをぼんやりと見ながら、リンクは先ほどとは真逆の気分でもういない2人の母親のこと、生まれてすぐに死んでしまったという弟のことを思いました。2人目の母親と同じ黒髪で、目はリンクと、それから父親と同じ空色だったそうです。今ここに弟がいたら、3人で抱きしめあって、2人で眠るのには広すぎるベッドで一緒に寝ることが出来たのに。リンクはそんなことを考えながら、父親と同じように目から涙を流しました。彼と、彼の父親の涙が混ざったミルクは随分しょっぱくなってしまったことでしょう。でも、例えミルクの味が変わらなくてもリンクはもうそれを飲もうとは思いませんでした。甘くて優しいホットミルクの味は今の気分と合っていなかったからです。

「・・・・すまない、リンク」
「ううん、いいの」

湿っぽくなってしまって、と謝罪した父親にリンクは首をふりました。しめっぽいってどういうことだろう、とは思いましたが、それでも何となく父が言っている意味はわかりましたので彼はそう答えました。「もう寝ようよ」と言うと父親は頷いて、リンクの手からカップをとりました。そして絹のハンケチでリンクの顔を拭いてやりました。リンクも自分のポケットからハンケチを出して、父親の顔を拭いてやりました。親子はお互いの顔をある程度綺麗にし終えて、それからほほ笑みあいました。

「おやすみ、リンク」
「うん。おやすみなさい」

寝る前にリンクの父は彼の額にキスをしました。リンクも父親の頬にキスをしました。父親の頬は髭で少しじゃりじゃりしましたが、彼は特に気にしませんでした。メイドが今日の朝に日に当てて乾かし、綺麗に整えたベッドはいつもよりふかふかしていて、優しく彼らを包み込んでくれることでしょう。そうして2人の親子は、2人で寝るには途方もなく広いベッドの真ん中で抱きしめあって眠りに就いたのでした。


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