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青年は目覚める様子もなく眠り続けた。彼を包んでいた妙な物体はしばらくして空気に溶けるように消えてしまって、あとに残ったのは空の瓶と折れた短剣、それから何故か船底に散らばっていた少量のルピーだけだった。リンクは特に理由も無く、そのルピーと短剣を空の布袋に入れて、瓶と共に彼の腰に結びつけておいた。

「恐らく、彼が包まれていたのは彼自身の魔力だろう」

船の上で一晩明かしても起きる素振りのない青年を医者に見せるために、タウラ島へ向かう風を操るリンクに赤獅子の王はそう呟いた。懇々と眠る青年をちらりと見たリンクが不思議そうな声を上げる。

「魔力って、あんなふうにできるものなの?」
「強い力を持つものならば……見たところ歳は17程のようだが、外見通りというわけではないだろうな」
「確かに、地図通りの場所に沈んでたし」

懐から古びた地図を取り出して、リンクはそれをしげしげと眺めた。相当古いものだ。プロロ島よりも小さな島に住んでいた老婆から、悩みを解決した礼にもらったものだった。先祖代々伝わってきた宝の地図だよ、と言って老婆は宝の場所を表すバツ印の隣に小さく三角の形を書いた。リンク達はそれをトライフォースの欠片を表す意味だと思ったのだが……早とちりをしすぎたな、と彼はため息をついた。

「ねぇ王様、これが……本当にこの人のことを指す地図だったらさ、一体何年前の人なんだろう」
「地図が古いということはわかるが、そこまではな。彼が起きてからゆっくりと話を聞こう」
「そうだね、早く起きないかな」

青年の体は未だに氷のように冷えている。いつもリンクが使っている毛布をかぶせてはいるがその体は一向に暖かくなる気配がない。船の上で火を起こすわけにもいかず、気つけ薬の類も二人は持っていなかった。

「……大丈夫だよね、」

タウラ島の影が近くなってきたところで、リンクは何を確認するでもなくもう一度青年に触れた。呼吸をしているのにその体に体温を感じない、というのは随分不安になるものだった。当たり前だ、そうなって生きている人間はいないのだから。

(………人間、は)

冷えた手首を取り、脈を測りながら。ふと、彼を引き上げた時に赤獅子の王が言った言葉をリンクは思い出していた。


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