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ハイラル城に魔物が攻め込んだ、そう大声で叫ばれた内容に群衆がざわめく。なんで、と誰かが呟いた。城には結界が張ってあったはず。

次いで、ひぃ、とどこかで甲高い悲鳴が聞こえた。一際ざわめきが激しくなった方向を見ると、城下町を囲む塀の上に一匹のウルフォスが立っていた。口に何かを咥えている。

「人の……足よ、あれ」

隣にいた女がくいと袖を引く。ウルフォスだ、魔物だ。とざわめく群衆の声に紛れて、逃げましょうとか細く怯えた声が聞こえた。返事をしようと口を開いた瞬間、人の間を縫って妙に生ぬるい風が吹き荒れた。それと同時にズ、と小さな音が聞こえた。きっちりとはまっていた何かが僅かにずれるような音だった。

「……まて、おかしい」
「え?」
「何かが来る、耳を澄ませてみろ」

ハイリア人の耳は長い耳。神の声は碌に聞こえやしないけど、物音には酷く敏感だ。袖をつかんでいた女の手を外し、自らの耳に当てさせる。物事を良く聞く長い耳。俺にも聞こえたのだ、きっとこの女にも聞けるはず。

「なに、これ」
「……聞こえたか?」
「地面から、音がするわ」

大地から何かが沸き上がってくる、と震える声で女が呟いた。だんだん大きくなるその不吉な音。

「……ここから逃げるぞ」
「え、」
「いいか、あんたはコキリ族から託された種を持っている。だから生き延びなければならない」

俺が護衛する。というと女は蒼白な顔で頷いた。落とさないようにか、種が入っている胸元を抑えながら歩く女の手を取り、群衆をかき分ける。

「こ、これ、水の音よ。雨が良く降った次の日の、川みたいな音」
「……そうか、高台へ逃げるぞ!」

いつの間にか足元の地面が水気を帯び始めていた。敵に居場所がバレる、と内心舌打ちしながら女の手を引き、走る。目の前に現れた生き物は魔獣も悪しき魂もすべて切った。黒剣を鞘から引き抜いたときに女は一瞬息を飲んだが、そのあとは何も言わなかった。


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bkm
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