城下町には沢山の人が集まっていた。泣き喚く声、祈る声、何かをつぶやく声。おんおんと空気を轟かせて響いている。隣に佇んでいた女がああ神様、と手を組んで祈りを捧げている。どうかお助けください。その言葉が次々に伝染して、いつの間にか皆そう祈り始めていた。神様、時の勇者さま、どうかハイラルをお助け下さい。魔王の魔の手からお救いください。

「……あなたは、祈らないの?」
「祈ってどうなる」
「少なくとも何もしないよりはましだわ」

神様はいるのよ、と少し涙目になりながら隣で祈っていた女が呟いた。トライフォースという存在があるのだから、確かに神はいるのだろう。ハイリア人の長い耳は、神の声を聴く長い耳。ならばお前に神の声が聞こえた事は一度でもあったのかと問いかけようとしてやめた。

「……他の種族たちはどこにいるんだ?」
「わからない、でもきっとあの人達も自分たちの居場所で祈っているはず」

デスマウンテンは黒い噴煙を吐いてずっと噴火し続けている。川は干上がり、ゾーラ達の姿は見えなくなった。ゴロンの里へ続く道もゾーラの里へ続く道も、どちらも今は閉ざされている。

「コキリ族はどうなっている?」
「……貴方、今まで何処にいたの?」
「俺はハイラルの外に出ていたんだ、……魔王が復活したと聞いて、戻ってきた」
「そう…死ぬかもしれないのに?」
「自分で言うのもなんだが、俺はそこそこ腕が立つ方だ」

ハイラルの力になれればいいと思った。そう話すと女は嬉しそうに、それでいて少し泣きそうな顔をしてほほ笑んだ。

「ありがとう……そういえば久しぶりに剣を携えている人を見たわ。もう皆戦うことは止めてしまったの。戦っても、殺されて魔物が増えるばかりだから」
「………そうか」
「美しい剣ね。どこかで見たことがある形をしているけど、有名な鍛冶屋の作品?」
「……そんなところだ」

そういえば、これは聖剣を模したものだった。それを思い出して今更マントの下に隠しておけばよかったと思ったがもう遅い。眉間に皺を寄せて何か考え事をしている女に、コキリ族はどうなったんだと話を逸らすようにもう一度問う。

「…………コキリ族?コキリ族は森から出てこないわ」
「生きてはいるんだな?」
「それも…ううん、ちょっと耳を寄せて、内緒だけどね、私はコキリ族の友人がいたの。その子が言っていたんだけど、彼らはほかの種族と違って森から離れられないのよ」
「………」
「だから、私預かったの。もし、もしよ、ハイラルに何かがあったら、これを撒いてって」

懐から取り出されたのはデクの種だった。それも普通のものとは違う、どこか神聖な光を種の割れ目から放っている。淡い翡翠色に輝くそれは、恐らくデクの木の種子。

「私、怖い。ハイラルに何が起こるんだろうって、これを預かってからずっと思ってる……」

おんおんと祈りの声が聞こえる。神様、お助け下さいと群衆の声が唸るように空に響いている。デクの種を懐に戻し、うつむいてしまった女にどう声をかけようかと迷っていると遠くのほうで誰かが魔物だ、と叫んでいる声が聞こえた。


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bkm
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