「うへぇ、触りたくないなぁ」
「いいから、やってみなさい。欠片が入っている可能性があるのだぞ」
「わかったよ……藻の塊かなんかだといいんだけど」

もう十分待った、と赤獅子の王がリンクを急かす。船内に鎮座している黒い物体はあれから暫く日の光にあて、更にリンクがわざわざタクトを使って風を吹かせたおかげで十分に乾いていた。引き上げた時からいくらか体積が減ったそれから1メートルほど離れて、さらに念のためにと盾を構えながらリンクがマスターソードの剣先でちょいちょいとつつく。

「…………」
「もっと」
「うう……」

絶対トライフォースの欠片じゃないよこれ、と半泣きになりながらリンクが先ほどより強く剣を突き出す。固く、それでいて僅かにぬめったものを切ったような不思議な感触とともに物体に深く切れ目が入り、中に入っていた何かに反射した日光がきらりとリンクの目を刺した。

「わっ、まぶしい」
「欠片か?」
「…ううん、違うみたいだよ王様。これ、ビンだ」

塊の中に埋まっていたのはただのビンだった。海底に沈み、得体のしれない物体に埋もれていたというのに全く汚れている様子のない透明なビン。防御の構えをとかないまま、リンクが塊に近付いて露出したそれをしげしげと眺める。口をふさいでいるコルクは失われ、中身は空になっている。

「多分これが、海の中で光ってたんだ」

ぽん、とリンクが塊からビンを抜きとり、それを日の光にかざす。もう日が沈みかけているせいで黄昏色に染まっている空が、ビンの向こうで滲んで揺れる。良く良く見れば傷だらけのビンは恐らく大切に使われてきたのだろう。どんな人がこのビンを使っていたのだろうと思いながらリンクは未だ船内に鎮座したままの黒い塊に向き直った。赤獅子の王が魔物か、なんて言うからなんだか触りたくなくて処理を後回しにしていたが、考えて見れば後回しにするだけこのよくわからない物体と一緒に海上でたゆたうはめになるのだ。

剣と盾をかまえなおし、もう一度表面に刃を入れる。頼むから魔物や死体が出てきませんようにと祈りながら、リンクはゆっくりと謎の物体の解体を再開した。


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bkm
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