ハイラル、という国が治める土地から出ようとする国民は少ない。ハイリア人、ゴロン族、ゾーラ族、コキリの子どもたち。それぞれの種族に適している土地がハイラルに存在しているからだろうか。それとも適しすぎている故に離れられないのか。ゲルド族を除いた彼らはある意味閉鎖的に、昔からずっと美しかったあのハイラルで生きている。

「ねぇあんた、あたしらに色が似てるけどさ、ハイリア人だろう」
「……ああ」
「わざわざ死に行くのかい?」

途中ですれ違った、自分と同じ褐色の肌をした、ゲルド族と見られる老婆にはそんなことを尋ねられた。

「……死に行くつもりはない」
「駄目だよ、せっかく外にいたのに、今のハイラルに行くんじゃない。命を無駄にする。あんた誰が魔王だか知っているのかい」
「………、」
「あたしらは知ってるよ……ゲルド族の、あたしらから出た魔王だもの。よぅく知ってるよ……」

ガノン様は恐ろしいお方だよ。と老婆は話しの途中で俯いて、そう聞き取りづらい声で話した。あたしはゾーラにも、コキリの子どもにも、ゴロンにも、ハイリア人にも、みぃんな逃げろって言ったのにね。あいつら話を聞いてくれないんだ。何度願ったってもう、伝説みたいな時の勇者なんてこないさ。ハイラルの何がいいんだろ。

「あたしはハイリア人が嫌いだよ。傲慢な民だ。あたしらの神を邪神と決めつけ、あたしらをも隔離した。同じハイラルに住む生き物だってのに、ゲルドの住む場所は砂漠さ。何もかも風化させる荒れ果てた死の大地なんだよ」
「…………」
「でもさ、何も死んで欲しくはないんだよ。だから逃げろって言ったのにね、だぁれも逃げなかった……!あんた、これまでに一人でも、たった一人でもハイラルから逃げているハイリア人を見たかい」
「……いいや」
「だよねぇ、逃げないんだ。逃げるのはあたしらゲルドやハイリア人以外の者だけさ、あのひとらは逃げないんだよ。ただただ、神に祈ってるんだ」

憎いが生まれ育った場所だ。ほんとはあたしらも、ハイラルに残りたいと思えたらよかった。そう言って老婆は俺の手を握ってはらはらと涙を流した。頼むから死ぬんじゃないよ、と言われて渡された瓶には空のように青い色をした液体が入っていた。あいつの目の色だ、と思いながら老婆に礼を言ってまた走り出す。国境を越えて、途中で出くわした魔物はすべて切り捨てて、そしてハイラルが一望できる丘まで走った。丘から見渡したハイラルは前よりも酷かった。生きた生き物なんていないんじゃないかと思うほど、とてもひどい有様だった。ガノンは本当にこんなハイラルが欲しいのだろうか。


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bkm
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