喉が焼ける、心臓がありえないほど脈を打っている。走りどおしの両足は気を抜けばすぐに力が抜けて地面に崩れ落ちてしまいそうだ。ぜえぜえと鳴る呼吸音をうっとおしく感じながら、懐に入れておいた瓶を抜き取って、中の薬を無理やり飲み下す。甘苦くてしつこい、嫌な味の液体が喉の奥に滑り落ちて行く。この薬の味は何年たっても変わらないから嫌になる。

しかし、それでもその効果は劇的だ。力を取り戻した足を自分にできる限りの早さで動かし、走る。走る。旅の途中で手に入れた様々な荷物はもうどこかへ捨ててきてしまった。残っているのは攻撃手段の黒剣と、盾代わりの短剣。それから腰につけている最後の一瓶だけ。

「ねぇ、そっちはハイラルよ。今は魔王が、」
「いいからいかせてやれ」
「どうして!」
「耳を見なかったのか、あいつはハイリア人だ」

走ってハイラルへ向かう道中、なんどもそんな声を聞いた。ハイラルには数少ない、ハイリア人とは違うまるい耳を持つ種族。その他、ゴロンやゾーラ、コキリ族とも違う特徴を持った人々。魔王が、ガノンが復活したのは何年前のことだったのだろう。ハイラルから遠く離れた地にいた俺がその噂を聞いたのはたった2日前のことだった。それからずっと走り通しで、吐く息からはかすかに血の味がする。それでも走った。

ハイラルの国境まであと僅かだ。でも、あの人きっと死んでしまうわ。と泣いている女の声を後ろに聞きながら更に足に力を込めた。ここからでも見えるハイラルの空はあの時と同じ灰色の空だった。魔王は確かに復活したのだ。


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bkm
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