「…………リンクは、そうして魔王ガノンドロフを倒し、時のオカリナを使って過去へと、戻って行きました」
「そうか」
「…私が話せることは以上です」

目の前の女は語る。俺がこの目で見ることが出来なかったあいつの姿、魔王と勇者の戦い。その結末を。
それを最後まで聞き終えて、座っていた襤褸椅子から立ち上がる。古い木と木がすれ合う歪な音が壊れかけた小屋の中にやけに大きく響いて、女が怯えたように少し体を竦ませた。それに構わず扉の前まで歩き、ドアノブに手をかける。

「………あの、」
「なんだ」
「どこへ行かれるのですか」
「……分からない」

後ろから飛んできたか細い声に、振り向かずにそう返事を返す。がちゃ、とドアノブを回す。一歩外に足を踏み出しても、制止の声は飛んで来なかった。そのままさくさくと草を踏みしだき、空を見上げる。澄み渡るような晴天。自分が知った空ではない。あいつが全部はらってしまった。魔王がハイラルを支配していた頃のあの禍々しい空模様は、いまはこの地のどこにも無い。

「帰さなければよかったのに」

英雄譚を語る女の、揺れていた水色の瞳を思い出す。泣くのなら帰さなければよかったのだ。一緒にいてくれと願えばよかったのだ。優しいあいつならそれをきっと叶えてくれた。あの姫と共にこのハイラルの地を立派におさめただろう。魔王とは違って。


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bkm
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