けもの2
どうしてこうなるんだろう、とリンクはダークに対して何度も何度も思ったことがある。それはつい助けてしまって、カカリコ村に連れてきたら夜に地味な乱闘を繰り広げたこともそうだし、あとは目玉焼きの白身はなんでか残してしまう贅沢な好き嫌いのこととか、シークをやけに威嚇することとか、勿論魔物だからだけど日常生活のことがからきしなこと、あとはダークリンクがやけにくっつきたがりの甘えんぼなバカだったこと。とにかくそう、色々だ。自分が平和な7年前と、争いが絶えない7年後とを何度も何度も行ききして、ちょっと精神的につかれたな、なんて考える暇がないぐらいにはリンクにとってダークリンクは厄介な存在だった。唯一の良いところは聞きわけがそこまで悪くないことと、自衛手段は十分に持っている事だろうか。それから行動がちょっと間抜けでおもしろいところ。

「それで」

とリンクはやれやれと思いながら言った。7年前から戻ってきて、やれやれ。頼み込んでダークを預けていたカカリコ村でやっと休めると思ったらこれだよ。ダークがコッコを逃がしてしまったことをお姉さんに謝ったり、あとは大工の息子さんに付きまとっていたらしいのを笑いながら報告されたり、と笑いあり怒りありのちょっとした日常を体験して、疲れた体を取っておいた宿で休めようと思ったのに。

「どうしたの?ダーク」

身体を拭いて清潔にし、疲れた体を癒やそうとベッドに寝転んで目を瞑ったらいきなりだ。腹にずしんと走った衝撃にリンクは思わずうめき声を上げて起きたのだ。勿論そんなことをするのはダーク以外にありえないので、怒る準備は十分に出来ていた。まぁそれは、なんだか泣きそうな顔をしたダークリンクの顔を見て少しどこかに吹っ飛んでいってしまったけど。

「何かあった?」

ダークは基本的に喋らない。それは彼が声を持っていないとかそういうことではなく、ただ単純に無口なのだ。その証拠に不満気な唸り声や満足そうなため息、押し殺した笑い声なんかは時々耳にする。でも、黙ってちゃわからないよ、と言ってもダークは何故か喋らないのでリンクはどうにかこうにか彼の言いたいことを推測するしかなかった。そしてここらへんは、ダークリンクが赤ん坊に近い知識しか持っていなかったことが幸いしたとも言える。ダークが求めるものはひどく単純なことばかりだった。

「…………、」

うう、とむずがるような唸り声を出してダークが涙目でリンクを見る。よく観察してみれば息が荒いし、手が震えている。肌の色がゲルド族に似ているから、あまり違いは見れないがなんだかほほが紅潮している気がする。魔物が風邪を引くのかは知らないが、熱でもあるのかと額に左手を伸ばすとダークはその手に縋るかのように強く頭を押し付けた。

「具合がわる………ダーク…?」

お前、何を。と続けようとした言葉は空に溶けていった。体が密着しているあたりがやけに熱い。部位的にあることに思い当って思わず絶句したリンクに向かって、ダークリンクがどこか切なそうに鼻を鳴らした。

「うそでしょ…」

ダークは自分で処理できるだろうか。できないだろうか。出来なさそうだな。だってこいつと来たらフォークの持ち方もコッコの卵が目玉焼きになってることも知らなかったのだ。それに自分でどうにか出来るんだったら、こんなふうに、まるでこちらを誘っているみたいな行動なんてしないだろう。リンクは一瞬でそんなことを考えて、頭を擦り付けるだけでは飽きたらずとうとう指を甘噛みし始めたダークの様子を見てこう思った。ナビィが散歩に出かけていて本当によかった。


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