老人リンクと死を理解してなかったダーク
ふぉろわさんからもらったネタです。
趣旨にそえてない気もするしダークのキャラがぶれぶれぶれ






ダークリンクが時の勇者と旅を始めてからどれだけの月日が立ったことでしょう。ナビィを探しに旅をして、タルミナという異世界に共に迷い込んで、そこでまた世界を救い、それからまた旅を続けて…。ダークには時間の感覚がありませんでしたから、それらは皆朝が来て太陽が出、夜になり月がのぼることと同じでした。ナビィは見つからないけれど、リンクとする旅は楽しい。ダークリンクは魔物の感性でもって、勇者との旅を楽しんでおりました。

「ダーク、そろそろ休もうか」

リンクがそう言うことに、ダークの異議はありません。わかった、と頷いてダークは焚き火の薪を集めに行きました。彼の瞳は夜でも見える特別製でしたから、夜の闇なんてものは彼にとってあってないようなものでした。リンクはふわりと夜に溶けたダークの後ろ姿を見送ってふうと息をつきました。もう壮年と言ってもいい年ごろでしたので、彼は最近体力の衰えを感じておりました。若い時のような無茶はできないなと彼は頬に手をあてて考えました。

「………」

どれだけ探してもナビィは見つからない、ハイラルに帰るべきか、帰らないべきか。身をまとう鎧を取り外しながら、リンクはうーんと唸りました。時折噂に聞くハイラル王国は、ガノンが処刑されたことで一時期はざわついたものの今は平和を保っているようです。帰ってもいいかもな、とリンクはちょっぴり思いました。勿論迷いの森には帰れないのだけれど。

「集めてきた」
「……ありがとな」
「うん」

リンクがダークに礼を言うとダークは目を細めて嬉しそうにしました。頬になにか付いているのを拭うとダークはリンクの手にすりすりと頬をすり寄せました。彼はリンクに触られるのが何故か好きなようでした。一度リンクは理由を問うてみたことがありましたが、なんだか懐かしくて気持ちいいから、とよくわからない理由が帰ってきました。何が懐かしいんだろう、とリンクは暫く首をひねったものです。確かにダークリンクはリンクと同じ姿をしていましたが、彼はガノンに作られたただの魔物でしたから。

「………」

ダークリンクの滑らかな肌が手のひらに当たります。リンクは先ほど自分が触れた自らの頬の感触を思い出して苦笑いしました。この魔物の外見は初めてであったあの時のまま止まっておりました。

「ひげがはえてる」

ダークがリンクの頬を撫で返して、嬉しそうににやにやと笑いました。そうだな、と答えるとますます嬉しそうに。外見変化が皆無なこの魔物はリンクのこういった肉体の変化をいつも面白そうにして観察していました。

ふ、と笑ってリンクがダークの腕から薪を取って組み立て、デインの炎で火をつけました。夕飯の支度の間は、なんとなく二人共無言でした。







そして、何度目の春が過ぎたことでしょう。ハイラルに帰ろうとおもった矢先、右目に傷を受けたリンクはそこから悪いものが入ってしばらく動けませんでした。ダークはどことなく興味深そうに、また珍しそうにリンクが言うままに彼の看病をしました。

「……楽しいか?」
「ああ、楽しい」
「そうか」

まだ生々しく傷跡が塞がっていないリンクの傷口をダークが眺めています。ぐしゅぐしゅと透明の液体や黄色っぽい何かがにじみ出ている傷口はひどく醜いものだと思うのですが、ダークには関係ないことのようでした。

「なぁ、」
「ん」
「キスしてみて」

ここに、とリンクが自分の傷を指差しました。ダークはそれをちょっと意外そうにみたあと、痛くないのか?とリンクに尋ねました。別にこれくらいならなんでもなかったので、リンクは「当たり前だろ」と答えました。

「ふぅん」

じゃあ、と言ってダークはリンクの傷口にそっと唇を押しあてました。そこに走った鋭い痛みは、しかしリンクの表情を変えるほどではありませんでした。2,3度唇を押しあて、最後に少しだけその部分を舌で舐めてダークは口づけを止めました。左目を開けたままのリンクの視界に、何かを飲みこむようにこくりと動いたダークの喉が見えました。

「なんかしょっぱい」そう言ったダークの髪の毛をリンクはわしゃわしゃとかき乱しました。されるがままに、特徴的な赤い瞳でこちらを見つめてくるダークをみてリンクはなんとなく、ふと郷愁のような何かを感じました。昔の自分の顔そのものだからかもしれませんが、これが以前こいつが言っていたことだろうか、と思いながらリンクは妙にてらてらと濡れているダークの唇を舐めました。

「・・・・・・不味い」
「だろう」
「なんで舐めたんだ?」

想像できただろうに、と言ったリンクにダークは首をかしげて「わからない」といいました。「へぇ」とさほど意味のある返事を期待していなかったリンクは気のない返事をして、それからもう一度ダークにキスをしました。それに目を三日月に細めた魔物はくすくすと嬉しそうに笑いました。

指に触れる魔物の肌の感触は、いくら時がたっても同じままです。リンクは彼には老いというものはないのだと思いました。彼はきっとこのまま、死ぬまで生き続けるのでしょう。






「それは寂しいことだと思わないか」
「うん?」

何かいったか、と言うダークにリンクは首を振りました。結局ナビィは見つからず、彼らはようやくハイラルに帰ってくることになりました。もう注意すべきガノンはいません。ゼルダ姫も、昨年喪に伏したと2人は聞きました。

「・・・・・・ダーク、俺はさ」
「なんだ」
「とても疲れた。ナビィは見つからないし、ゼルダは死んでしまったし・・・なぁ」

お前は眠くないのか、とベッドに横たわったままリンクはダークに問いかけました。ダークは「全然」と答えました。元々魔物のダークは2、3日眠らなくても平気でした。

「そうか・・・・」

リンクはそっとダークの頬に触りました。皺だらけのよわよわしい手をダークリンクが握りました。「しぼんじゃったな」ダークは言いました。「水を飲まないといけない」

リンクはのど奥で笑いました。何をいってるんだろうこの魔物は、と思いもしましたが、昔からこの自分に似た魔物はそういうやつなのでした。

「ダーク、きっとお前は死ぬまでかわらないんだろう」
「変わる」
「こんな風にだよ」

リンクはダークの掌と自分の掌を重ね合わせました。ダークはまじまじとその合わさった手のひらをみました。「水分が抜けたら自分もこうなるだろう」彼は思いましたがなんとなくそれを口には出しませんでした。

「・・・・・・・ナビィに会いたいな」
「俺もだよ」
「お前はナビィの事を好きじゃなかったんじゃないか」
「別に嫌いでもないんだ」

リンクとダークはそんなことをぼそぼそと話しました。そんな他愛のないことをを話している間もリンクの視界にはなにか黒いものがちらつくのでした。死とはこういうことなのか、と彼は少しだけなら納得もしていました。

「・・・・・・怖い」

そう呟かれた言葉にダークはリンクの顔を覗き込みました。目尻から流れた涙を彼は舌で舐めとって「しょっぱい」と言いました。リンクは「そうだな」と言って弱弱しく笑いました。右目に怪我をした時のことを思い出したのです。あれは一体何年前のことだったでしょうか。もうそんなことは忘れてしまいました。

「手を、握っていてくれ」

僕がこのまま眠るまで。リンクは子供のようにそう言いました。ダークは何も言わずにリンクの手を握ってやりました。暫く黙ってダークの顔をみつめていたリンクが目を閉じて、そのまま一つ大きな深呼吸をして、肺の空気をすべて出すようなため息をつきました。

「リンク、」

ダークはふと、リンクが眠ったことを確認しました。よほど深く寝ているからか、返事は帰ってきませんでした。力の抜けた手をそっとベッドに下ろして、ダークはリンクが起きた時に何か食べるものを作るために部屋から抜け出しました。部屋から出る前に確認したリンクはまるで安らかに寝ているようでした。






リンクが眠りに落ちて、そしてダークリンクが「死」に気付いたのはリンクの体が少し崩れてきた時でした。「道理で目覚めないわけだ」とダークは感慨深く思いました。彼は今までこうして生き物が死ぬところを見たことがありませんでした。彼が見てきた「死」とは自分や時の勇者に屠られる魔物が体から血を流して息絶えることのみでした。あとはそれから、魔物か何かにやられて腐った人間の死体とか。

「・・・なんで、ずっと起きないのかと」

ダークはリンクの頬に触れました。もう目覚めないリンクの頬は酷くひんやりとして、それで不思議なやわらかさと硬さが同居しておりました。彼の肌からにじみ出たよくわからない何かがダークの手に付きましたが、彼はいつものようにそれを舐めたいとは思いませんでした。

「死ぬこと」ダークは思いました。時の勇者の死はまるで松明の炎が消えるような死に方でした。カンテラの油がつきること、両手にすくった水が下にすべて落ちてしまうこと、シチューを食べ終わったスプーンを置くこと。ダークはそんなことを考えてみましたが、上手い答えは出ませんでした。でも、リンクが魔物に殺されてそのまま外で息絶えていた人間と似たような感じになってしまっては、彼は明確な「死」というものを認識せざるを得ませんでした。

「永遠に旅が出来るつもりでいた」

ダークは答えが返ってこない事を知っていてリンクに話しかけました。小さな水色の妖精を探してずっと、時折人を助けたり悪を退治したりして、ずっと。「ここで少し休んだらまた旅に出られるようになるって・・・・俺はお前が死なないものだと思っていたんだ」ダークは静かに言いました。確かにリンクの外見は変わっていきましたけれど、それがなんだと言うのでしょう。何になってもダークの中で彼は彼のままでした。

ダークはぐすぐすと鼻を鳴らしました。涙を含んで重くなったまつ毛を瞬かせて目をこすりました。彼は酷く悲しくてたまりませんでした。魔物を切ったり人を切ったりするときはこんな気持ちにならないのに、と彼は思いました。剣を向ける相手が死ぬことと、背中を預ける相手が死ぬことはこんなにもちがうのでした。

リンクの手の甲にダークは自分の手を重ねました。彼の体は歳をとりませんから、何十年と生きていてもその肌は年若い青年のままでした。

「・・・・人間だったら」

おいていかれることもなかったのだろうか、ダークはそう呟きました。年齢によるものと、水分をうしなって乾いたリンクの手の甲を彼は撫でました。昼が過ぎて、日が落ちて、夜になってもずっと。

きらり、とダークリンクの瞳が明かりが少しもないまっ暗闇の中で光ります。ちか、ちか、と瞬いて、最後にゆっくりと閉じて。その夜はそれきり彼の瞳が煌めくことはありませんでした。


prev next

bkm
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -