忘れぬ想いを。(一世)



忘れぬ想いを。






瞳が、好きだった。
私を見る時、優しげに細められる瞳が、好きだった。

髪を撫でる手に、安らぎを覚えた。ボスである私の頭を撫でるなど、そう出来ることではない。

私は「大空」で。「初代ボンゴレ」であったから。

誰もが一歩足を引き、頭を下げ膝をつき、私を見上げながら手を取る。
尊敬、敬愛―――親を、師を見るような、眼差しで。

だけれど、あの男。あの男だけが、違った。まるで、そうするのが当たり前であるかのように、私を撫でて。
いくつもの複雑な感情を混ぜた眼差しを、私に向ける。彼の瞳の意図するところはわかっていた。超直感を使わずとも、その翡翠の瞳が全てを語っていた。



好きだ。
愛している。
お前以外、いらない。




私を見る瞳で、触れる手で、そう伝えてくる。何よりも深い愛情を、私に向けてくれていた。

…私は。その想いに、気付かないふりをした。
…否、もしかしたら。そのことにすら、気付かれていたのかもしれない。彼はずっと、私を見ていたから。私のことには、誰よりも敏感だったから。



・・・・・・だけれど。

だけれど、私は――――。




彼の、その強い想いに、応えることは出来なかった。

私は、「大空」で。ボンゴレの、「創始者」であったから。誰にでも平等でなければ、ならなかった。
「大空」は、縛られる存在であっては、ならなかった。それが血の繋がった家族であっても、守護者であっても。・・・・・・愛した男、であったとしても。

そして私は、ある日。「初代ボンゴレ」として。
ボンゴレの繁栄のために、これからの家族、未来のために。あの男の私に対する想いを、利用した。

「共に生きる」と―――いつの日か交わした約束をも、破り。意図も、真意も伝えることはせず、ただ後を任せたとだけ、告げて。私は彼を、・・・ボンゴレという檻の中に、閉じ込めた。


日本に渡るとき、パートナーとして霧を選んだ。・・・オッド・アイ。彼の瞳の片方は、赤かった。あの男が怒った時に見せる、瞳の色と同じ、深い赤。

…あの男を、忘れないように。あの男の、私に対する感情を忘れないように。
穏やかだった日のこと、愛情を一身に受けていた日のこと、そして、最後の日・・・――怒りに満ちた、赤い瞳を。…その全てを、忘れてしまわぬように。

応えていれば、きっと違う結果だったのだろう。私は、あの男を「失わずに」済んだのだろう。
胸が焼かれるような、強い愛情を、今もこの身に受けていたのかもしれない。暖かな腕に抱かれ、自分もまた、彼を抱きしめていたのかもしれない。


――――今、ここに。あの男は、居ない。


愛しげに見つめてくる瞳も、優しく撫でる手のひらも、今は無い。私は―――この世で最も大切だったものを、捨てたのだ。
ずっと、私を―――「ジョット」を支えてくれた存在を、自らの手で。何も伝えず、伝えることを許さず、・・・彼には解らぬ異国の言葉で、別れを告げた。


・・・・・・他に道が、あったのかもしれない。あの男を傷つけずに済む方法が、他にも、あったのかもしれない。


だけれど、もう遅いのだ。


私は今更、何を考えているのだろうか。自ら、手放したというのに。彼が今もまだ、私を想っているとは、限らないのに。もうすでにこの想いは、私から彼への、一方通行になっていても、おかしくはないのだ。・・・憎まれていても、仕方ないのだ。

最後に見た彼の瞳は確かに、赤い色をしていたから。




あぁでも、―――それでも。せめてあの瞳を、もう一度傍で見たいと思ってしまう。怒りに染まる前の、穏やかな翡翠。確かな愛情の籠った、瞳。

その声で、名前を呼んで欲しいと、願ってしまう。労わるように、慈しむように、・・・思わず胸が締め付けられてしまうような、声で。


その資格はもう、私には無いというのに。








・・・―――あぁ、せめて。ただ、一度だけ。









ただの一度で、構わぬから










ダンテ、…私を、「ジョット」を、










その、瞳で、声で――――――。





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