叶わぬと知る。(霧)



叶わぬと知る。








僕の愛しい、大空。
貴方が幸せであるならば、それでいい。他には何も必要ない。ただ、貴方の幸せだけを。








並盛という、日本の中でも静かな町に、今僕らは居る。彼がボンゴレを離れてすぐ、守護者の何人かは追うように日本を訪れた。


雨、雲、晴。霧である僕を含めて、四人。


雨は、すぐに現れた。元々日本人である彼は、ジョットが日本に永住すると聞いて嬉しそうだった。嵐にも声をかけたらしいが、失意の嵐に雨の声は届かなかったらしい。ジョットは何処か寂しげに、その報告を聞いた。
雲はそれより、半年程後。何があったのか知らないが、彼にしては少し遅い行動のように思える。…まぁ、興味はないですけど。
晴れは、ごく最近。特に深い考えは無かったというが、彼もまた無意識に、大空の近くを望んでいたのだろう。





……僕は。
僕はあの日から、ずっと彼の傍にいる。放っておけば自分からは食事も取らない彼を、1人置いて離れる訳には行かなかった。



…否。
それはただの、言い訳に過ぎない。僕はただ、彼の傍に居たかった。彼の世話を焼いていたかった。…彼の心がいつしか、「あの男」を忘れてくれるのではないかと、無駄な望みを持って。―――我ながら、愚かだと思う。

そして、当たり前のように、彼は。いつまでも、忘れなかった。時折、僕の「赤い」瞳を見て、悲しげに笑う。彼は今も、あの男を―――あの日「捨てた」男のことを。それは一途に、想い続けている。


「今日は紅茶にしましょうか。雲が茶葉を持ってきていましたから。」

「あぁ…雲の煎れてくれた紅茶は、いつも美味かったな。」


彼の返事は、何時もどこか遠い雰囲気がした。どれだけ傍に居ても、彼の僕に対する感情は変わらない。「霧」と、「大空」。ボンゴレを離れた今も、その関係は保たれたまま。
彼は僕の差し出した紅茶を一口飲んで、その水面を眺めた。


鮮やかな、赤色。


それを見る度に彼は。瞳を微かに細めて、黙り込んでしまう。どれだけの月日を重ねても。どれだけ、時間が経っていても。彼の中には、ずっと、「あの男」の姿がある。

解っている、はずなのに。彼の心はずっと「あの男」のもので、僕のものには成り得ないと解っているのに。それでも、どうしても。

僕は彼が、愛しかった。



愚かな人間の住むくだらない世界で、ただひとり、彼は輝いていた。
人に絶望し、生きる意味すらわからず、ただ呼吸をしていただけの僕に、彼は手を差し伸べ、その小さな身体で、僕を包み込んでくれた。



彼だけが、僕の全てで。
僕が唯一、「幸せ」を願うひとだった。



愛しい、大空。



「はやく、忘れてしまえばいいのに」


僕の大空の心を縛ったまま離さない、あの男。まるで呪いのように、彼にまとわりついている、気配。


「…忘れないさ。…忘れられないのだよ。…これが、私の罰なのだから。」


貴方の言う、罰とは。あの男に、業を背負わせたことだろうか。あの男を、裏切ったことだろうか。


それとも―――――。



「…霧よ。…もう、良いのだぞ。」



私の傍に、居なくとも。そう、言いたいのだろう。彼はきっと、僕などいなくても大丈夫なのだと思う。だが。



「いいえ。どこまでも付き合うと言ったはずです。…貴方の傍以外に、僕の生きる場所は無い。」



そう。
僕は、貴方の傍でしか生きられない。貴方が僕の手を取ったあの日から、ずっと。



「…やれやれ。…頑固、だな。全く…」



微かに笑む顔が、愛しい。僕の、ただ一つの存在理由。



僕の愛しい、大空。
貴方が幸せであるならば、それでいい。他には何も必要ない。ただ、貴方の幸せだけを。

貴方の傍で、ずっと祈っていたい。






それが、たとえ―――――
永遠に叶わない願いだと、知っていても。





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