誰よりもお前の幸せを。【アラジョ←G】



Gの災難。

「プリーモ、いる?」

ボンゴレのアジト内にある、一室。普段ならば創始者であるボンゴレ初代、ジョットが居るであろう部屋に、彼の守護者の一人―――「雷」の守護者ランポウは、足を踏み入れた。常であるなら、ジョットが穏やかな笑顔を浮かべて迎えてくれるのだが、今日は違った。部屋に居るのは、「嵐」の守護者であり、またジョットの幼馴染兼右腕でもある、G。いつもプリーモが居る場所―――書類が山のように積まれた、机の椅子に、Gは煙草を咥え片手にペンを持って座っている。Gは不機嫌を隠そうともしないむっすりとした表情で、ランポウを見た。

「ジョットならいねぇよ。」

低く紡がれた言葉には、やはり不機嫌さが混ざり。ランポウは肩を竦め、ため息をつく。

「せっかくドルチェを持ってきたのに、Gじゃ意味がないものね。でも、おかしいな。暫く仕事で缶詰だって、言ってたんだけど。」

ランポウの言葉に、Gの眉間の皺は益々増え、手にしたペンを乱暴に放り投げて煙草を灰皿に押しつける。インクが飛び散り汚れた紙をくしゃくしゃにまとめて、今度はそれをランポウに投げつけた。思わぬ攻撃に避ける間もなく、丸められた紙はランポウに当たり床に落ち、ぶつけられたランポウはむっとしながら、手にしたドルチェの箱を来客用のテーブルの上に置く。

「八つ当たりは良くないものね。雲の守護者が帰って来てるんだろう。」

「解ってんならいちいち確認してんじゃねぇよ。こっちはお陰様であいつが今日片さなきゃなんねぇ書類までやるはめになってんだからよ。」

Gが、不機嫌な理由。それは、小さな頃より大切に大切に守ってきた、大事な幼馴染兼ボスについた、所謂「悪い虫」のせいである。重複するが、Gは幼い頃からずっとジョットを守り続けてきた。それが当たり前で、ジョットの傍に居て守ることが、彼にとっての生きがいのようなものであったから。自警団を作ってからもそれは変わらず、Gはずっとジョットの傍に居た。その大切に守り続けてきたはずのジョットに、何故「悪い虫」がついてしまったのか。―――他でもない、ジョットが自ら、連れてきたのである。

ジョットは自警団のボスであるゆえに、縋るものの手は振り払わず、どんな者でも受け入れる。それがジョットの優しさであり、包容力であったから、Gはそれに関して文句を言うことはなかった。だけど、時折。ジョットは「面白そうだったから」という理由で、ひと癖もふた癖もあるような男を連れてくる。初めは、日本人だった。たまたま旅行で日本に行った際に意気投合したらしく、彼を自警団のあるイタリアまで招いて、「雨」の守護者とした。その次は、ランポウ。―――最も彼の場合は、大富豪の息子で我儘放題していたランポウを見かねた両親が、何とか鍛えなおしてくれとジョットに押しつけた形となる。ジョットはランポウを「雷」の守護者とし、何かと世話を見ている。次は、「晴」の守護者。ボクサーであった男がリング上で罪を犯し、牧師となった。牧師というには賑やかな男だが、ジョットはそこも気に入っている。―――そして。ジョットについた、「悪い虫」こと、「雲」の守護者。とある国の諜報機関のトップでありながら、群れることを嫌い単独行動が主だった。そんな彼が、プリーモとどのタイミングで出会ったのか、Gは知る由もないが…―――この男に、いつしかジョットは惹かれ、男もまた(或いは、出会ってすぐに、かもしれないが)ジョットに恋をした。この他にも「霧」の守護者がいるが、彼については詳細が明らかになっていない。ただジョットが、「面白いやつだったから」という理由で連れてきてしまったことだけは、間違いない。
―――――ともかく。ジョットは男女共に好かれやすく、それをGは気にしていたのだが、ジョットは今までも特別を作ることはなく、誰にも平等であったから、油断していた。ジョットもまた、ただの人間である。いつどんなときに、恋に落ちるのか解らないのだ。

いつかジョットも恋をして、結ばれるのだろうと考えたことはあった。しかしそれは、あくまで「女性」と、であって。まさか、同性と恋に落ちるなんてことは、夢にも思わず。しかも、いつになくジョットは真剣だった。それでいて、今までに見たことのない表情を浮かべるようにもなった。幼い時から、ずっと一緒に居たというのに、今の今まで知らない表情があったと言う事実が、何故かGは気に入らないでいる。

例えば、雲――名は、アラウディと言う――が、諜報活動から戻ってきた時。ジョットは、手がけていた仕事も放りだして、アラウディの元へ駈け出していってしまう。アラウディと恋仲になるまで、そんなことは一度だってあり得ないことであったのだが。それから、アラウディが、仕事でアジトを離れる時。いつも穏やかに笑顔を携えているはずのジョットの表情が見る見るうちに曇り、見ているこっちまで胸が締め付けられそうになる。こうなってしまうとアラウディは中々仕事に向かうことも出来ずに(アラウディ本人は寧ろそんなジョットをかわいいだとかこのまま連れて行こうかなとか、とにかくエンドレスでニヤニヤしているだけである。)ジョットが落ち着くまであやしてやるのだ。―――繰り返すが、アラウディと恋仲になるまでは、あり得ないこと、なのである。自警団のボスとなったジョットは、基本的に自分のことに関しての我儘を言わない。だが、アラウディのこととなると、途端に自制心が利かなくなるのか、とにかく、案外とむちゃくちゃだった。以前Gがそのことについてジョットに問いただしたところ、曰く、

「アルが、自分のことに関してだけは我儘を言って良いと言ったのだ。普段我慢しているのだから、それくらい許されるだろう、って。」

…好いた男に、そう言われたから。ゆえに、彼は。普段は冷静沈着、どんな人物相手でも表情を変えることなく接しているのに、アラウディの前であると、それはもうデレデレに緩みきってしまうのである。人の恋路に口を挟む等野暮なことこの上無いが、そうはいかない。何故なら、Gもまた。小さな頃からずっと、ジョットを想い続けてきたからなのだった。
…最もGは、その想いを伝えるつもりなどない。重い運命を背負ってしまった幼馴染には、せめて幸せな恋をして欲しいと願っていた。そして、いつかは一人の女性と結ばれ、その血を次の世代へ引き継がせるのだろうと、思った。―――しかし現実は。ジョットが恋に落ちた相手は「男」であり。それが、片思いならば諦めもつくはずであったが、誰がどう見ても、しっかりがっつり出来上がった両想いだ。

Gはそれが、気に食わない。ものすごく、気に食わない。

…幸せな恋、には間違いない。想い、想われている。現に、アラウディと過ごしている時のジョットは、今までになく幸せそうに、穏やかな表情を携えている。

「…将来云々って言うなら、考えるだけ無駄だと思うものね。」

眉間に皺を刻んだまま黙り込んでしまったGに、ランポウが声をかけた。どこか呆れたようにも取れる表情で肩を竦め、Gを見る。

「あ?」

「Gが心配してるのは、この先のことなんだろ? いくら今が幸せだからって言っても、この先のことは解らない。二人ともいつ命を落とすとも解らない身だものね。それに、どれだけ二人が互いを想いあっていたとしても、周りがそれを認めるとは限らない。自警団のボスが同性愛者だと、指差す奴も出てくるかもしれない。…そんなところ?」

「……」

「まぁ確かに、全員が全員祝福するなんてこと、あり得ないものね。同性愛に批判的なひとだっているのも間違いない。…けど、プリーモはそれを解っていて、その上でアラウディを選んだのでしょ。もう散々悩んで、それでも、アラウディでなきゃ駄目だった。Gならそれくらい、解ってると思ったんだけど。」

「…解ってんだよ、お前に言われなくても」

むっすりと、ぶっきらぼうな口調で言う。机に肘をついて、書類の端を無意味に弄りながらGは、深いため息を漏らした。不安なのは、ジョットの心が傷つけられてしまうこと。何よりも、誰よりもジョットの幸せを願う、男であるから。幼い頃からずっと守り続けてきた。それは今も、そして未来も変わらずに。その心を守ることだけが、Gという男の、生きている理由、なのである。

「散々悩んでたのも知ってる。それで結局あいつを選んだってのも、解っている。それが、ジョットにとっての幸せだってのも、何もかも、解ってんだ。…だけどな…。」

不意に。Gの眉が吊り上がり、持っていた書類がくしゃりと歪む。ランポウは不思議そうにその光景を眺めつつ、嫌な予感を察知して耳を塞ぐと二歩程後ろに下がった。

「アラウディの奴が帰ってくる度に、そりゃもうキラッキラな笑顔で出迎えて、玄関でだ、皆が通る玄関でだぞ? 人目も憚らず抱き合って、でれっでれに解けた顔して、二人の世界を作ってんだぜ? どんだけ人が居ても、もう互いしか見えない!ってぇ雰囲気で花飛ばして、真っピンクのオーラ漂わせて。そのまま躊躇もなく寝室に向かって、そっから出てきたと思ったら、『G、明日の仕事なんだが、少し遅れても構わないだろうか』ってよ…駄目っつったら今にも泣き出しそうな顔で俺を見てきやがるし、仕方ねぇなっつったら心底嬉しそうな顔して『ありがとう、G。頼りにしている』なんて言ってきやがる! そうしてるうちにいつの間にかあのアラウディの野郎まで居て、これ見よがしにジョットのことべたべた触るわキスはするわ、挙句俺を見て鼻で笑いやがった!! こ、れ、が、我慢出来るかってんだ!! なぁんで俺があいつらがイチャイチャ(死語)するために変わりに仕事進めてなきゃなんねーんだっつの!! 意味わからんし!!」

机をがつがつと叩きながら、Gは一気に捲くし立てる。肩で息をして次には頭を掻き毟り、訳の解らない声を上げて机に突っ伏した。ランポウは耳を塞いでみたものの結局ほとんど聞き取ってしまい、やはり呆れた表情を浮かべてGを見る。

「惚れた弱みだものね。諦めるしか、ないよ。」

Gの長い長い心の叫びを、ランポウは一言で片づけた。それにGはぶるぶる拳を震わせてランポウを睨みつけるも、全くもってその通りなので何も言い返せずにぐったりと脱力した。不満はいくつもある。それこそ、箇条書きにしたらキリがない程には。

だけれど、結局。

Gは、ジョットが大切だった。何よりも、誰よりも、その存在が全てだった。故に。どれだけ不満があろうとも、どれだけ「悪い虫」を恨んで、憎もうとも。結局は、ジョットの笑顔ひとつで、許してしまうのである。

「何か不憫だから、このドルチェ、Gにあげる。どうせ今日は、プリーモ戻ってこないんでしょ? 傷んだやつ、食べさせたくないし。」

「俺は残飯処理要員かよ、この野郎…そこ置いておけ。こっちだって食わなきゃやってらんねーっての。」

ランポウの気遣い(?)にほんの少しだけ感謝をしつつ、Gは再び書類に目を向ける。
あくまでも、ジョットの負担を少なくする為に、で、アラウディとのあれやこれやを支援する訳ではない、と、自分に言い聞かせて。


その後。ねっちょりデートから、それはもう幸せいっぱいな雰囲気を漂わせて帰ってきた二人を見て、Gが全力で説教を始めたのは、言うまでもなく。

しかしその説教すら、ジョットの無言の悲しげな視線に負け、中途半端に終わるのだった。
 



END




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