ただ、願うだけ。
お前が捨てたボンゴレは、更に強大になった。
絶対的な強さと権力を持ち、他の追随を許さない程に。自警団だったころの名残は殆ど残っていない。
お前に捨てられた俺は、地位と、権力を手に入れた。「ボンゴレ」という「マフィア」の、頂点に上り詰めた。誰もが俺を恐れ、従う。逆らう奴は、容赦無く殺していった。
何の不自由もない。女も、金も。俺が望むものは全て簡単に手に入る。・・・ただひとつのものを、覗いて。
あの日。お前が俺を捨て、空へ消えていった、あの日。お前が居れば何も要らなかった俺を、お前は。表情も変えず、冷たい声で、あっさりと捨てていった。
ずっと共に生きると誓い合ったはずの男は、何の躊躇も見せずに、俺の前から姿を消した。
…あの日から。
俺の見る空は、暗いままだった。
あの日のお前の声は、ずっと俺の心に突き刺さっている。感情のない、声。これで終わりだというような、音。どれだけ仕事をこなしていても、ふとした瞬間に蘇り、俺の心を深く、抉って行く。そして、どろりと血が溢れるような錯覚。
あの日感じたものと同じ・・・死にそうな程の胸の痛みに、喧しい鼓動。震える程に冷や汗が浮かんで、泣きたくなるような、全てを吐き出したくなるようなそんな感覚を生む。
―――今。俺がこんな気持ちで毎日を過ごしていると知ったら、お前はどんな顔をする? 困ったように、笑うだろうか。仕方ない奴だな、と、俺の頭を撫でるかもしれない。
それとも。
それとも、あの日のように。冷たく俺を、見るだろうか。
繰り返される思考に、思わず自嘲的な笑いがこみ上げてくる。もうどれだけの月日が流れたのか、わからない。何度も、同じ季節が巡った。何度も、同じように考えた。
お前と過ごした暖かな、幸せな時間を何度も夢に見た。お前が俺に笑いかける夢を、繰り返し見た。
その後に来るのは、強烈な絶望感。
ただ憎むだけならばどれだけ楽だろう。怒りだけを向けることが出来たら、こんなに苦しむことは無かった。ただお前を殺すことだけを考えて、それだけのために生きていれば良い。
…だが、俺は。
今、確かに。お前を愛している。
「迎えに、行くぞ。」
お前は、俺を捨てることで「初代」の役目を終わらせた。だから、今度は俺の、「二代目」の役目が終わった、そのときは。
俺は必ずお前を、迎えに行く。
「ジョット…」
憎くて、愛しいお前。
「愛して、いる…」
お前に、会いたい。俺の、ただひとりの大空。再び出会えたら、そのときは。
「“ジョット”、お前の言葉を」
お前の、本当の心を、聞かせて欲しい。
そして、俺の心に刺さったままの声を、消してくれ。悪かった、と。何時ものように笑いながら、俺を呼んでくれ。
『ダンテ。』
穏やかな、静かな声で。まるで俺を、甘やかすような、音で。―――何時か過ごした、幸せな日のように。
俺だけが知っている、その笑顔を見せてくれ。
好きだ。
愛している。
お前以外、いらない。