PillowTalk.【アラジョ】



甘い甘い、甘いひと時を



空がゆっくりと、白み始めた時間帯。アラウディは、ふと目を覚ました。もともと、そう眠りが深い体質でもなく、幾度かの瞬きの後には確かと目を開き、腕の中に居る、愛しいひとの顔を見つめる。彼の唯一――――ジョット。目を開けていれば、凛とした雰囲気の漂う青年である。だがこうして寝てしまえば、幼い少年のようにも見えて。アラウディは、そのギャップが結構好きだったりする。

アラウディが、自警団であるボンゴレのアジトに着いたのは、昨日の晩のこと。ジョットに頼まれていた任務をこなし、必要な書類を纏めて届けに来たのだった。実に、一月ぶりである。ジョットはアラウディの訪問をそれはもう喜んだし、アラウディも、そんなジョットを見て表情を綻ばせた。自警団「ボンゴレ」の創始者であり、「ボス」であるジョットと、その彼の「雲の守護者」であるアラウディは、恋仲だった。出会ってから間もなく、惹かれあった二人は、周囲の反対(最早誰であるかなど語るまい)も気にせず、
所謂「お付き合い」を始めた。しかし、お互いが多忙の身のため、逢瀬の機会は月に一度あれば良い方で、運が悪いと数ヶ月も会えない日が続く。その為、逢瀬が叶った日などは、別れの時間までずっと、ずーーーー・・・っと、べたべたべたべた、くっつきっぱなしなのである。昨日も、ジョットは仕事を早々に切り上げ(Gが何か騒いでいたが、ジョットの緩みきった顔を見て諦めたようだった)、アラウディを自室に誘った。
ジョットは、お気に入りの紅茶を。アラウディは、出先で見つけたドルチェを、それぞれ出して。穏やかな会話を、少しばかり、楽しみ。―――そして。日が変わる時間になる頃には、どちらともなく唇を合わせ、互い、求め合った。
真っ白な、シーツの上で、二人。名前を、愛を、囁き合い。アラウディの、それはそれは愛情の篭った、「ねちっこい」愛撫も、ジョットは受け入れ。ジョットもまた、声で、仕草で、アラウディを煽る。離れていた時間を取り戻すかのように、幾度も幾度も繋がり、いつしか二人はしっかりと抱きしめあったまま、眠りに落ちていた。


そして、冒頭に至る。

眠りに落ちてから、まだ数時間と経っていない。アラウディはジョットを抱き締める腕に力を込め、髪に鼻先を埋めてすん、と鼻を鳴らす。表情が知らずに緩み、とにかく愛しくて愛しくて愛しくて堪らないという顔で、ジョットを抱き締めた。流石に苦しさを感じたのか、ジョットが小さく唸って身じろぎする。閉じられていた瞳が、ゆっくりと開いて。ぼんやりと、アラウディを見つめた。

「起こしたかい。」

その声に、悪びれた様子はない。寝ぼけ眼のジョットの額や頬にいくつも口付け、片手で肩を摩る。ジョットは更に小さく唸り、欠伸をした。

「・・・なんだ、まだ夜中じゃないか・・・寝ないのか、アル。」

「少しだけ寝たよ。だけど勿体無いと思ってね。お前の顔、ずっと見てた。」

さらりと、アラウディは言う。ジョットは一度ぱっちりと瞬きをして、それからクスクスと肩を揺らして笑った。その様子に、アラウディも笑みを深めて。互い抱き合う力を強めつつ、笑い合う。

「物好きだと言われたことはないか?」

「さぁ・・・ジオ以外に興味がないから、わからないね。」

「・・・馬鹿。」

「うん。ジオバカだよ。」

呆れたように溜息をつきながら、それでも満更ではない様子で。ジョットは、アラウディの鼻先にちょん、と、触れるだけのキスを落とす。アラウディの髪をくしくしと撫でてやると、アラウディは心地よさそうに瞳を細めた。

「・・・アル。」

「うん?」

「・・・今日は、何時にここを出る・・・?」

小さな、声だった。髪を撫でていた手を離して、首元に両腕を回す。視線を伏せて、ジョットはアラウディの肩に額を擦り付けた。
――――寂しい、と。全身で訴えているのが、解る。立場上、それを言葉にすることも容易には出来ず、ジョットにはこうして、せめて態度で表すことが精一杯だった。アラウディも、それを解っている。尤も、この男に限っては、「別に素直に寂しいって言ってもいいのに」等と、呑気に考えている訳なのであるが。アラウディはふっと笑みを零すと、ジョットの背中をあやすようにポンポンと叩いて、髪に頬を寄せる。

「・・・そうだな・・・明日の、昼くらいに出ればいいんじゃない。」

「明日の・・・、・・・ん? 明日? 今日の、でなく?」

「そう、明日。・・・何、今日帰って欲しいのかい。」

「い、いや、違う、・・・いつも、戻って来てもすぐ次の任務だから、」

驚いた表情の後に、すぐに戸惑いを浮かべ、視線を泳がす。それでも、湧き上がる嬉しさを堪えきれずに、表情が緩んで来ている。アラウディはそんなジョットを心底愛しげに見つめて、頷いた。

「・・・いつも、そうだけど。僕だって、疲れたりするんだよ。たまの休みを貰ったって、罰は当たらないだろう?」

「・・・じゃあ、明日は」

「うん。1日、オフだよ。」

ジョットの顔が、嬉しさに満ちて。アラウディが思わず息を飲むのと同時に、抱きつく腕に目一杯の力が込められた。それは、苦しい程に。それでも、その腕を解こうとはせずに、背中をゆっくりと摩り、実に穏やかな声で、ジョットに問いかけた。

「それで。」

「え?」

「お前は、どうなの。僕は、明日1日予定がないんだけど。お前は?」

ジョットは黙り込み。低く唸る。腕の力が若干緩められ、アラウディは短く息を吐き出し、ジョットの表情を伺い見た。眉間に微かに皺を寄せて、考え込んでいる。―――それは、仕事のこと、ではなく。

「・・・Gに、何と言い訳をしよう・・・。」

何かと小言を漏らす、幼馴染であり右腕である男への、言い訳、であった。ジョットの中には、既に休みをどう取るか、という考えしかない。アラウディが一日中オフというのは、滅多にあることではない。何が何でも、休みを取らなければ、と――――ジョットも大概、アラウディバカ、である。

「有りのままを言えばいい。僕と過ごしたいから、休む、って。」

「それで通ると思うか?」

「通るよ。他ならぬ、お前のお願い、ならね。あの男が、聞かない訳が無い。」

余裕の笑みを浮かべて、アラウディは紡ぐ。それに対し、ジョットは未だ悩んでいる様子で、眉間に皺を寄せたままアラウディを見つめていた。
―――Gという、男は。確かに普段、異常な程に口うるさく、そして過保護だ。ジョット曰く、昔からそうなのだという。もう大人なのだからと言っても、聞かないらしい。アラウディとの関係についても、当初は色々と文句やら何やら言っていたが、ジョットが本当にアラウディを愛しているのだと解ると、幾分か大人しくなった。・・・あくまで、幾分か、である。だが口うるさく言うのは、ジョットを心から想っているからであって。誰よりも、ジョットの幸せを望んでいるゆえに―――尤も、それを口にすることは決してないのだが―――。・・・だから。アラウディは、ジョットが本気で自分と過ごしたいと考えているのなら、彼はそれを許さない訳にはいかないのだ、と、確信していたのだった。

「予定を決めないとね。僕はこのままずーっと抱き合っていても構わないけど。」

「折角の休みにか? 勿体無い。」

「言うと思ったよ。それで、お前の希望プランは?」

「うん、そうだな。まずもう少しだけ睡眠を取って、それから朝食にしよう。カンノーリと、コルネット・・・カプチーノも用意して・・・それから、外に行こう。ランポウが、新しいジェラートの店を教えてくれたのだが、行く機会が無くて。あぁそれから、カップが壊れたからそれも見に行きたい。・・・とにかく、・・・普通の、デートがしたいのだ。」

嬉々とした表情でジョットがアラウディに向き直ると、アラウディは一瞬きょとんとして。それからすぐに、嬉しそうに頷くと、ジョットの身体を強く抱き締めた。幾度も頬擦りをして、頬や耳朶にいくつも口付ける。

「いいね、デート。夜は勿論、お前を抱かせてくれるんだろう?」

「・・・さっき、あれだけしたのに、か。」

「あれだけ、だよ。・・・何なら、今からでもいいけど、ね。」

ちゅ、と。わざとらしく音を立てて、アラウディはジョットの首筋を吸う。ジョットは一瞬身体を震わせるも口元を緩ませて笑みを浮かべ、両手でアラウディの両頬を包み込みこつりと額を合わせる。

「明日の夜まで、お預けだ。」

その代わり、と、ジョットは、アラウディの唇に自分のそれを重ねて、離れた。どちらかともなく、クスクスと笑い合う。笑い声が落ち着く頃には、ジョットの瞳がとろとろとし始めて。アラウディの首筋に頭を擦り付け、ゆっくりとした瞬きを繰り返した。アラウディは、そんなジョットを寝かしつけるように背中を撫で、静かな声で囁きかける。

「覚悟しておいて。寝かせる気なんて、無いから。」

「あぁ、・・・。」

「だから、今のうちに少し、眠っておかないとね。」

「うん。少しだけ、な・・・お前も、」

「僕も寝るよ。・・・起きたら、二人で朝食をとろう。」

「うん・・・。」



「Buona notte.・・・Ti amo.Gio・・・」



間もなく、ジョットが静かに寝息を立て始めた。アラウディもまた、そんなジョットの寝顔を暫く眺めた後、眠りに落ちた。白い、シーツの中。互い、ぴったりと抱き合った身体はそのままに。少しも、離れようとはせずに。それはそれは、幸せに満ちた表情で、眠っていた。


日が昇りきるまで、もう少し。


恋人たちの甘い時間は、まだ、続く。




END




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