おまえというそんざいを【アラジョ←G】



執着の訳


※わたしというそんざいを の、G視点のようなものです。プリーモ様が守護者を属性で呼ぶことがデフォルト、アラウディ以外は「プリーモ」「ボス」呼びです。以上をふまえまして、閲覧をお願いいたします。




小さな頃から、共に育ってきた。小さなお前は、いつでも俺の後ろに隠れて、いつでも俺の後を追ってきた。穏やかな笑顔を、浮かべて。その笑顔を護るために、俺はずっと、お前の傍に居た。そうすることが、俺の義務であると思っていたから。

―――いつしか、お前は。俺の後ろに隠れるようなことは無くなって。共に、肩を並べて歩くようになり、更には。

自警団「ボンゴレ」の創始者として、俺の前を歩くようになった。お前のその姿に、俺は少し寂しい想いを抱きながらも、反面、誇らしくもあって。俺が護り続けてきた存在が、これだけ大きくなったのだと、嬉しく思い。これからは、「右腕」として。お前の、たった一人の側近として、お前を―――ボンゴレの「ボス」を、護り続けてやる。・・・そう、心に決めた。

いつかの、夜。酒を酌み交わしながら俺は、そうお前に告げた。

お前はもう、ボスなんだから。誰にだって、平等でないとな。俺にとっても、お前はボスだ。そして俺は、お前の唯一の右腕だ。『プリーモ』。お前は俺が護る。お前の護りたいものも、俺が護ってやる。それが、俺の役目だ。・・・『右腕』の、義務だ。

―――その日、俺は今まで見たことのない、お前の表情を見たんだと思う。仕事の後にお前と飲む酒は、いつも美味かったから。酔うなよ、と笑って言う、お前の声が、いつも心地よかったから。その、いつもと違う表情が何なのか、その時俺は気付けなかったんだ。

多分、その日から。―――俺とお前の間には、何か――――そうは、思いたくねぇが、確かに、小さな歪が出来てしまった。表面上は、いつも通り。だけど、何かが違う。忙しなく巡る毎日に、確かな違和感を感じながら、でもそれが一体何であるのかは、解らなかった。・・・それから、いくつも季節が巡って。お前は、ある男をボンゴレへと引き入れ、そいつを「雲の守護者」とした。

・・・その、男は。お前を、呼んだ。何度も、何度も。俺が咎めても、全く気にも留めず。お前を、呼んでいた。

俺が、呼ばなくなった名前を、繰り返し。

「僕はあの子をボスだなんて思ってはいないよ。ジョットはジョットでしかない。君に強制される謂れは無いね。僕は好きなように、あの子を呼ぶよ。」

―――――ジョットは、ジョットでしか、ない。
何かが、引っかかった。そんなこと、解り切っている。お前はお前でしかない。だけど、お前はボスだ。ボンゴレの、創始者なんだ。

だから。
だから、俺は――――。


雲から、屋敷に寄ると連絡が入った時。お前の表情が少しだけ緩むのが解った。お前はボスになって、表情を取り繕うのが上手くなった。だけど、俺には解る。どれだけ、長い間お前と一緒に過ごしてきたと思ってるんだ。誰を騙せたとしても、俺を騙すことは出来ない。ずっと、見てきたんだ。ずっと、お前だけ、を――――。

・・・そういえば。
お前の笑顔を最後に見たのは、いつのことだ?俺が、ずっと護りたいと思い続けた、穏やかな笑顔。
ぐぅ、と。喉の奥が詰まるのを感じた。お前が、俺を呼んで。俺に歩み寄りながら、笑う。作ったものではない、笑顔。いつだ? あれはいつのことだった? 思い出せない程、前の出来事なのか?俺がお前を呼ばなくなった頃から、お前も俺を呼ばなくなった。
お前はいつも、俺を「右腕」として、呼ぶ。「嵐」として、呼ぶ。昔の用に、親しみを込めた呼び方はしない。・・・そして。「昔」のような、笑顔も、無い。お前は、完璧な「ボス」であり、「ボンゴレ・プリーモ」だった。

・・・俺が。その事実に気がついたのは。
お前の口から、ある名前が紡がれたのを、聞いた時だった。



「アラウディ。」



その音には、親しみが溢れていた。弾むような嬉しさが、あった。そうだ、それは昔、お前がまだ俺の後ろに居た頃に。・・・良く、聞いた音で。俺が護りたい笑顔は、俺自身が壊してしまった。「俺」の名前を呼んで、「俺」に向けられる笑顔は、―――もう、ない。

「近くに居たのに、どうして気付けなかったのか不思議で仕方ないね。この子は必死に、求めていたのに。『ジョット』で居る場所を。僕は君が、そうなんだと思っていたんだけど、どうも杞憂だったようだ。」

雲が呆れた口調で、言う。膝の上に、疲れて眠ってしまったお前の頭を乗せて。安心しきった表情で、雲の声にも起きる気配は見せない。

「僕が戻るまで、この子はずっと気を張って生活している。『ボス』としてね。だから、僕が来ると大体こうやって眠ってしまうんだよ。・・・ほら、見なよ。無防備、だろう? ・・・今は、『ジョット』だから、・・・仕方ないね。」

雲の、お前を見る瞳。お前の髪を、撫でる仕草。覚えがある。俺が昔、そうしていた。
…愛しくて、堪らない、と――――そんな、想いを、込めて。

―――――こうなってしまうのが、怖かった。

ボスとして先頭に立つお前が、いつか、俺から離れていってしまうことが。お前に、必要とされなくなることが。お前は、「ボス」だから。お前の一番近くに居るためには、「右腕」として、生きることしか残されていないと思ったんだ。お前の近くで、お前を護り続けていくには、こうするしかねぇんだって、…俺は。ずっと、そう思い込んでいた。

お前が、本当に求めているものにも気付かずに。それでも、お前のことは一番解っているつもりで。お前を護っているつもりで。お前の一番傍に居るつもりで。

俺は、結局――――。


「愚かとしか、言い様がないね。」


雲の言葉に、言い返すことも出来ずに、ただ。そこで静かに眠るお前の顔を、じっと見ていることしか、出来なかった。



―――――望んだものは、こんな結果ではなかったのに。



…だけど、もう。



せめて、お前の「右腕」で在り続けることだけは、許してくれ。
これから先も、ずっと。


―――――そこだけが、俺の場所、だから。



END




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