わたしというそんざいを【アラジョ】



認めて欲しいと、


ボンゴレが、自警団からマフィアとなって、暫く。
ファミリーも増え、ボンゴレは警察からも一目置かれる存在となった。・・・私は、ボンゴレの創始者ということとなり、ファミリー達は皆私を「プリーモ」「ボス」と呼ぶようになった。
・・・幼い頃より、共に育ったGでさえ。
私を、「プリーモ」と。・・・そう、呼ぶようになった。いつからかは覚えていない。だけれど、その時確かに私は、「拠り所」を失ったと感じた。胸の奥が、詰まる想いを、感じた。

もう誰も私を、ジョットと呼ばない。

誰も、「ジョット」を、必要としない。

ボンゴレに必要なのは、全てを纏め上げる「ボス」。そして、「大空」。・・・私は、「ボンゴレの創始者」として、生きて行くことになったのだ。誰にも平等で、贔屓は許されない。誰の前でも、ボンゴレプリーモで在り続ける。「ジョット」ではなく、「ボンゴレのボス」で在り続ける。

・・・何時しか、そんな生活にも慣れ。「プリーモ」で在り続けることは、私の運命なのだと、生まれ持っていた宿命なのだと、思って。・・・そんな折。「彼」に出会った。変わった男だと、そう思った。興味を引かれて、私の守護者にならないかと、声をかけた。・・・そうすると彼は、微かに笑みを浮かべて。

「・・・へぇ。僕にマフィアの守護者を、ねぇ。・・・お前は変わってるね。―――――ジョット、と言ったっけ。」

・・・静かな声で、私の名前を、紡いだ。
それは、確かに己の名前のはずなのに、随分懐かしい響きに思えて。思わず、息が止まった。それを彼は、至って不思議そうに眺めて。

―――ジョット。違う?

そうしてまた、私の名前を呼んだ。・・・たった、それだけのことが、そのときの私には酷く嬉しく思えて。思わず彼にそれを告げたら、益々首を傾げてしまった。

「お前は僕の上司でもないんだから、ボスと呼ぶ必要もない。誰が何と言おうと、僕はお前をジョットと呼ぶよ。異論は聞かない。」

―――涙が、出るかと思う程に。そのとき私は、歓喜していた。「彼」の言葉は、本物だった。本心から、そう言っているのだと解った。超直感が、それを教えてくれる。だから余計、嬉しくなった。Gに咎められても、彼は俺の名前を呼び続けた。それがまるで、「当たり前」であるかのように、彼は、ずっと。
彼は普段、ボンゴレのアジトにはいない。世界各国を飛び回り、情報を集めてくるのが仕事だった。――――だから、私は、いつしか。「彼」がアジトに顔を出すのを、密かに楽しみにしていた。長い時は、三ヶ月以上も現れない。だけれど、顔を出したときは必ず、
私を呼んでくれる。―――ジョット、と。そう、呼んでくれる。

その瞬間だけ、私は「プリーモ」でも「ボス」でもなく、ただ一人の、「ジョット」という人間になれる気がした。

「・・・そう。お前、『ジョット』になりたかったんだ。――――もっと早く言えば良かったのに。遠慮してた僕が馬鹿みたいだ。」

彼、は。呆れたように、そう呟いて。徐に、私の髪を撫でた。それから、――――優しげに、瞳を細めて。至極、嬉しそうに言葉を紡ぐ。

「僕がお前の居場所になってやる。お前を、『ジョット』にしてあげる。お前は、『ボス』でなきゃならないけど、僕の前ではそうである必要がない。そうだろう? だって僕はお前を『ボス』とは呼ばないんだから。お前は『ジョット』なんだから。―――僕の前でだけ、そうであったって、罰は当たらないと思うけど。だから、ね、ジョット。

 お前も、僕を名前で呼びなよ。『雲』、だなんて呼ばないでさ。二人きりでいる時だけで良い。僕を、お前の『特別』にしなよ。」

特別。―――許されることでは、ないと思っていた。誰にでも平等でなければならない。誰の前でも、「ボス」でなければならない。だけれど。・・・そうなのだろうか。・・・私が、「特別」を作っても、いいのか?涙が、零れた。「ボス」になってから、一度として流したことのなかった、もの。抗争で誰かが傷つき、倒れたとしても、私は強くあらねばならなかったから。

許されるのか? ・・・俺、が。俺として、居ることが。

「・・・それが、本当のお前? やっと、見せてくれたね。ずっとそれを見たかった『ボス』じゃない、お前が。本物の、『ジョット』が見たかった。

 ジョット。お前は気付かなかっただろうけど。僕はもう随分前から、お前と言う存在が、特別だった。マフィアだとかボスとか、関係なく、ね。」

彼の、言葉は。偽りが、無い。そう、それはずっと前から。出会ったばかりの、その時から。彼の言葉には、まるで嘘が無い。全てが、本心で。遮るものなど、何も無く。私の心へ響いてくる。

「ほら、呼んでごらん。・・・ジョット。今は、僕とお前の、二人しか居ない。」

名前を呼ぶ声が、酷く優しく聞こえて。また、涙が溢れてきた。ゆっくり、深呼吸をする。「彼」は、急かさない。ただじっと、待っている。「俺」の、声を。「特別」になる、瞬間を、ただ、ずっと。


―――――呼吸を整え、俺は小さな声で、呟いた。



「アラウディ。」



俺の居場所を作ってくれた、男。――――その名を。俺と言う存在を、認めてくれたその、存在を。繰り返し、呼んだ。

その日から、アラウディは。俺の、「特別」だった。否。・・・もしかしたら、それより前から。初めて名を呼ばれたその日から、もうすでに、特別だったのかもしれない。彼の前でだけ、ジョットで居られる。彼はいつも、名前を呼んでくれる。存在を、確認するように、何度も、何度も。


だから俺も、呼んだ。何度も、繰り返し、名を紡いだ。



アラウディ。


お前の前でなら、俺は。「ジョット」として、存在出来る。だから、もっと呼んでくれないか。


おれという、そんざいを、生かしてくれないか。


END




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