その瞳がいけない。【アラジョ】



ツンデレプリーモ


久々にボンゴレのアジトに戻ってきたら、知らない男が彼の周りをうろついていた。しかも、複数。いきなり睨みつけてきたから、とりあえず部屋から放り出しておいた。扉の外が騒がしいけど、気にしない。彼も気にした様子はなく、手元の書類に目を通している。

「…お前。また変なの引っ掛けてきたのか…。」

「ん…、あぁ、雲か。さっきまでそこに居たのは、新しく守護者にした霧と雨だ。」

「その他にも見ない顔が増えてるけど。」

「壊滅したマフィアの残党を吸収したり、自分から寝返ってきた奴らがいるからな。」

呑気な彼の言葉に、僕はため息をつくしかなかった。彼―――ボンゴレの創始者、ジョットは。誰でも彼でも、拾ってくる癖があった。全てを抱擁すると謳われる大空に相応しい笑顔を浮かべ、誰をも虜にしてしまう。組織的には、味方が増えるのは良いことなのかもしれない、が。


僕にとっては、堪ったものじゃない。


彼がそうして笑顔を振りまく度に、僕の気苦労は増えていく。何故なら、僕は―――彼の、恋人で、あるから。
確かに2人で想いを誓いあって、互いだけだと言っていたはずなのに。この呑気な恋人は、ホイホイ男を引っ掛けてくる。

「…ジョット、何度も言うけどね。二人の時は名前で呼んで。」

「ん? 仕事中は適用外じゃなかったか?」

「そんな約束した覚えないな。」

「おかしいな。…まぁいいか、それで、アラウディ? お前、久々に戻ってきたと思ったら、何をそんなにカリカリしているんだ。」

鈍感。彼の超直感は、恋愛沙汰に関しては酷く疎いらしい。…まあそこも、初々しくて愛すべき点ではあるのだけど…いや。それはまぁ、置いといて。人の留守中に恋人がどんどこ新しい男を連れ込んでいると知って、不機嫌にならない男がいるとでも思っているのか。それも選りすぐったようにクセのある奴らばかりを。

これ以上敵は増やしたくないんだけど。…あの男だけで、充分。

僕の心中など知る由もなく、彼はその、誰をも魅了する瞳で僕を見る。…そう。それだ。その瞳がいけない。

「…ジョット。お前、前髪伸ばせ。」

「急になんだ? ていうか私の質問は無視か。」

「口調。私、じゃないだろう。」

「細かいな。全く…言っていることが支離滅裂だぞ。」

呆れた口調で言いながら、そのくせ瞳は穏やかに細められている。―――その瞳が、いけないんだ。そんな瞳で、そんな風に見つめられたら、どんな悪人だって、偉人だって…簡単に、虜になってしまうだろう。腹立たしい。彼の瞳は、僕のものなのに。僕だけを、映していればいいのに。

「いいから。今日から、僕が良いと言うまで髪は切らないように。」

「だから、…理由は? 急に髪を伸ばせと言われてもな…。」

文句を言う彼の頭に手を伸ばし、くしくしと撫でてやる。彼は未だに、納得のいかない表情で、あの瞳で、僕を見ている。

「無防備な恋人への、僕なりの独占欲。」

「は?」

「…本当は、仮面でもつけてもらいたいくらいなんだけどね。」

「そんな毎日が舞踏会みたいな格好は流石に嫌だぞ。」

「…お前の瞳は、人を惹きつける。出来ることなら、誰にも見せたくない。だけど、そうもいかない。…お前は、ボスだから。…だけど、僕はそんなお前の恋人だ。このくらい些細な我侭、聞いてくれたって良いだろう?」

彼は、その瞳を幾度か瞬かせ。不意に脱力をしたかと思うと、そのまま椅子の背凭れにぐったりと寄りかかった。そして、盛大なため息をついて、僕を見る。

「…お前が、もっと俺を構えば良いんだ。」

「え?」

「そうしたら、人が極端に増えたりすることはなくなるんだ。」

瞳が、今度は不機嫌に細められる。それから、すっと逸らされて。彼は、年に合わないような…けれども外見的には違和感のない、拗ねた顔を浮かべ、頬杖をついて僕を睨む。

「ただいま、くらい言え。…どれだけ、放っておかれたと思ってる。」

…やはり、この瞳は。他の奴らに、見せるわけにはいかない。新しい守護者にも、――――あの男に、だって。

不貞腐れた彼の髪から手を離し、そのまま頬へと滑らせる。顎を掴んで背けた顔を無理やりこちらへ向かせてやると、唇をへの字に曲げてじっと見つめてきた。僕を魅了して止まない、暖かな光を携えた瞳。…僕の、ものだ。

「ごめん。…ただいま、ジョット。」

「ん。おかえり、…アラウディ。」

漸く、口元が綻ぶ。そこにそっと口付けて、瞳を覗き込んだ。僕の姿だけが、映っている。なんと言う、幸せだろう。これは僕だけに、恋人だけに許された特権なんだ。

「…やっぱり、前髪は伸ばせ。僕が切りそろえてやるから。」

「パッツンとかにされても困るぞ。」

「流石にそこまで切り過ぎることはないだろう…」

「今、俺の脳裏に前髪を切りすぎたお前の顔が浮かんだ。」

「超直感か?…勘弁してくれ。」

それから数日。彼は僕に言われたとおりに、髪を伸ばしている。彼が、僕が帰ってこないと髪を切るというので(可愛い我侭だと言ったら全力で小突かれた。)僕は前より随分と、アジトに戻る機会が増えた。嵐やあの男が、前髪が邪魔ではないのかと聞いていたようだが、ジョットは問題ないと答えたらしい。


「童顔も隠せて、丁度良い。」


彼のその答えに、頷く者は誰一人として居なかったという。…実際、童顔は隠れていない訳だが。僕としては、当初の目的が幾分か(結局目元を隠したところで、彼に惹かれる人間はそう簡単に減るものではない。)達成されたので、良しとする。


あの瞳は、僕のもの。


他の男に、そう簡単に見せてやるものか。



END




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