遠い記憶の



交錯する感情







現世に姿を現したジョットは、半ば無理やり押しかけたヴァリアーの中で、驚く程早く、変人だとしか言えない者達と打ち解けていった。元々、人を取り込むことに優れた男である。たとえどんな者であろうとも、その腕の中へと包み込み抱擁する、大空と謳われたのは伊達ではない。数日が経とうという頃には、すっかり馴染んでしまっていた。


「あらやだ、似合うじゃな〜い! 流石私ね、自分のセンスに惚れ惚れしちゃうわ!」

「ししし・・・選んだの俺だし。」

「こっちはどう? プリーモ。スクアーロも選んだら?」

「てめぇら、いくらなんでも馴染みすぎだろぉ!!」


総勢、6名。レヴィを除いたヴァリアーと、初代ボンゴレ・ジョットは、ボンゴレ馴染みのブティックに、何故か、揃って来ていた。発端は、自称「ヴァリアーの母」ルッスーリアの、「いつまでもそんな重いマントのままじゃ駄目よ!」という、一言だった。

ヴァリアーは元々大柄な人間が多く、(小柄だと赤ん坊サイズまでになる)ジョットが着れるようなサイズの服が無かったため、(暫くはベルのものを着ていたがしっくりこなかったという)わざわざこうして、買いにきたのだった。ルッスーリアだけでは不安だからと同行を名乗り出たスクアーロを筆頭に、楽しそうだからとついてきたベルとマーモン、そして、ジョットが声をかけてほとんど無理やり引っ張ってきた、XANXUS。
がたいの良い男が何人もこぞって服を選ぶその姿は、傍から見れば、さぞかし異様な光景だったことだろう。ジョットは、ルッスーリアやベルのコーディネートにより、Yシャツにカジュアルなベストという至ってラフな格好になっている。


「いいじゃないの、スクアーロ。ボスも何も言わないし・・・ボンゴレの創始者と過ごすなんて今を逃したら絶対ないんだから、楽しんでおかなくちゃ!」


小指を立て、手に持った服をひらひらさせながら、ルッスーリアは楽しげに口角を上げ。その横でジョットは、穏やかな笑顔を携えている。スクアーロは、ただその姿に額を押さえ、深くため息をつくだけだった。


「しし・・・スクアーロはプリーモを見てると、ツナちゃんが恋しくなっちゃうんだよねー」

「ほう?」

「ばっ、だっ・・・誰がだテメェ!!」

「うるさいよ、スクアーロ。早く会計してきてよ。」


騒ぐヴァリアーの面子をよそに、XANXUSは少し離れた場所から、それを眺めていた。正確に言うのなら、眺めていたのは、騒がしい部下達では、無く。その中心で、ほわりと笑顔を浮かべたままの男、で。
見たことのある、光景だった。――――見たことの、あるよう、な。
ざわりと、胸の奥が騒ぐ。XANXUSは、何故己がこうも、あの男―――ジョットを気にしてしまうのか、未だに解りかねていた。昔から、そうだった。あの金色が、気になって気になって、仕方なかった。その傾向は、彼が実体を現してから更に、強くなった気がして。
XANXUSは、ジョットから目を離すことが出来なくなっていた。

ふ、と。ジョットとXANXUSの視線が、交わる。鼓動が、強く鳴った。

ジョットは、輪から外れて一人、XANXUSの傍まで歩み寄ると、腕を軽く広げ。片方の手で服の裾を弄りながら、笑みを更に深いものとして、口を開いた。


「・・・似合うか?」


口々に騒いでいたルッスーリア以下ヴァリアーの面々は、ジョットのその言葉に一瞬にして静まり、むっすりとした表情の「ボス」の返事を、好奇心に満ちた空気を充満させながら、待っている。ジョットも、変わらない笑顔を浮かべたまま。どうだ、と答えを促して。XANXUSは若干の戸惑いを覚えながらも、小さく舌打ちをし、「金色」を、くしゃりと撫でた。


「ずるずる引きずってるマントよりか、マシだ。」


――――刹那。ジョットの瞳が、見開いて。息を飲む、気配。その様子に、XANXUSもぴくりと、眉根を動かし。触れていた手を、思わず離した。・・・無意識、だった。ふわふわと揺れる金色に、手を触れたのは。しかし、それよりも。ジョットの、今まで見たことのない反応が、気になった。ジョットはもう既に、表情を先程までと同じような笑顔に、戻してしまっているのだが。


「私を子供扱いか? 良い度胸だな。」


くすくすと笑う顔に、先程の動揺は見えない。XANXUSは、顔を顰めた。・・・何か。何かを、隠している。それも、見つかってしまわぬように、必死で。ただ、何を隠しているのかは検討がつかない。それがXANXUSに、更なる苛立ちを与えていた。


「・・・ボスってさぁ、やっぱりプリーモのことお気に入りだよね。」

「そうよねぇ。でなきゃ、くだらねぇ、カスが。で終わりだものね〜」

「珍しいね、ボスがあんなふうに大人しいの。」


XANXUSの胸中など、勿論知る由もない呑気な男達は、こそこそと言葉を交わしている。スクアーロだけが二人の間に漂う雰囲気に気付き、違和感を感じていた。ジョットはXANXUSを一瞥してすぐに振り返ると先程まで自分が居た輪の中へと戻り、ルッスーリアに笑顔のまま声をかける。


「XANXUSも気に召したようだから、これにするよ。会計は―――・・・」

「あらぁ、いいのよそんなの! スクアーロが全ッ部払ってくれるんだから!」

「う゛ぉおおい!! だから何で俺、が―――。」


スクアーロの視線の先には、柔らかな笑顔を携えた、ジョット。
実に、純粋な心の持ち主であるスクアーロはまたしても、愛しいひとの面影を持つ
笑顔に、逆らうことが出来なかった。 


「卑怯だぜぇ・・・。」

「ふふ。すまない、スクアーロ。だが私は、お前のような素直な男は、好きだよ。」


言葉の直後に、ガラスの、割れる音。皆が一斉に音のした方へと顔を向ける。XANXUSだけが、背を向けていた。その彼の足下には、音の原因であろう、無数のガラスの破片。ジョットは微かに瞳を細め、その背中をじっと見つめた。


「ヤダ、ボスったらヤキモチ〜? 大丈夫よボス、心配しなくたってぇ。スクアーロはツナちゃん一筋なんだから!」


――――ヤキモチ、などという言葉では済まされない、感情だった。何かが、己の中から噴出してきそうな、感覚。激しい、感情。・・・だけれど、それを出してしまうことは憚れた。ジョットのもつ、超直感ではないが。・・・己にとって、良くないことが起こる。

―――そんな予感を、覚え。

XANXUSは後ろを振り返ることなく、ブティックを後にした。残された面子のうち、ルッスーリアやベルは、不思議そうに首を捻り。スクアーロは訝しげな表情を浮かべて、XANXUSとジョットを交互に見やり。ジョットは。・・・・感情の読めない、表情で。去っていく背中を、眺めていた。









髪に触れた手の感触は、――――何時かの日に、与えられたものと同じで。紡がれた言葉も、遠い日に聞いた言葉、で。







ジョットは、見ていた背中が見えなくなっても尚、視線を離すことはせずに。ただ、一瞬だけ。瞳を、切なげに、細めた。








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