許されるなら



過去の想い、独白






遠い、昔。自分は、一人の男に恋をしていた。ボンゴレのボスという、束縛が許されない存在でありながら、尚。たった、一人。無愛想で、強面で・・・だけれど、自分の前でだけ「笑う」顔が、とても優しかった。触れてくる手は、まるで壊れ物を扱うような仕草だった。


・・・その、声が。とても、好きだった。
己が名前を呼ぶ、優しくて穏やかな声。呼ばれる度に、胸が締め付けられて。呼ばれるまま、そこへ駆け出してしまいたい衝動に駆られた。

だけれど、それは。
決して、許されることでは、なく。――――「大空」は、平等でなければならなかった、から。

愛しい気持ちを、無理やり押さえ込んで。無かったものとして。確かに向けられている愛情も、気付かないふりをして。そして、―――愛しいひとを、置いて行った。愛しいひとの、居ない場所で。愛しいひとの、知らない場所で。本当の想いを告げることなく、逝ってしまった。

・・・気がつけば。死んだ自分が居た場所は、息を引き取ったその場所ではなく。愛しいひとを、置いていってしまった、場所、で。だけれどそこに、愛しいひとはもう、存在せず。ただただ、変わり行くボンゴレを眺めていることしか、出来ずに。何の為に、己が魂が存在するのか、それすらも解りかねて。


・・・そんな折に。
小さな少年が、現れた。黒い髪の、小生意気な表情を浮かべた、少年。―――愛しいひとの、面影を持っていた。少年は毎日のように、謁見の間を訪れて、「肖像画」を眺める。
「初代」の、肖像画を、じっと。何を想ってそれを見ていたのかは、解らなかった。少年自身もまた、解っていないように思う。・・・だけれど、彼は、毎日。大人に叱られでもしたのか、むっすりとした顔をしていた時などは、何故か・・・思い出して。少年に感覚は伝わらないと知っていても、その頭を撫でる仕草をしてしまった。・・・放って、おけなくて。

時が流れるにつれて、少年は青年へと変わっていく。大きくなればなるだけ、面影は濃くなって。しかし、青年となった男は、いつしか。謁見の間に訪れることを、止めてしまい。悲しいような、安心したような・・・複雑な感情が、胸中に芽生え、そして。男が、随分久しぶりに顔を見せたと思った、その時。


己が身体は、現世の時に、姿を現し。地面に足がつく感覚を、それはもう、とんでもなく久しぶりに、感じた。


―――何故今、このタイミングで。この時、この男の前に、姿を現してしまったのか、わからない。・・・だけれど。「何か」をなさなければならないと、超直感が告げている。気がつけば、目の前で呆然と立ち尽くす男に、声をかけていた。



「Piacere.XANXUS? ・・・私が誰だか、解っているか?」



目の前の男は、余りにも似ている。己が愛した、ただひとりの男に。
愛しくて恋しくて堪らなかったのに、置いていってしまった、男に。
男は強張った声で、引き攣ったような声で、名を紡いだ。



あぁ、やはり、違う。



馬鹿なことを、考えた。目の前の男は確かに似ていても、けれども確かに、愛した男とは違う存在。呼ぶ声に、優しさは感じない。向けられる視線に、熱を感じない。

―――そう、思うのに。

「確か」に「違う」と、解っていても。・・・どこかに。微かに。愛しい「存在」を、感じてしまって。

眉間に皴を寄せ、むっとしたような、その表情。思わず、手を伸ばしていた。




「・・・あぁ、駄目だぞ、――――――。そんなふうに、怖い顔をしていては。」




伸ばした手は、振り払われ。それはそうか、と、妙に一人、納得して。「お前」ならば、振り払いはしなかっただろうな、等と、愚かにも考えて。―――まだ、こんなにも。こんなにも、愛しい。

遠い、昔。自分は、一人の男に恋をしていた。
・・・その想いは、今も。今も、消えることはなく。
己が心の中に、確かと、生き続けている。



「未練なら、いくらでもある。私は、逃げたのだから―――全てを捨てて、ね。後悔ばかり、しているよ。」



この、時代に、実体を与えられ。――――どうしたら良いか、未だ、解らず。だけれど、これが、・・・与えられた、チャンスなのだとしたら。愛しい男の面影を持った存在に出会ったのが、ただの偶然、ではないのだとしたら。

もう二度と、後悔はしたくないと考える。胸を引き裂かれるような、そんな想いだけは、二度と。許されるのだろうか。己が、手を取ることを。愛しいひとを、置いていったと言うのに。



――――許される、ならば。



叶うの、なら。




今度こそ、何があろうと。




―――この手を離さないと、誓う。







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