重なる声は、



ヴァリアー登場








「お前のことは知っていたよ。先程も言ったが、私はずっとここに居たから。」


昔とは随分と作りの変わってしまった廊下を歩きながら、ジョットは言う。XANXUSは後ろから、黙ってついて来ている。―――先程の一件で、ジョットに迂闊なことは言わない方が懸命だと学習した上での行動だった。


「お前がこの屋敷に来てから、随分経ったのだな。昔は、小生意気な顔した子供だったのに、今では―――・・・、・・・大きく、なったな。図体だけは。」


おかしな間に、XANXUSは微かに疑問を覚える。その後聞こえた小さな笑い声に、その疑問はとりあえず聞かないことにした。つまらなそうにふん、と鼻を鳴らすと、不意にジョットが立ち止まり。通りがかった扉の前に立ち止まると、彼はゆっくりと身体の向きを変え、その扉にひたりと、手を触れた。心なしか、表情が硬いようにも見える。


「・・・この部屋は・・・」

「あ? そこはただの物置だ。今は誰も使っちゃいねぇよ。」


XANXUSの言葉を聞いているのかいないのか、ジョットは暫くそうして佇んでいた。何を考えているのかは表情からは読めず、だが胸のざわつきを覚え、思わず手を伸ばす。その手が届く前に、ジョットは顔を上げてふわりと笑った。


「そうか、物置・・・物置になっているのか。随分と作りが変わってしまったな。」


迷いそうだ、と冗談めかした口調で、また笑う。XANXUSは軽く舌打ちをすると伸ばしていた行き場のない手を下ろし、止めていた足を進めてジョットの横を、早足で通り過ぎ。ジョットはそれを見て、静かに後をついて行った。二人分の足音だけが、廊下に響いている。


「それで、てめぇは」

「うん?」

「これから、どうするつもりなんだ。」

「言っただろう? とりあえずは、お前の世話になる。・・・あぁ、ヴァリアー、と言ったかな、お前の部隊は。その者たちにも挨拶をせねばな。」


さも当然と言うように、ジョットは一人頷きながら、足を進めて。しかし刹那、立ち止まったXANXUSの背中に、足を止めることが間に合わなかったジョットは、お約束のようにぶつかり。鼻を押さえながら、不思議そうに、顔を上げた。
振り返ったXANXUSは、流石に引き攣った顔を隠せずにこめかみに青筋を浮かべ、自分より頭一つ分以上低い位置にあるその顔を、思い切り、睨みつけた。それでも、ジョットは怯むことなく、あろうことか、腕を伸ばして目の前の強面の男の頭を、ぽんぽん、と撫でた。


「どうした? 怖い顔をしているぞ。」

「てめぇ、な・・・いい加減に」

「良いではないか。どうせ謹慎中で、暇なのだろう? 私だって、いつまで現世へ止まっていられるか解らないのだし。暇潰しとでも思えば良い。さて・・・私の超直感ではヴァリアーの会議室はここだな。」


XANXUSに発言を許さない勢いで言葉を紡ぐと、ジョットはひょいとXANXUSの隣をすり抜け、先程見た部屋の扉とは違い、重たげで幾分か派手な作りの扉を迷うことなく開き、XANXUSが慌ててジョットの腕を掴む頃には、中で待機していたヴァリアーの面々がこぞって、二人を見ていた。


「あれぇ? ボス、どうしたのソレ。ツナちゃん・・・とは違うよね。」


一番最初に口を開いたのは、切り裂き王子―――ベルフェゴールだった。それを合図にしたように、彼らは次々に声を上げ始める。


「う゛ぉおおい、てめぇ! また面倒なの連れてきたんじゃねぇだろうな!」

「あらぁ、確かにツナちゃんと似てるけど、ちょっと違うみたいねぇ?」

「・・・ボク、あれの正体知ってるよ。」

「何?! 誰なのだマーモン、ボスに馴れ馴れしく寄り添っている奴は!」


思い思い騒ぐ、―――至って、いつもと変わらぬ面々に、苛立ちを押さえ込んでいたXANXUSのこめかみの青筋は、今にも切れそうな程になって。思わず憤怒の炎を灯そうとした刹那。掴んだ腕の主から、一気に死ぬ気の炎が放出され、XANXUSは思わず手を離し、騒いでいた面々は言葉を失った。炎を放出した主―――ジョットは。額にオレンジ色の炎を揺らめかせ、その瞳を煌かせると、静かに、唇を動かした。


「騒がしい。―――私の前で、無駄に騒ぐな。」


静寂が、部屋に広がる。誰かが、唾を飲み込む音が聞こえた。ジョットは暫くそうしていたが、ふ、と瞳を閉じ、額に灯した炎を消して。・・・それは、もう。穏やかな笑顔で、にっこりと、笑った。


「挨拶が遅れたな。私はジョット―――ボンゴレの初代ボス、創始者だ。これから暫く、お前達のボスに世話になる。よろしく頼むぞ。」


その、笑顔に。レヴィが思わず「か、可憐だ」などと呟いたのは聞き流し。ジョットは勝手知ったるとばかりに部屋へと入り込み、ベルが腰かけていたソファの隣にどさりと腰を下ろした。ベルは暫くぽかんと口を開けていたが、すぐにその「得体の知れない存在」に興味を持ち、前かがみになってその顔を覗き込む。


「初代ボンゴレって、マジで?」

「うむ。」

「へぇー・・・あ、俺ベルフェゴール。ベルって呼んで良いよ。」


・・・流石、王子である。全く物怖じせずに、ジョットに次々に声をかけていく。
そこにマーモンやルッスーリアも加わり、ヴァリアーの会議室とは思えない程のほのぼの感が漂った。一人常識人であるスクアーロは顔を引き攣らせてその異様とも言える光景を見つめ、それから勢い良くXANXUSに顔を向け、彼にしては抑えたトーンで問いかけた。


「どういうことだぁ、アレは!」

「知るかカス。俺が知りてぇ。」

「またてめぇはそうやって面倒くせぇことを・・・」



「えーと、スクアーロ?」


小声で言い争う二人が、ぴたりと動きを止め。名を呼ばれた方の男は、ぎぎぎ、と、それはぎこちなく顔を声の方へと向けて、冷や汗を浮かべた。


「な、なんだぁ?」


「エスプレッソが飲みたい。・・・あぁ、それから、カンノーリもあったら、嬉しい。」


笑顔で言われ、スクアーロに拒否権など無かった。―――その、笑顔、が。遠く離れた場所に居る、想い人に、とても似ていたから。スクアーロは、ぐ、と言葉を詰まらせ、ちょっと待ってろとだけ、言い残し。慌しく、部屋を飛び出していった。・・・XANXUSは、その光景に微かに眉を動かし、話に花を咲かせているベルを押しのけ、ジョットの隣に腰を落ち着けた。


「あれれー? 何々、もしかしてボスのお気に入り?」

「うるせぇ、黙ってろカス。」


ジョットは黙って、XANXUSを見ている。時折、瞳に懐かしさを映して。XANXUSは―――先程の光景を、どこかで見たような気がしていた。「自分」が居る隣で、「彼」が、「自分ではない誰か」に、笑いかける姿。苛立ちを、覚えた。腹の奥が、ぐるぐると渦巻いて不快な気分だった。眉間に皴を寄せたまま深く息を吐き出すと、隣からくすりと、笑う声。


「怒ってばかりでは駄目だぞ、XANXUS。―――皆お前の守るべきファミリーだ。」
『怒ってばかりでは駄目だぞ、―――。―――皆お前の守るべきファミリーだ。』


先程と同じ現象に、XANXUSは知らず、拳を強く握りこんだ。言葉は確かに自分に向けられているはずなのに、そうでないような錯覚。その瞳が映しているのは、「己」ではなく―――――?









何も言わないXANXUSに、ジョットはまた小さく、笑うだけだった。








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