これから二人
どくどく、血が溢れるのを感じる。
これは、助からないな。―――否。わかって、いたことだ。解っていて、私はここに、―――お前の傍に、来た。
「彼ら」の仕事は、U世の抹殺。そのためならば、多少の被害は問題にならない。…1人や2人、巻き添えになっても、何ら問題はない。…それが、マフィアの世界では当たり前のこと。
この日、このとき、自分の命が果てることは、随分前からすでに解っていた。…だから、どうしても。
どうしても、ダンテ。お前に、会いたかった。
…わかっていたからこそ、か。
何かを察した霧と雲の声も聞かずに、飛び出した。
お前の気配を、息吹を感じて、居てもたってもいられなかった。
私がお前に会ってしまうことで、迎える終焉。
――――それは、私の、命をもって。
すまない、ダンテ。結局私は最後まで、勝手だった。
あの日。お前の心を知っていても応えることが出来ず、お前に全ての業を背負わせて逃げた。
「死んでも許さない」
その言葉が私には、嬉しかった。憎しみでも良い、お前が私を忘れぬのなら、と。―――実に、勝手な想い。
己自身でお前を檻の中に閉じ込めたというのに、心はお前を求めて止まなかった。ただの一日も、お前のことを考えない日は無かった。…瞼を閉じると浮かぶ、翡翠の瞳。
その瞳が好きだった。その視線から、想いを感じることが出来たから。
名前を呼ぶ、声が好きだった。「初代」ではなく、「ジョット」と呼ぶ声が。
他の誰の声より、お前の声は私の心に響く。
――――ジョット。
お前は、今。私の名前を呼んで、…迷い無く、愛を囁いて。
まるで、夢のようだった。いや、…夢ならば、何て都合の良い。
お前は、私を憎んでいてもおかしくはないのだ。
お前の気持ちを利用して、全てを背負わせ逃げた私を憎んでいても、私はお前を責めることは無かっただろう。甘んじて、お前の憎しみを一身に受けていたことだろう。―――それでも、構わなかったのだ。
だけれど、お前は。遠い昔の日と、変わらぬ眼差しで。変わらぬ声で。
好きだ
愛している
お前しか、いらない
あの頃と何も変わらない感情を、私に向けてくれた。
これを、幸せと言わずして、何と言おう?
離れていてもずっと、互いに想い合っていたのだ。それが、今―――漸く。
ダンテ。愛しい、おまえ。
私は、今とても、幸せなのだ。
泣く必要はないのだよ、ダンテ。今度は、お前を置いて行く訳ではない。
私はずっと、お前の傍に居るよ。
伝えたい言葉が、沢山ある。聞きたい言葉が、沢山ある。
言葉を交わそう、ダンテ。
紅茶でも飲みながら、触れ合いながら。いくらでも、話そう。
空いてしまった時間を、2人で埋めようじゃないか。
時間は、沢山あるのだから。
随分と前から、わかっていたのだ。
私は、ずっと。この、終焉のときを。
薄れ行く意識の中で聞いた、二発目の銃声。
それでもお前の腕が、私を離すことは、無かった。
「・・・Ti voglio bene.」
「Ti amo.」
「Sono sempre accanto a te.」