最上の幸せ。(二世)



最上の幸せ







見慣れない、町並み。長い時間を過ごしたイタリアとは、雰囲気がまるで違う。本当にお前はここにいるのか、などと言う、そんな考えは、ほんの一瞬で消えてしまった。


この場所に、確かにお前を感じる。


自然と、鼓動が早くなった。額に汗が浮かんでくる。

やっと、やっと見つけた。離れてしまったあの日から、一体どれだけの時が流れたのだろう。だけれど俺の中に、お前はずっと存在していた。消えることは、一度として無かった。

ある時は、憎しみで。ある時は、胸が千切れそうな程に、愛しさが募り。
夢でお前を、何度も抱きしめた。・・・けれど、やはり夢は、夢で。
目覚める度にお前をこの腕に抱きしめたくて、堪らなくなった。


まず、何と言おう。置いていったことを、責めるべきか?
それとも、ずっと言えないままでいた言葉を、伝えるべきか。
ジョット、俺はここまで来た。お前の近くまで、来たんだ。














「…ジョット。」














愛しい人が、そこに立っていた。その面立ちは、記憶のそれと変わらない。
違うのは、表情。・・・今まで見たことが、無かった。

胸が痛むくらい、悲しげで―――それでいて、嬉しそう、な。

自惚れなどでは、ない。会いたいと切望していたのは、きっと。
―――きっと、俺だけでは、無かったのだ。

頭で考えるより先に、足は動き出していた。
ジョットは逃げなかった。あの日のように、離れはしなかった。
唇が微かに動き、言葉を紡ぐ。ゆっくりと、静かな音で。




俺の名を、呼んだ。






―――――あぁ、やっと。

愛しい、愛しいお前。やっと名前を、呼んでくれた。


夢中で、抱きしめた。夢でしたように、存在を確かめるように、強く強く、抱きしめた。目頭が自然に熱くなってくる。
――ずっと求めていた存在が、今、腕の中にある。
何も、言えなかった。ただひたすら、名前を呼んだ。



「ジョット。…ジョット。」

「…うん。」

「ジョット、俺は、ずっと…」

「うん。」



背中に回された腕が、暖かい。伝わる鼓動が、心地良い。
―――あの時。あの日では決して叶わなかった、こと。俺がお前に腕を伸ばし、お前がそれを受け入れる。あの場所、では。


「ボンゴレ」という檻の中では、有り得ないことだった。


どれだけお前を見つめていても、想っていても。
お前は「大空」で、崇拝すべき「ボンゴレの創始者」、だから。
お前が俺に腕を伸ばすことは、一度として無かった。抗争で傷ついた日も、ファミリーの1人が死んだ時も。お前は俺に黙って抱きしめられるだけで、お前が俺を抱きしめることは許されなかった。


だが、今は―――。



「ジョット、…俺は、お前を…」

「何も言うな、…わかっている。」



穏やかな笑顔が、愛しい。ずっと、俺にだけ向けられていた、表情。
俺の脳裏に焼きついて離れなかった、俺だけの笑顔。そんな顔を見せるくせに、よくも俺を置いていけたものだ。

ジョット。
お前は言わずとも解ると言った。だが俺は、ずっとお前に言いたかった。
言えなかったことを、後悔していた。
・・・言ってしまっていたらお前は、きっと俺を、捨て置くことなど出来なかったはずなんだ。



「好きだ。」

「愛している。」

「お前以外、いらない。」




…ジョットが、息を飲むのが解った。それから、腕に力が籠るのも。
触れた胸元から伝わってくる鼓動が、いつも感情を表さないお前の心を確かに伝えてくれる。





「…ダンテ。」







「私は」










「…私は、とても。―――幸せ、だよ。」

















ふわりと、穏やかに。
ジョットが笑った、その刹那。












鳴り響く、銃声。













それでもお前の腕はずっと、俺を離さなかった。







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