※拍手女中シリーズ設定、千鶴ちゃん病み気味注意

「あの、これはどちらに運べばいいですか?」

「それは後から出しますので、部屋の隅に置いていただけますか?」

「この酒は今だしておいて平気か?」

「そうですね…沖田組長が見つけたらあっという間にあけてしまうかもしれません。それも後にしましょう」

私は今、彼女と、そして原田さんと三人で宴会の準備をしていた。
何でも今日は近藤局長や土方副長たちが上京した日にあたるそうで、これも一つの節目だといつもはしかめ面の多い土方さんが珍しく宴会の許可を出してくれたのだと沖田さんが言っていた。
宴会は夜からのため、日中の隊務はもちろんある。
そのため今日は非番の原田さんを始めとする十番組の皆さん、それに彼女のお手伝いを日ごろからすることの多い私が、今は場を作っているのだった。

「千鶴くん、そんなに一度に運ばなくても平気ですよ。時間はありますから、ゆっくり用意しましょうね」

「でも…」

いくら手伝いがいるとはいえ、彼女にしかわからないものも多く、加えて一人が管理するには多すぎる料理の数々にお酒の量。
少しでも役に立ちたいと張り切るが、やんわりと止められる。

「こういう作業はそれが得意な人にお願いしましょう」

「ね、原田組長」と彼女は私が一度に運ぼうとしていた膳数枚を原田さんにお願いした。

「おう。そのために俺がいるんだしな。千鶴は向こうで配膳手伝ってやってくれ」

「はい…」

ありがとうございますと微笑む彼女の隣には、私が必死の思いで抱えていたものを軽々と持ち上げる原田さんが並ぶ。折角彼女の手伝いが出来ると張り切っていたのに、結局やれることは小さなことしかなくて、原田さんが全て持っていってしまって、悔しさだけが胸中を渦巻く。

それに今、並んでいる二人の姿があまりにも絵になりすぎていて。

土方さんが彼女と並んでも絵になるけれど、さり気ない気遣いを見せる原田さんに微笑む彼女という光景は、私にとっては嫉妬の対象以外の何物でもなかった。

私だけじゃない。

彼女のことを慕うのは、みんな同じ。

それが例えそれぞれ異なる"想い"だとしても。

「っ原田さん!私も一つだけならお持ち出来ます!」

だから一緒に行っていいですか?と彼女に目を向けると、先程まで原田さんに向けていた、そして私の大好きな微笑みが。


「もちろんです。いつもありがとう、千鶴くん」

「お、千鶴も力持ちになったなー」

「…原田さん…」

「いや、子供扱いしてるわけじゃなくてだな…!」


例えば平助君にとっては、まだ彼女は憧れのお姉さんかもしれない。

例えば原田さんにとっては、妹のような存在かもしれない。

けれどその想いが、いつ変わってしまうかはわからない。


――副長や沖田さんのように。


「千鶴くん、今日は皆さんと一緒に楽しみましょうね」

「はい!」



今はまだ、どうかこのまま。
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