カンカンカーンッ




今日も武装警察真選組の屯所は、けたたましい音と共に朝を迎えた。



「はいはーい、皆さん朝餉の時間ですよー。今日は先着10名に温泉卵をプレゼントしまーす」



カンカンカーンッ



私が女中として勤めているのは江戸でチンピラ警察と名高い武装警察真選組。
就職先としてはある意味安泰ではあるが、一癖もふた癖もある隊員の世話をするのは並大抵のものではない。
まず私の一日の仕事の始まりは、そんな癖のある隊員たちをたたき起こすところからはじまる。

「なんだよ母ちゃん、今日は日曜日だぜィ」

「沖田隊長、残念ながら月曜日です。非番じゃないからたたき起こせって昨日土方副長に言われました」


それに私はあなたの母親じゃありません。

沖田隊長は大体寝起きが悪いので、いつもこうやって私が直接起こすのに駆り出される。
目覚まし時計もあるこの時代に、何が悲しくてこんな鍋の底を叩くという古典的な方法をとらなければいけないんだ。
私の右腕がたくましくなったらどう責任をとってくれるのだろうか。


「そのときは土方コノヤローが嫁にもらってくれまさぁ」

「そこは沖田隊長がもらってはくれないんですか」

「土方コノヤローに振られたら考えますぜ」


寝起きだというはずなのに、相変わらず沖田隊長は意地悪である。


***


何故か沖田隊長の着替えを待たされ、ようやくたどり着いた食堂。
配膳は女中の中でも当番制になっているのだが、私は半強制的に朝の目覚まし係に任命されてしまっているため、配膳は免除されていた。
…あれ、女中の醍醐味って、みんなのご飯作ることじゃないっけ?あとで隊員に「あの女中、ちょっとかわいいよな」とか噂されたりとかさ。こんな鍋叩いてる女中のことなんて誰も気にしなくない?


「あれじゃないですかぃ、ほら、料理の腕前が壊滅的だからとか」

「そんなんじゃ女中として採用なんてされませんー。そんなことないですぅー」

「ふーん、じゃあこれも土方コノヤローの差し金か」

「差し金ってなんですか差し金って。はっ、もしかして副長は毎朝私に起こされたいとか…!?やっぱりお嫁にもらってもらうなら副長!?」

「いいですねぃ、あんたのそののんきな頭は。毎日毎食マヨネーズ三昧で耐えられるなんてどんな思考回路と味覚してんだか」

「いいんですもん、私は超副長派ですもん。そんなの愛の力で克服して見せますもん」

「そんな浅漬けの素もびっくりな急造の愛情であの狂った食癖についていけますかね」


もう、なんでこんなに沖田隊長はつっかかってくるんだか!
いつもはもうちょっと可愛いのに!
デザートの杏仁豆腐、なかったことにしちゃいますよ!

そんなことを思いながら隊員が食堂にそろっているかを確認する。
ここでそろっていなければもう一度いない人を起こすべく寝屋に戻らなければならない。


「うーんと…原田隊長に斎藤隊長はいるっと…あれ、副長がいない?」


なんとさっきの会話が早くも実現か。
土方副長は私に起こされるため部屋で待ってるとか…!?

待っててください、副長!今、会いに行きますからね!



***



「あれ、朝早くからどうしたのこんなところで?」

「おぅ、悪いな。俺らが食堂に行くのが遅いから迎えに来てくれたんだろ」

「そういうことか。ありがとね」


副長を部屋まで迎えに行くと、そこには監察(って本当は女中にも名前とかばれたら駄目なんじゃね?って思うけど知ってるものは仕方がない)の山崎さんも一緒に。


「………山崎さんなんて嫌いです。食堂にいないならいないってはっきり言って下さいよ。紛らわしい」

「なんで!?俺今感謝の言葉口にしただけだよね!?しかもいなかったらいないって言えないよね!?」


ちっ、あわよくば寝顔まで拝めるかもなんて期待したのに。
どうやらこの二人は朝食前にすでに一仕事していたらしい。どこかのおさぼり大魔神とは大違いだ。


「しょうがないから、お二人には特製らっきょう漬こっそり大盛りにしてあげますね」

「いやちょっと朝かららっきょう大盛りはきついかも…」

「じゃあ山崎さんにはアジの塩焼きに添えてある大根おろし大盛りにしてあげます」

「だからなんでそんな微妙なのしか大盛りにできないの!?」

しょうがないじゃないか、朝は厨房はいれないんだもん。


「副長は何が大盛りがいいですか?副長のだったらデザートでもいけますよ!」

あれ、俺だけ?俺だけなの?と山崎さんが朝から騒がしいがそんなのはいつもの屯所の騒音に比べれば些細なもの。
さ、副長、なんでもおっしゃってください!




「俺はじゃあ…




 マヨネーズ大盛りで。




 朝はノンコレステロールのやつな。」




ですよね。
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