※沖田さん病み気味注意 久しぶりの非番にも関わらず、どうも体調の優れない僕は布団に横になる以外に他なく、眠くもないのに瞼を閉じひたすらに中々過ぎない時間を潰していた。 屯所の中でも静かなこの場所は、これから見回りであろう隊士たちの掛け声や、いつもよりも強く感じる風の音、そしてこの部屋へと向かっているであろう人の足音が、意識せずとも耳へと飛び込んでくる。 「沖田組長」 きこえた足音は予想通りこの部屋の前で止まり、一呼吸置いた後にその人物は凛とした声で僕に声をかけた。 「どうぞ」 起きているであろうことはわかっているはずなのに、こうして律義に声をかけてくれるのが彼女らしかった。 「具合はいかがですか?」 「ちょっとまだだるいけど、熱は下がったみたい」 「昨日はおつらそうでしたから…薬が効いたみたいでよかったです」 「お粥をお持ちしましたので召し上がってくださいね」と布団の脇に腰をおろし、手にしていた盆を僕の傍へと置く。 屈んだ際に覗いた胸元は、暗めの色合いの着物も相まって病人の自分よりも白く映った。 そう言えば彼女は普段から色の白さが際立つ。 炊事だけでなく洗濯や買い出しにだって行っているはずなのに、彼女の肌は日々日に晒していることを感じさせないほど美しい。 横になったまま見上げたその首筋には、何故か無性に紅が映えると思った。 食事の支度を進める彼女を視界に入れながらも、手は無意識のうちに彼女に触れようと動く。 ほんの少し手を伸ばせば、彼女は僕の、僕の腕の中に。 そうすれば、あの白に、僕の跡をつけられるだろうか。 「総司、具合はどうだ」 しかし伸ばした手は何もつかむことなく、来訪者によって行き場をなくした。 「土方さん・・・」 深紫の瞳は背を向ける彼女を通り越してまっすぐと僕の瞳を射貫く。 自分がしようとしたことが見透かされているようで、幾分軽くなっていた気分は一気に悪くなる。 「副長、後で様子をお伝えすると言いましたのに」 「直接みたほうが早いと思ってな。総司の風邪がうつるといけねぇ。そいつが食ったら早く戻れよ」 「やだなー土方さん。人を疫病神ものみたいに」 「似たようなもんだろうが」 せっかくの彼女と二人の空間はいともあっさりと壊された。 土方さんの場合はそれが意図的なもの以外の何ものでもないように思えて、ひどく不愉快な気分だ。 こんなところで似たくないのに、こればかりは嫌と言うほど彼の気持ちがわかってしまう。 同じだと思いたくないけれど、同じだからこそわかってしまう。 彼女だけに向けられた、特別な気持ちが。 *** 「では沖田組長、また後ほど様子を見に参りますね」 結局土方さんは僕が食べ終わるまでその場を動こうとしなかった。 けれど、はじめに声をかけてからは僕と彼女の会話に混ざることもなく、ただ部屋にいるだけだった。 「もう土方さんは来なくて良いですからね」 「それだけ軽口叩けりゃもう平気だろ。頼まれたってくるか」 「ふふ、お二人は本当に仲がよろしいんですね」 「「どこが」」 「では」と、彼女は土方さんと共に部屋を跡にしてしまった。 悔しい。 どうして彼女の隣にはいつも彼が立つのだろうか。 どうして、さも当然のように、そこに立ってしまうのだろうか。 とれていたはずのだるさと共に、黒く渦巻くものが身体を蝕んでいくようで。 僕はそれから身を守るかのように布団の中に潜り込んだ。 どうかこの想いが酷くなる前に。"みんな"の彼女を、まだ許せるうちに。 一体いつまで僕の心は持つのだろうか。 自分の身体を蝕む病と共に、日に日に心も、黒い影に蝕まれているようだった。 彼女はそれでも、受け入れてくれるだろうか。 あの暖かな微笑みを向けてくれるだろうか。 例え僕が、 (人ならざるものになったその時も) ←back |