君から広がる世界 | ナノ

 07

「ちょっと真崎氏、一体いつそんなことになったの。私そんな話一度も聞いたことないんだけど」

思わずう゛ぉ゛ぉおいぃとどこぞの鮫さんのような声をあげたくなる。
凪とは入部してから今年で3年目の付き合いとなるが、彼から沖田総司の影がちらついたことは一度もない。
同じクラスだから普通に友達なのは理解できるが、「仲が良い」という表現に引っかかりを覚えてしまうのは私だけではないはずだ。
アンナちゃんに聞いても似たような反応が返ってくることだろう。

世の中恐ろしいこともあったもんだ。


「今のクラスになってから体育で組む機会があってさー」


なんでも、春の体力測定時に(何故か)沖田と組むことになった凪は、文化部のくせに無駄に良い運動神経と持ち前の(適当な)性格でのらりくらりと沖田と(周囲から見たら)無茶苦茶な彼の測定作業を普通に協同。
気づけば意気投合までしていた(というか一方的に懐かれた)らしい。


「僕と組んで最後まできちんと付きあってくれたの、一くん以来だよ」


と、満面の笑みで褒め言葉なのか何なのか良くわからない言葉をもらってからは、何かと沖田と話すことも多くなったとか。


「じゃあいっそ気付かれる前に、凪から沖田総司に牽制かけてよ」

「それは無理だろうな」


あいつ面白そうなネタには容赦なく食いつくし、という凪の言葉に己の直感が当たっていたことを知る。
やっぱりあの嫌な笑みはそういうことだったのか。



二人で今後の打開策を考えるも、これといった案は思い浮かばない。

三人寄ればなんとかという言葉を信じ、アンナちゃんを召喚するべきか。
それとも沖田と直接対決をするか。
彼は斎藤くんへおこなったように、いらぬ誤解を生みそうなことをついうっかり(というかやつは意図的に)ふれ回りかねないし、何より面倒なのがそれが剣道部顧問の土方先生の耳に入ることだ。
今まで成績がいいが故にそこまで厳しく怒られることはなかったが、これを機に雷が落ちるに違いない。
きっとそんな事態も愉快犯沖田の思うつぼとなることであろう。
(土方先生以外には)良い子で通ってる私のスクールライフの危機だ。
それに凪だって巻き添えをくったらせっかくの優等生生活が…あれ、これさっきも考えなかったっけ?


そんな思考の堂々巡りに陥り、全くもって良い考えが浮かびそうにない中、凪がおもむろに口を開く。


「ここはさ、沖田をどうこうするよりも先にまず斎藤の方の誤解をといたほうがいいんじゃね?」

「そうかなぁ」


確かに誤解されたままなのは不本意だが、沖田と違って彼なら他人に触れまわるようなことはしないはずだ。
若干生暖かい眼差しをもらうこともあるだろうが、斎藤くんと関わるようなことは皆無なため、正直そちらの方は然程気にしていない。
(昨日の遭遇は例外中の例外な事態だったと思いたい。)

「でも斎藤くんの誤解を解くってことは怒られに行くってことでしょ?それはそれで嫌だな―」

どうせならなんとか怒られないで、かつ誤解も解ける方法を考えたいものだ。
(個人的には沖田のことさえなければ手帳のことは風紀委員のお墨付きをもらったも同然、万々歳だったのに。実に残念。)
やはりここは二人じゃなくて三人分の頭脳がほしい。



「あ、いいこと思いついた」

「?」


突然凪がひらめいた!というような顔をしたかと思うと、私についてくるように促す。
私は何処へ行くのかもわからないまま、とりあえず凪の後を歩くことに。
思い立ったら即行動なのはいいが、何をしようとしているかは教えてほしい。
そもそも今日は部活の日だ。
早く行かないとまたアンナちゃんに怒られてしまう。


「今日は当番だから多分まだいると思うんだけどなー」


ペタペタと上履きをならし、教室のあった階から昇降口のある1階へ。

教職員用玄関、用務員室、体育準備室を通り過ぎ凪が連れてきた場所は。



「……保健室?」


まさかこいつは私を山南先生の実験の生贄にでもするつもりなのだろうか。
(何でも山南先生はよく保健室で怪しげな飲み物を精製しているらしい。本人いわくスポーツドリンクだとか。年中青い春なテニス部の選手兼マネージャーですか)
その代わりに土方先生辺りに口をきいてくれるとか?
何て代償の高そうな取引だ。
そんなことをしたら平穏な学生生活と引き換えに大事な何かを失う気がする。

私の激しい脳内葛藤は凪には通じなかったらしく、彼はがらりと扉を開け保健室へと入っていく。

彼は保健委員会のため入室に抵抗はないだろうが、(山南先生のことも含め)超健康優良児の私には保健室は縁遠い場所。
非常に入りがたい空気が否めない。
本当にこんなところまで何をしに来たのだろうか。
もう昨日のことは全てなかったことにして一刻も早く部活に行きたい。


ドアの前で地獄への門(決定)をくぐるか否か思案していると、凪から声がかかる。





「名前ー早く入れよー。ちょうど山崎もいたからさー。」





誰ですか、山崎って。
prev / next

[ back ]

「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -