君から広がる世界 | ナノ

 06

時は流れてその日の放課後。
私は終礼とともに誰にもとまらぬ速さで教室を飛び出し、とある教室の前でHRが終了するのをまだかまだかと待ちかまえていた。
(私のクラスの担任は細かいことが苦手なのか、HRが短い。というか「じゃ、皆明日も元気で来いよー」の一言でほぼ終了する。風紀指導のことといい、適当にも程がある。)

途中、隣のクラス担任の先生が奇妙なものを見る目で通り過ぎて行ったがそんなことを気にする私ではない。
そう、例え親友に白い目で「目、血走ってるけど」と指摘されても…!

そんな悲しいことを思い返しても仕方がないので、気を取り直して「ヤツ」を捕まえられるようスタンバる。
ここで一つ言っておきたいのは、「ヤツ」というのは決して皆が期待している彼のことではない。
私が指す「ヤツ」は、彼と不幸なことに同じクラスの3年1組、保健委員会委員長で山南先生の手となり足と…まではなってはいないが、妙にマネジメントに詳しく、そして妙に成績が良い優等生、



「お、名前じゃん。誰待ってんの?あ、沖田?沖田呼ぼうか?」



我らが吹奏楽部副部長、真崎凪その人だった。


「ちょっと、真崎氏、空気読んでよ空気」


O田S司の名前は私にとって今一番のNGワード。
しかもここは彼も所属するクラス。何時何処からわいて出てくるかわかったものではない。
そしてこのクラスで出待ちをしている人が全て沖田待ちだと思ったら大間違いだ。
短絡的な思考回路に腹立たしさを覚えるも、今はそれより急を要する伝達事項がある。

凪を廊下の外れ、屋上へ向かう階段へとひっぱり辺りに人がいないことを確認してから昨日の顛末をざっくり語った。




「あー…要はあれか。斎藤はともかく、沖田に気をつけろってことか」


大方話し終えると、凪は私が危惧していた点を見事に汲んだ点をくんでくれた。
この辺は頭の回転が速くて大変助かるが、人の話を鼻をほじりながらきくのはどうかと思う。
顔はそこそこ良いにも関わらず、アンナちゃん同様実に残念な中身である。

つまりはこういうことだ。

私が手帳を拾われてしまったとき、自分が怒られることや(とばっちりで)凪にまで飛び火が行くことは想定の範囲内だった。
後者自体可能性は低いと睨んでいたが、見つかったのが風紀委員委員長だけでなくもう一人いたことが問題だ。

沖田総司。

昨日の彼の態度でわかったことは、あれは間違いなくこの状況を楽しんでいるということだった。
彼は私の手帳のカバーが男子用だと分かった時点で、誰かと交換したということに気付いているのだろう。
(斎藤くんをはじめとした風紀委員は注意するという点に思考をとられるため、そこまで頭は回らないだろうというのが私と凪の見解だ。)
頭から離れないあのしたり顔は、まんまと斎藤くんを誤解させられたことだけでなく、いい暇つぶしが見つかったことに満足した顔だった。
私の名前が割れてしまった以上、彼のネットワークから私の(数少ない)親しい友人の名前を導くことは容易なことのように思う。
しかも凪は沖田と同じクラス。
もう既に把握されているかも知れないが、彼の思い通りに暇つぶしの対象になるのは腹立たしくて仕方がない。


「それにしても斎藤もおもしろいなー。何でそこでそうなるんだか」

「…天然記念物にも程があるよね」

「普段しっかりしてるやつほどこういう時にとんだ思考回路するよな」


確かに。

斎藤くんもそうだが、ここにいる凪もその気があるように思う。
しっかりしているというのとは少しずれるが、凪と斎藤くんは先生や生徒たちの中では大変評判の良い生徒、優等生に分類される。
片や風紀委員会委員長で剣道部エース、片や保健委員会委員長で吹奏楽部副部長。そして二人とも成績優秀ときた。

しかし、それはあくまで表面上の話し。
斎藤くんは内実ともにそれこそ真面目に「しっかり」とした性格をしていると思う。
一方凪は、既にご覧の通り外面だけはいいが中身はずいぶんと適当な男である。
適当というか、ちゃっかりというか。
別にあえて隠しているわけではないのだろうが、その辺はぬかりないのか、斎藤くんほどのかたさがない人当たりのいい優等生として周知されているようだった。
誰もが鬼と恐れる土方先生にさらりと笑顔で対応できると聞いた時には、そのスキルを伝授してもらいたいと思ったこともある。
(その直後私がそれをやったら凪に大爆笑されるに違いないと気づきなんとか思いとどまったが。)
アンナちゃんや私、及び数人の吹奏楽部員はこいつのある意味良い性格を知っているので、正直周囲の評価は彼を過大評価しすぎだと思わなくもない。

凪は単に、恐ろしく頭が回るだけなのだ。
どうすれば自分がよくみられるか、どうすれば楽に世を渡っていけるか、そのあたりを計算する頭脳が、そして実行する行動力が伴っている。
そこが彼のすごいところで、時に突飛な考え方や行動をするのもこの辺に起因している気がする。
頭の回転が速い人は揃って突飛な考えをするというのは、凪だけでなく、昨日の事件で嫌というほど思い知った。
ただし考えに至るまでの経路が凪と斎藤では同じとは言い難いが。
ハリポタ風に考えると、組分の際斎藤くんはレイブンクロー、凪はスリザリンに入寮するに違いない。(そして沖田も。)
きっと各々方向性が違う監督生辺りになるのだろう。
……私はもちろんハッフルパフ入寮希望である。
何が悲しくて年中ハプニングの起こるグリフィンドールを自ら選ばなければならないのか。
(でも寮監はスネイプ先生希望で。土方先生に対抗してくれないかな、ホント)


話が軌条を逸れたが、今は沖田の魔の手から如何に逃れるかが課題だ。
彼がどれほどの悪知恵を働かせるような人物かは定かではないが、私の本能があれは厄介だと知らせている。
(アンナちゃんにも沖田の土方先生に対する暴挙の数々を先程聞いたばかりなのもあるし。)


「とりあえずカバー元に戻しとく?」

「えー…ピンクって好きじゃないんだよね、本当に」

「でも何時沖田が『御用改めでござる!』とか言って俺の生徒手帳奪うかわかんないぞ。俺あいつと仲いいし」



………………。



今想定外の言葉が聞こえたのは気のせいだろうか。



「え、なんて?」

「…『御用改めでござる!』?」

「いやいや、そのあと」




「あー……


『俺あいつと仲いいし』?」





そういうことは先に言ってくれ、真崎氏。
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