君から広がる世界 | ナノ

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7月に入っても物憂げな雨模様のこの季節、カレンダーを見れば嫌でも直視しなければいけない事態が現前とし、陰鬱な気分を増長させられる。


期末考査。


それは学生という身分の我々にとって長期休みの前に避けては通れないイベント。
大体だれだ、テストに中間とか期末とかつけて回数増やしたの。
一回当たりの分量は減るよと言われても嫌なものは嫌である。
だいたい一教科当たりの量は減ったところで科目数が多ければ意味がない。

しかも薄桜高校はこのあたりでは名の知れた進学校のためか、尋常ではない速度で授業が進んでゆく。

もちろんそのスピードを苦としない優秀な生徒もいるが、それは実に稀であり、この高校では追試がかなりの生徒に対して行われてしまうという何ともよくわからない伝統を有していた。
(平均点が低いというよりは赤点基準の点数が高いのがその要因であることを付け加えておく。平均点以下は問答無用で追試なのだ。)
中間では行われないのだが、期末の追試の前には予備授業という名の補習が行われる。これには通常のクラス人数に照らしあわせると半数近くが参加しており、正直なところ周囲の雰囲気は普段と変わらないらしい。(もちろん赤点の科目だけ出ればよいのでクラス自体は科目別になってはいる)
しかしこの予備授業、これだけの生徒が参加する中普段と同じ授業をしているだけで生徒の点数が上がるわけがない。
先生もいつもよりは人数が少ないため一人ひとりの様子をみて回ることは回るのだが、それだけでは細かく対応しきれないのが現状である。

故にこの補習では、先生のほかに2人のTA(ティーチィングアシスタントの略らしい)がつくことになっており、追試対象者の名前とともにこのTA対象者もテストの結果とともに掲示されるのだった。



「あー…俺やっぱり数学あたってるわ。数Vと数C。名前は?」

「いやー今回はあたってないと思うけどなぁ。前回先生に泣きつかれて3教科もやったんだよ。現代文と日本史と何故か1年生の地理。

 アンナちゃんはどうだった?」

「わたしは見事に補習もなければTAもないわね」

忘れたいくらいの面倒くさいテスト期間もあっという間に終わり、結果が貼りだされたのはテストから2日後。
私はアンナちゃんと凪との3人で、掲示板前に立っていた。

そこにはテストの点数も順位も貼りだされているのだが、それよりも私たちにとって気になるのは補習者とTAの情報だった。

自慢ではないが私も凪も試験では毎回何とかTOP10位に入ることができており(凪が優等生優等生うるさいのはこれが理由なのもある。しかし本当に優秀な生徒は自らそんなことは言わないであろう。)、そのせいか頻繁にTAをやらされるのだった。
ちなみにアンナちゃんは決して頭が悪いわけではなく、彼女の場合はある意味賢いもので、追試対象者にならないことはもちろんTAにもならないような微妙なラインの成績を保っている。(もっと頭がいいに違いないのに…)

そう、正直なところ、TAなんてなってもろくなことはない。
先生にはこきつかわれるし自分の時間はなくなるし踏んだり蹴ったりだ。


「あ、名前の名前あった」

「ほんとだ」


どうせ自分の名前はないだろうと順位の方の掲示板へ向かおうとすると、凪とアンナちゃんが私の名前を見つけてしまった。
…あっても遁走しようと思ったのに。

仕方がなく二人の視線の先を追い、自分の名前と担当科目を確認する。

私の名前があった場所、それは今までTAを行ったことのない科目だった。


「…私帰っていいかな、もう」

「あきらめろ、放課後TAは担当教科の先生のとこに行くんだぜ」

「生徒にもそうだけど、TAにも厳しそうね。ま、頑張りなさい」


これなら今回も日本史あたりのTAをやるため自己申告でもしておけばよかった。

決して嫌いな科目なわけではない。
ただ、先生が若干苦手なのだ。
まぁそれはおそらく私の授業態度に起因するのだが、そのためもあってか私は今までこの科目のTAに当たったことはなかった。

なのに、このタイミングで。


「…なんで古典のTAにあたるかなぁ…」


しかも補習担当は案の定私のクラスの古典も担当する土方先生。
これは補習者が怒られる前に私が怒られそうである。

一体何が理由で私が古典のTAをやることになったのだろうか。


「いや、そりゃおまえ、毎回古典1位じゃん」
 
「…」


私の脳内を見透かしたように凪のコメントが。(そして何故そんなことを一々覚えてるんだこいつは…)
大変不本意ではあるが、凪の指摘通り私はこの高校に入ってから古典だけは毎回1位、ほぼ満点を取り続けていた。

古典も土方先生も特段好きというわけではないが、得意なものは得意なのだ。
…こんなこといったら校内の土方先生ファンと勉強熱心な子に怒られそうだな。

毎回こんな好成績をたたき出していたら嫌でもTAをやらされるのは関の山。
しかし私の場合は、古典の授業態度がどうも土方先生のお気に召さないらしく、因果関係は不明ではあるが、TAにはなったことはなかった。
もっとも優秀な生徒が他にもたくさんいるということもあるし、噂によると土方先生のTAポジションは地味に人気らしい。私には理解不能である。

そういえば、いったいそんな人気なTAポジションのもう一人は誰だろうか。

私は自分の名前の隣に書いてある文字に目を移した。



3年3組 斎藤一



…どうやら私は、斎藤くんと仲良くTAをやらされるようだ。
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