■ おまけ

人込みをすり抜け辺りが見渡せる場所に着いたころには、すでに色とりどりの花火が空にあがっていた。
毎年響くような音だけをきいて花火を見た気になっていたが、実際に頭上に広がる光景に息をのむばかりだ。



「…綺麗だね」

「ああ」



二人とも口数は多い方ではないため、少しのやり取りの後はお互いに無言で空を見上げる。

離れた場所では、花火をみに集まった人たちが大きな華が開くとともに歓声をあげるが、それでも私たちはじっと空を見つめたまま。
集中してしまうと周りが見えなくなってしまうのは二人の悪い癖ではあるが、今だけはこの場に二人だけでいるような錯覚をさせるのに役立っていた。




しばらく眺めているうちに一際大きな音と数の増えた花火に、終わりが近いことを知る。

そろそろ戻らなければと横目で一くんをみると、相変わらず空を見上げたまま。
このまま置いて戻ってもいいのだが、ここにいる間ずっと握りしめられた手がそれをさせてくれそうにない。

見入っているところに水を差すようで心苦しいが、私は握る手に力を込め、その腕をくいっとひっぱった。



「…戻るのか」

「うん。ごめんね、これからがいいところなのに」



いや、と首をふり一くんは戻ろうと来た時と同じように私の手をひき歩き出す。
一人で戻れると言っても近くまで送ると頑なな一くんに、あきらめ主導権を委ねる。



「一くん、去年も部活の人たちとお祭りに来たの?」

「いや、来たのは今年が初めてだ。昨年行くのを断ったのを皆が覚えていて…随分と前から絶対あけておけと念を押されたんだが」

「私といて、よかったの?」


今更な質問だとは思うが、折角友人と来ている中メインイベントである花火にいないとなると、がっかりした子もいるのではないだろうか。
藤堂くんなんか嬉しそうに話していたし、先生も一緒となると勝手にフェードアウトもしにくいに違いない。





「もともと祭りだけ、という約束だったから大丈夫だろう。
 




 それに、花火をみるときは渚と一緒がいいと思うのは昔から変わらないからな」
 








「…一くんって、たまに恥ずかしいことさらりと言うよね」






赤くなった顔を見られたくなくて拗ねたように俯き零した言葉。

私の顔は彼からは見えないだろうが、繋がれた手の体温からどんな表情になっているかは想像に難くない。



隣で一くんが笑ったのを感じた私は、ひかれていた手を反対にひき返し人込みの中を進んでいった。



「もう、一くんも一緒に怒られてもらうからね!ついでに手伝いも!」



ごまかすような私の声に更に笑った一くんは、「渚の家族に会うのは久しぶりだな」と嫌な顔せず隣に並ぶ。



「お父さんも妹も会いたがってたよ」

「それは光栄だな」

「あんまり久しぶりだから誰だ!?って言われちゃうかも」

「…そんなに時間がたってたんだな」



そうだね、と返した私も思わずしみじみしてしまうが、会話は数年前と全く変わらないテンポ。

それが何だか嬉しくて、一くんに不思議がられるのも構わず、私は店までの道中を大きく手を振って歩いたのだった。それこそあの頃と変わらないように。





今度友達に会ったら一緒に話したいな。





今年は私も花火見たんだよって。


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本当はここまでで終わりだったのですが、上手く繋げられずおまけになりました。
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