03
「名前ちゃん、何だか今日はいつもと雰囲気違うね」
「いつもは綺麗で大人って感じだけど、今日は可愛いって感じ」と笑う彼女に、一瞬自分の心境を見透かされてしまったのかと思う。
「…きっと私服だから違うように見えるだけだよ」
それに可愛いのは、と口をつきそうになった言葉を飲み込む。
やんわりと彼女に微笑むと、やっぱり可愛い!と抱きつかれる。
今日は、私と彼女、そして沖田くんと斎藤くんの4人で、遊園地に行くことになっていた。
待ち合わせ場所に早く着いた私と彼女は、二人がくるまでの時間をこうして待っていたのだった。
私のことを「可愛い」と言った彼女だったが、私よりも何倍も可愛らしい。今日という日を心待ちにしていたのは、昨日までの様子でよくわかっていた。
好きな人と、斎藤くんとともに遊びに行けるのがよほど嬉しいのだろうということがヒシヒシと伝わってきて、自分がこの場にいることが申し訳ない気分になってしまう。
けれどこれは、沖田くんが私にくれた最後の機会なのだ。
ここ数日をふり返り、二人がくっつくのも、時間とそしてきっかけの問題だろうと思った。
そして今日が、そのきっかけになる予感がした。
だから、今日でおしまい。
私が斎藤くんを好きなのも、そして斎藤くんに想いを伝えられるのも、今日を逃すと二度と訪れない。
***
「僕らはともかくさ、本当に一くんと名前ちゃんって遊園地って感じじゃないよね」
4人という人数はこのような場所を回るには丁度いい。多すぎず少なすぎず、「仲良く」回るにはうってつけだ。
けれども正直なところ、沖田くんの指摘通り、私はこのような場所には馴染みがなく、また斎藤くんもそうであるようで、完全に回り方は沖田くんと彼女に任されていた。
ではどうして行き先に遊園地を選んだのかと思うが、そもそも誘ってくれただでも彼には感謝しなければならない。
「名前ちゃん、大丈夫?少し疲れちゃった?」
隣を歩く彼女が心配そうに顔に声をかけてくれる。
確かに普段は好まない人込みに長時間いたせいか、徐々に口数が少なくなってしまったかもしれない。
不安にさせてはいけないと口を開こうとすると、私よりも早く沖田くんが動いた。
「一くんもさ、ちょっと疲れたんじゃない?」
「いや、そうでもないが…」
「僕らはあっちのアトラクション行ってくるから、二人で少し休んでなよ」
彼はそう言うと有無も言わさず彼女の手を引っ張り、あっという間に人込みの中へと消えていった。
それを止める元気が残されていなかったために見送ってしまったが、斎藤くんが何も言わなかったのが意外だった。
いや、止める暇さえなかったのが正解だろうか。
事実、私たち二人は彼らの姿が見えなくなるまで、ぼんやりと立ったままとなってしまった。
「名字はここで待っていてくれ」
二人でそのまま立っている訳にもいかないので、あいているベンチを見つけそこに腰かけようとすると、斎藤くんは「飲み物を買ってくる」と近くのショップへと足を向けていった。
一人座って息をつく。疲れてしまったのは本当かも知れない。
初めての場所に、初めての、しかも好きな人との休日。"あの子"と同じように、楽しみにしていたのは私も同じだ。
本当に、夢のような話。
けれども、楽しさよりも、まるで話した初めのころのような緊張が、今日一日は私を取り巻いていた。
これはチャンスなのかもしれない。
沖田くんが彼女を連れていった今、ゆっくりと斎藤くんと話せる機会は今しかない。
「一くんはきっと正面から受け止めてくれる」
沖田くんの言葉は、私の背中をおしてくれた。
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