01
私と"あの子"は1年生の時からの友達だった。
誰にでも気遣いのできるや優しい子で、それでいて自分の芯をしっかりと持ち行動のできる子だった。
クラスの子がそうであったように、私も例外なく彼女に好感を持った。
きっと彼女のことを好きにはならずとも、嫌いだと思う人などいないのだろう。
そう思えるほど、本当に素敵な子なのだ。
一方の私は、彼女とは異なる意味で好きだと思ってくれる人もいなければ、きっと嫌いだと思う人もいない、つまり誰にも関心をもたれないくらいひっそりと、地味にクラスにいる生徒だった。
だからどうしてクラスの皆に好かれるような"あの子"が、私と仲良くなり、今に至るのか不思議に思うことがあった。
けどそんなことは今となってはどうでもよくて、私はただただ彼女が隣にいることを幸せに思った。
そんな彼女から、自分がマネージャーを務める部活の一人を好きになったと聞いたとき、その名前を聞いたとき、私の胸中に芽生えていた気持ちは、そのまま成長させることなく枯れさせることを決めた。
私の好きな彼と私の好きな"あの子"。
その二人が想いあっているのなら、舞台にのぼる必要のない人は誰かわかるでしょう?
***
「ねぇ、一つ提案があるんだけど」
ランニングが終わった剣道部の人たちが剣道場へ戻るのを見届けた後、しばらくの間黙っていた沖田くんが私に向かって話しかける。
今までの独り言のような言葉ではなく、はっきりと私に向けられた言葉。
二人の仲を取り持たない?
それは悪魔の囁きのようだった。
「このことは一くんにも"あの子"にも言わない。その代わり、二人をくっつける協力をしてよ」
いい加減もどかしいんだよね、あの二人。
そういい笑う沖田くんは相変わらず冷めた瞳をしているように映る。
彼の目が、言葉が、私の小さな心を抉るようだった。
これ以上、彼の言葉を聞いてはいけない気がした。
けれども同時に、心のどこかで何かのきっかけを必要としていた自分がいることに気付いてしまった。
「それに名前ちゃんさ、いずれはそうするつもりだったでしょう?そうして、自分の気持ちを消すつもりだったんでしょう?」
沖田くんの、言うとおりだ。
それでも返答できなかった私に、無言は肯定と受け取ったのかかまわず続ける。
「だったら、最後くらい少しだけでも夢を見てみたいと思わない?」
一くんと話してみたいと思わない?
「…え…?」
思わぬ言葉に声が漏れた。
その口から提案された言葉に、疑問に思うことは色々あったけれど口を突いて出てきたのはたった一つの疑問だった。
「どうしてそれを、私に?」
彼のことを慕う生徒なんて、両手の指を超えるほどいるに違いない。
私が"あの子"の親友だからといって、沖田くんと私には何の接点もなく、私はともかく、彼が提案する理由が見あたらなかった。
そんな疑問が表情に出ていたのだろう。
沖田くんは私の表情を確認すると、先程の様子とは打って変わって柔らかい笑みを浮かべる。
それはもう綺麗な、他に想う人がいなければ間違いなく心が動いてしまうような笑み。
そしてその顔から紡ぎ出された言葉も、心をときめかせるには十分なものだ。
少なくとも、私でなければ。
「僕、君のことが好きなんだ」
prev /
next