01
「また一くんをみてるの?名字名前ちゃん?」
校庭に意識を向けていたため、突然かけられた声に私は驚き、後ろを振り返る。
いつからいたのか、教室のドアにもたれかかるのは一人の男子生徒。
向こうは私を知っているようだが、覚えている限り私は彼と面識はなかったはずだ。
しかし相手と同じように、私は彼の名前を知っていた。斎藤くんとよく一緒にいるその人は、この学校では有名な人だった。
「…沖田、総司、くん?」
「正解。一くんにしか興味ないのかと思ってたけど、僕のこと知ってたんだね」
沖田くんはそう言うと私の隣に並び、同じように視線を外へと向ける。
「ふーん。結構遠いけど、確かにここからだとよく見えるなぁ」
飄々とした彼とは裏腹に私は頭の中が真っ白で、その場から動けないどころか、隣に立った彼に声すらかけることが出来なかった。
「…なんで知ってるのって顔だね」
固まってしまった私を横目に、相変わらず外を向いたまま沖田くんは意地が悪そうに私に話しかける。
私が知る彼は、友人から話をきくそれよりも斎藤くんと共にいる姿の印象が強く、その時の彼は今目の前にいる「彼」よりももう少し人が好きそうな笑みをたたえていたはずだ。
私の横に立つその人は、私だけでなく他の誰も見たことのないような冷めた瞳を誰に向けるでもなく宿していた。
沖田くんは何も返さない私を気にする様子もなく、まるで独り言のように呟く。
その言葉は、私が目を背けていた現実を直視させるものだった。
「一くんは、"あの子"が好きなんだよね」
「そして"あの子"も」
一くんが好きだ。
「…知ってるよ…」
だって彼女の隣にずっといたのは、私なのだから。
かろうじて絞り出すことのできたその声は、自分でも惨めになるほど掠れていた。
彼がこちらに顔を向けた気がしたけれど、私はその目をみることができず、先程までの沖田くんの様に視線を外へと向ける。
ここ最近毎週眺めているその姿。
この部活動の時間は私にとって至福の時間であったけれど、同時にこの想いを早く葬らなければと思わせる時間でもあった。
「ここから見ると、結構わかりやすいものなのかもね」
あぁ、沖田くんもそう思うのか。
でも本人たちは、きっとお互い一方通行だと思っている。
いつの間にか剣道部のランニングは終わっていて。
私たちの視線の先には、並んで立つ、二人の男女の姿があった。
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