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ああ、今日もかっこいいな。
人を数人はさんだ距離ですれ違う。
本当に、本当に一瞬視線を送りその表情を盗みみる。
いつもよりも穏やかな表情なのは、昨日で全校一斉の風紀検査がひと段落したからだろうか。
斎藤くん、斎藤くん。
名前を覚えてなんて言いません。
存在を知ってなんて望みません。
だから、あなたを想うことは許してくれますか?
1.にんぎょひめの幸せを祈った
週に2回、私には恒例となっていることがある。
誰も通らない廊下に並ぶ空き教室、その一部屋から校舎の外を見降ろす。
今は部活動を行う生徒しかいない時間帯。
各活動をする生徒たちが動きまわる校庭の1点に目を留め、軽く隠れるように窓枠に腕をかけ、今日もその光景をじっと見つめた。
サッカー部やラグビー部など、外で活動することを主とする部活に交じりひときわ目を引く部活。
毎週火曜日と木曜日、その日は剣道部が屋外ランニングを実施する日だった。
「(…いた…)」
私がここから校庭を眺める理由。
それは不純なものに違いなくて、こうやって遠くからその姿を追うことしかできない。
私は剣道部の斎藤一くんが好きだった。
彼とは同じクラスでもなければ知り合いでもなく、好きになった理由は本当に些細なものだったけれど、いつの間にか視界に入ると目を留めるようになり、今では人によっては嫌がるような方法をとってまでその姿を追っている。
でも、それだけ。
彼と話してみようとは、思わなかった。
だって彼には慕う人がいるから。
私と同じように、彼も"あの子"と必要以上に近づこうとしないから。
だから私はこのままでいいのだ。
斎藤くんと仲良くなって、こちらをみてほしいとは思わない。
同じ舞台に立つ以前に、私はそこに立つことすらできないのだから。
斎藤くんは別の舞台に立つ人。私の世界からは届かない人。
そう思えば見てるだけで幸せになれるし、こう思える。
『斎藤くんが幸せなら、それでいい』
例え斎藤くんの視線の先にいる"あの子"が、私の親友であっても。
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